【山田勝治氏×松岡亮二氏】 教育格差の是正に学校が果たしている役割

 教育格差をテーマに、ゲストに「反貧困教育」など独自の学校改革に取り組み、教育格差の問題に向き合ってきた大阪府立西成高校の山田勝治校長と、膨大なデータを用いて教育格差の実態と生成メカニズムをさまざまな角度から分析してきた、教育社会学者の松岡亮二早稲田大学准教授を迎えた対談。コロナ禍という世界的な混迷や、個別最適な学びの実現、GIGAスクール構想などの教育施策が、今後「教育格差」にどのような影響を与えるのかを語り合った。全3回の2回目。(司会・教育新聞編集長 小木曽浩介)

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学校がなければ教育格差は拡大する

――学校教育が教育格差の縮小、もしくは歯止めに果たしている役割について、どう考えますか。

 山田 われわれの世代が子どもだった頃は、学校は輝いていたと思うんです。例えば、家にはないカラーテレビやパソコンなどが、学校にはありました。学校とは、日本の文化を体現している場所でもあり、学校を通じて格差が縮小していった感覚がありました。

 それが、今やどんどん学校は陳腐化していると思いませんか。家にあるパソコンよりもスペックの低いパソコンしかないし、家には必ずあるエアコンが、学校では限られたところにしかありません。そういう意味では、教育格差の縮小に果たす役割は、どんどん小さくなっています。

 また、私学などお金をかけたところには十分な施設がありますが、そうじゃないところにはない。社会経済格差がそのまま現れていて、学校教育が教育格差の固定化の役割を果たしているのではないかという見方もできるのではないでしょうか。

――実際に、データ上では日本の教育格差は変化しているのでしょうか。

 松岡 いつの時代も社会は大きく変動しているように感じられますし、先行きは常に不透明です。時代の変化と共に変わったという印象を持たれるかもしれませんが、現在あるデータで日本全体を見ると、教育格差は戦後多少の変動はありますが、大きくは拡大・縮小していません。

 今、コロナ禍という大きな社会変動が起きていますが、これを機に教育格差が大きく変化するかというと、これまでの格差が大きいので、それがさらに明確に拡大するかは分かりません。親が失業して、高校受験で公立校進学を確たるものにするために志望校の難易度を下げたり、大学進学を諦めたりといったことは出てくると思いますが、若年層を対象にした全国データで把握できるような動きになるかは分かりません。

 ただ、コロナ禍は、私たちが学校の役割を再認識する機会にはなったと思います。

 例えば、学力については、英国など海外ではコロナ禍による休校期間に学力の伸びが停滞したというデータが出ています。

 また、学力面だけでなく、子どもが学校に行かなければ保護者が出勤できない、学校給食がなければ子どもの昼食がないといった学校の福祉的な機能を、改めて実感した人たちも多かったのではないでしょうか。

松岡准教授は「学校がなければ『生まれ』はより直接的に子どもの人生を左右することになる」と指摘

 これはコロナ禍だけの話ではありません。学校がなければ「生まれ」はより直接的に子どもの人生を左右することになるはずです。学校と教師が教育格差の拡大を押し留めている点については、もっと認識されてよいかと思います。

 一方で、学校があるからこそ、「教育機会が全員に与えられているのだから、結果は子ども本人の能力と努力次第」という自己責任論的な見なしも成立してしまいます。実際は家庭環境だけではなく、98%の児童が通う公立小学校であっても、さまざまな学校間格差があるのですが。

学校が果たしていた「人と人をつなぐ役割」

――新学習指導要領による個別最適な学びの実現や、GIGAスクール構想による1人1台端末の活用が始まりました。それと同時に、コロナ禍という世界的な混迷もありますが、それらはどのように学校の学びや教育格差に影響を与えるのでしょうか。

 山田 コロナ禍は、本当にいろいろなものをあぶり出していると感じています。家庭の脆弱(ぜいじゃく)さはもちろん、学校が果たしていた「人と人をつなぐ役割」の重要性にも気付かせてくれました。

 1人1台端末や、個別最適な学びについては、確かに必要なのだろうと思います。ただ、私たち教師は、学校で生徒たちが集団でいることによって育っていく姿を、ずっと見てきています。学校で一番時間が長いのは授業の時間ですが、例えば体育祭や文化祭など、学校行事の取り組みを通じて、生徒たちが育っている面は非常に大きいと実感しています。

 ですから、学校が集団でやっている良さが、このコロナ禍に失われそうになっているのが、私は教師として一番つらいところだと思っています。

 今年度は、昨年度のような長期間にわたって一斉休校になるのではなく、「感染者が出たら休み」というようにしています。本校では1学期に感染者も出ていたので、臨時休校になることがあったのですが、学校があるときは、本当に生徒たちがうれしそうです。「家庭がつらいから」という理由の生徒もいるかもしれませんが、「人とつながることができる」というのが、うれしさの理由として大きいのだろうと、生徒たちを見ていて感じます。

 学校というのは、入学したことで、クラスに配置されたことで、本当は知らなかった人たちと出会うことができる場です。多感な思春期の時に出会い、一緒に育っていく、一緒に取り組むことが、学校教育が果たしている大きな役割なのだということを、このコロナ禍に改めて感じています。

 松岡 理念通りに提供できるのであればよいのかもしれませんが、各学校にある資源量や教員の専門知などによって、「個別最適な学び」なるものが相当変わるだろうと思います。

 今の教育にかけている予算では「個別最適な学び」の実現は非常に難しいのではないでしょうか。十分な物的・人的資源を学校に渡さずにモデルケースを示したところで、実践できないはずです。まずは、どのような資源があれば、「個別最適な学び」によって実際に学力の底上げなどの結果を出すことができるのか、効果検証をすべきです。

――そうした中で、学校教育でできる具体策はあるのでしょうか。

 山田 根本的な問題は、松岡先生がおっしゃるように、教育施策や予算にあると思います。でも、そうは言っても、目の前にはたくさんの生徒がいて、頑張ったり、苦しんだりしている。

 ですから、まず本校では学校をやめさせないこと、学校を継続させることに注力しています。実は、今から10年ほど前は、年間100人ぐらいの生徒がやめていました。それが昨年度末には、中退率は当時の三分の一以下になりました。

西成高校では、「学校を継続させることに注力している」と山田校長

 10年前と今では何が違うのかというと、生徒を追い込まなくなったんです。「ここまでできなければ進級させないよ」「ここまでできなかったら不合格だよ」という、追い込みをやめました。

 本校には、「こんな事もできないのか」「こんな事も分からないのか」と言われ続けて育ってきた子たちが集まっています。ずっと言われ続けてきたことを、高校でもやるのではなく、「できたことを認めよう」と学校が変わっていくことで、生徒たちが学校を継続できるようになったのです。そして、そのことが、社会に出ていくパスポートにもなりました。

 今、大学進学はどこでもよければ、入ることはできます。ただ、お金の問題や、出た後にどうするかという問題があるので、本校では高卒就職に一生懸命取り組んでいます。

 バブル崩壊の頃は、今よりも高卒就職が厳しくて、未来が描けないまま、多くの生徒たちが中退していきました。でもこの10年ぐらいは、「高卒就職したら、働けて給料が手に入って、そのうち自分で生活できる」という未来を見せられるようになりました。

 18歳でのスタートをどう切ってもらうのか。そこからの未来像をどう見せるのか。それが、学校教育で教育格差を断ち切るための一つの原動力になっていると思っています。

(企画・構成 松井聡美)


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【プロフィール】

山田勝治(やまだ・かつじ) 大阪府立西成高等学校校長。1957年、大阪市西成区生まれ。1990年から2004年までの15年間、「成人識字」教室の運営に関わる。05年、西成高校に教頭として赴任。09年から13年3月まで同校校長を務めた後、異動。17年、同校校長として再赴任。「基礎教育保障学会」所属。著作に『格差をこえる学校づくり 関西の挑戦 阪大リーブル』(志水宏吉編、大阪大学出版会)内の第2部『「先端でもあり、途上でもある」—高校版「UD化」計画—』、『わたしたち(西成)は二度「消費」された』(ヒューマンライツ2019年9月号)。また同校で、全国で初めて開始された「校内居場所カフェ」について、『学校に居場所カフェをつくろう!-生きづらさを抱える高校生への寄り添い型支援』(居場所カフェ立ち上げプロジェクト編著、明石書店)内で、『「となり」カフェという企(たくら)み—ハイブリッド型チーム学校論』を執筆。

松岡亮二(まつおか・りょうじ) 早稲田大学准教授。ハワイ州立大学マノア校教育学部博士課程教育政策学専攻修了。博士(教育学)。東北大学大学院COEフェロー(研究員)、統計数理研究所特任研究員、早稲田大学助教を経て、同大学准教授。日本教育社会学会・国際活動奨励賞(2015年度)、早稲田大学ティーチングアワード(2015年度春学期・2018年度秋学期)、東京大学社会科学研究所附属社会調査データアーカイブ研究センター優秀論文賞(2018年度)、WASEDA e-Teaching Award Good Practice賞(2020年度)、早稲田大学リサーチアワード<国際研究発信力>(2020年度)を受賞。著書『教育格差:階層・地域・学歴(ちくま新書)』は、1年間に刊行された1500点以上の新書の中から「新書大賞2020(中央公論新社)」で3位に選出された。13刷・5万5000部突破(2021年8月時点)。近刊に松岡亮二編著『教育論の新常識-格差・学力・政策・未来 (中公新書ラクレ)』(2021年9月8日刊行)、中村高康・松岡亮二編著『現場で使える教育社会学:教職のための「教育格差」入門』(2021年10月刊行)。

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