【北欧の教育最前線】 ノルウェーの「小1プロブレム」

 ノルウェーでは8月下旬から新年度が始まったが、南オーダル市の学校が新1年生の保護者に配布した学校案内が物議を醸している。問題の資料には、校内のさまざまな場所を写真で紹介し、その場所で児童が守るべきルールが記されていた。例えば、「休み時間の後には先生と一緒に列を作る」「自分の席に静かに戻る」「自分が使った後は片付ける」といった内容で、計46個あった。

 保護者はこの案内に強く反発した。ある保護者は「初めて学校に行く日は、面白くてわくわくするものであるはず。そうではなくて、このようなルールブックを送ってきたことに、がっかりした。焦点がずれている」と話した。

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幼稚園文化と就学準備

 ノルウェーでは、1歳から5歳まで幼稚園(幼保一体化された施設)に通った後、6歳から小学校に入るのが通例だ。就学年齢はもともと7歳だったが、1997年に引き下げられた経緯がある。

 就学年齢の引き下げ当初は、6歳児(1年生)の教室では幼稚園と小学校の良いところを組み合わせた教育が目指されたため、読み書きも学習しなかった。しかし2000年以降、国際テストでの成績不振などを背景に教育改革が行われ、1年生から読み書きを学び、さらに小学校へのスムーズな移行のため、幼稚園における就学準備活動も強調されるようになった。

新1年生の登校初日の様子。この県では交通安全委員会から全員に無料でランドセルが配られる

 ノルウェーの幼児教育・保育は、英米圏などに見られるような就学準備型に対して、遊び・学び・ケア・発達を包括的に捉えるホリスティック型の伝統をもつため、学校文化との違いも大きい。そのためスムーズな移行の実現はなかなか難しいことが推察され、国や自治体、各幼稚園や学校レベルでさまざまな取り組みがなされている。

 国レベルでは、法律やナショナル・カリキュラムに幼小接続が位置付けられていたり、教育省が幼小接続のガイドを発行していたりする。ガイドでは、スムーズな移行のためには、子供を中心に据え、幼稚園、小学校および学童保育、保護者間のコミュニケーションと協働が重要であるとされている。

スムーズな移行の模索と両義性

 しかし、良かれと思ったコミュニケーションが、かえって誤解や反発を招いてしまうこともある。南オーダル市のケースは、学校側が、子供たちに早く学校生活に慣れてもらえるよう、丁寧なコミュニケーションをとろうとした試みだった。校長は「写真とともに、児童に身に付けてほしい習慣を記載した」「私たちは児童全員に学校で楽しく過ごしてもらいたいと思っている。これらの習慣は、良い学校環境を全ての子供に保障するためのものだ」と説明する。しかし意図に反して、保護者には一方的な押し付けと捉えられてしまったと言える。

 幼稚園と小学校は2つの異なる文化をもつ。そして、保護者もまた、それぞれに対して異なる期待を持っている。幼稚園における就学準備の活動がうまく行くケースもあれば、過度の「学校化」と批判されるリスクもある。小学校における受け入れがスムーズに行われる場合もあれば、押し付けと捉えられてしまうこともある。国レベルでは協働とコミュニケーションが重要と言われるが、現場では合意形成の過程でミスコミュニケーションや行き違いも起こりうる。

 しかし、重要なのは、子供がこの移行における主人公であるということだ。子供にとって最善の幼小移行はどのようなものなのか、関係者間の協働と対話を通した模索が続いている。小1プロブレムは、子供を取り巻く大人たちの問題でもある。

(中田麗子=なかた・れいこ 東京大学大学院教育学研究科特任研究員。専門は比較教育学) 


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