【山田勝治氏×松岡亮二氏】 教師が学ぶべき教育格差とは

 コロナ禍は「教育格差」を浮き彫りにし、その深刻さを教育関係者に突きつけた。教育格差は今後、これまで以上に学校教育が対応すべき課題となるだろう。教師はこの現実とどのように向き合い、その連鎖を断ち切るために教育現場で何に取り組むべきなのか。

 ゲストに、「反貧困教育」など独自の学校改革に取り組み、教職員が一丸となって教育格差の問題に向き合ってきた大阪府立西成高校の山田勝治校長と、膨大なデータを用いて教育格差の実態と生成メカニズムをさまざまな角度から分析してきた教育社会学者の松岡亮二早稲田大学准教授を迎え、現場とデータの両面から教育格差を巡る課題や具体策について考えた。全3回の1回目。(司会・教育新聞編集長 小木曽浩介)

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「生まれ」によって結果に差がある

——まず、「教育格差」の定義と現状について、教えていただけますか。

松岡 本人に変えることができない初期条件である出身家庭の社会経済的地位、出身地域、性別などの「生まれ」によって、学力や学歴といった結果が異なることを意味しています。

 出身家庭の社会経済的地位には、さまざまなものが含まれています。研究では父親の職業や父母の学歴などを主に用います。このような社会的、経済的、文化的な地位を示す指標は相互に重なっているので、例えば、親の職業や学歴の代わりに世帯収入であったり家庭の蔵書数であったりといった別の指標を用いても、相対的に有利な人と不利な人の間の格差を確認することができます。

データを用いて教育格差を分析してきた松岡准教授

 また、地域格差もあります。出身地域が三大都市圏や大都市部だと、その他の地域と比べると、より大卒となる傾向があります。

 さらには、性別による格差もあります。分かりやすい例を挙げると、東京大学は女性の合格者が過去最多になったとはいえ21%ですし、短期大学の学生の大半は女性です。

 教育格差は、2000年代以降の新自由主義的政策に対する批判の文脈で語られることが多いので、最近の話だと思われるかもしれません。しかし、データでみると、戦後日本で育った全ての世代で「生まれ」による結果の差はあります。

 また、教育格差はどの社会でも確認できます。日本は先進国の中で特に教育格差が特別に大きいわけでも、小さいわけでもありません。日本は「凡庸な教育格差社会」です。

教育格差は「是正」されるべきもの

——こうしたことを踏まえて、教師が学ぶべき教育格差についてどのように考えていますか。

山田 特に大阪では教育格差について考える機会も多く、大阪の学校関係者にとって教育格差は、単なる差ではなく、「是正」されるべきものだという意識があります。

 また、大阪では教育格差の是正を考える時に、教育と福祉の連携が必要だと盛んに言われています。「教育」とは、より良くなろうとする営みですし、「福祉」とは、その前提になることをイコールにしていこうという営みです。教育と福祉の連携は、なかなか難しいことです。しかし、この先、教育格差を考える上では、教師はもっと福祉のこともしっかり学んでおく必要があるでしょう。

山田校長は「教師はもっと福祉についても学ぶ必要がある」と訴える

 教師という職業は、学校や勉強が好きだった人がなる職業でもあります。でも、教育格差に苦しむ児童生徒たちには、学校や勉強が嫌いな子も多い。なぜかというと、勉強で褒められたことや達成感を得られたことがないからでしょう。だから特に教育格差に苦しんでいる層が多い学校に赴任した時には、「自分は一体何者なのか?」ということが問われます。

 単に知識でもって児童生徒を支配する権力者になっていないか。「勉強嫌い」な彼らと、どう学校の中で一緒に学習していくのか。そのとき教師とは、「一体何者なのか」。もう一度、それらを問い直してみることが大切です。

松岡 公立校がなければ親の社会経済的地位が子に引き継がれる傾向が強くなるはずです。出身家庭の社会経済的地位、出身地域、性別といった「生まれ」によって教育達成に差が出ないように、全ての子どもに標準的な機会を付与することが学校教育には期待されています。

 山田先生のご指摘のように、学校文化と親和的な人が教師になってきたと考えられます。学校教育に疑問を感じる日々だったからこそ、変革のためにあえて教職を選んだ方もいらっしゃるかもしれませんが、基本的には学校教育に違和感を覚えないまま育って、職場として学校に戻ってもよいという人が多いのではないでしょうか。小中高の年齢層を対象とした教員は約100万人いますが、日本全体の労働力人口は5000万人を超えます。多くの人は少なくとも児童生徒として教師がどんな仕事か知った上で、選んでいないことになります。

 日常的に会話しているのは同じ教師が多いかもしれませんが、勉強が苦手ではないことや学校が好きというのは、社会全体からみると「ふつう」ではないといえるわけです。教職を選んでいる時点で「自分はやや特殊なのかもしれない」と考えてみることは、勉強や学校が好きではない子どもや保護者と対話する際、重要なはずです。

 例えば宿題をやってこない、授業に集中しない子どもがいたとして、脊髄反射的に「指導」してもよい結果にならないのではないでしょうか。勉強で成功する体験を重ねてきていない子たちが興味を持てなかったり、授業中に望ましい言動をしなかったりするのは不思議なことではありません。

 大学に行くにしろ行かないにしろ、労働市場の変化に伴って、働きながら知識と技能を身に付け続けることが求められます。子どもたちが最後の学校を卒業した後も学習を継続できるように、小中高のうちに、「勉強してこれができた」「楽しかった」「違う自分になれた」という成功体験を積み上げる手助けが重要ではないでしょうか。

山田 松岡先生がおっしゃるように、そこのところが一番大事ですね。教育格差に苦しんでいる生徒たちに、勉強嫌い、学校嫌いは多いので、本校で生徒に伝えているのは「勉強嫌いでいいから、学校を嫌いにならないで」ということです。

 学校を嫌いにならなければ、きっとチャンスがあって、面白い勉強もきっと見つかる。やってよかったということも必ずあるはず。また、必ずそれを経験できるようにすることが学校の役割なのです。

 そのためには、教師は生徒の背景や、家庭の背景も含めて、しっかり理解する必要があります。今まで「それは教師の仕事じゃない」と言われていました。しかし、それを理解することで、初めて次に進めるのではないでしょうか。

(企画・構成 松井聡美)


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【プロフィール】

山田勝治(やまだ・かつじ) 大阪府立西成高等学校校長。1957年、大阪市西成区生まれ。1990年から2004年までの15年間、「成人識字」教室の運営に関わる。05年、西成高校に教頭として赴任。09年から13年3月まで同校校長を務めた後、異動。17年、同校校長として再赴任。「基礎教育保障学会」所属。著作に『格差をこえる学校づくり 関西の挑戦 阪大リーブル』(志水宏吉編、大阪大学出版会)内の第2部『「先端でもあり、途上でもある」—高校版「UD化」計画—』、『わたしたち(西成)は二度「消費」された』(ヒューマンライツ2019年9月号)。また同校で、全国で初めて開始された「校内居場所カフェ」について、『学校に居場所カフェをつくろう!-生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援』(居場所カフェ立ち上げプロジェクト編著、明石書店)内で、『「となり」カフェという企(たくら)み—ハイブリッド型チーム学校論』を執筆。

松岡亮二(まつおか・りょうじ) 早稲田大学准教授。ハワイ州立大学マノア校教育学部博士課程教育政策学専攻修了。博士(教育学)。東北大学大学院COEフェロー(研究員)、統計数理研究所特任研究員、早稲田大学助教を経て、同大学准教授。日本教育社会学会・国際活動奨励賞(2015年度)、早稲田大学ティーチングアワード(2015年度春学期・2018年度秋学期)、東京大学社会科学研究所附属社会調査データアーカイブ研究センター優秀論文賞(2018年度)、WASEDA e-Teaching Award Good Practice賞(2020年度)、早稲田大学リサーチアワード<国際研究発信力>(2020年度)を受賞。著書『教育格差:階層・地域・学歴(ちくま新書)』は、1年間に刊行された1500点以上の新書の中から「新書大賞2020(中央公論新社)」で3位に選出された。13刷・5万5000部突破(2021年8月時点)。近刊に松岡亮二編著『教育論の新常識-格差・学力・政策・未来 (中公新書ラクレ)』(2021年9月8日刊行)、中村高康・松岡亮二編著『現場で使える教育社会学:教職のための「教育格差」入門』(2021年10月刊行)。

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