【セルビア編】 現地の教員のモチベーションが低い理由

モチベーションが低い理由

 海外協力隊が派遣されている国の中には、特別支援学校自体がなく、障害のある子どもたちが教育から取り残されている国もある。その点で考えると、特別支援学校が存在するセルビアはまだいい方なのかもしれない。しかし日本人の私から見ると、「どうして?」と思ってしまうことがたくさんあった。前回までに書いたように、教員のモチベーションの低さは誰が見ても明らかだった。当然、「子どもたちのために」と授業を工夫する先生はほぼゼロであった。授業中に、先生同士でおしゃべりしたり、携帯で賭け事をしたり、何かと理由をつけて先生たちは上手にサボっていた。

 そこで、私は先生方のモチベーションの低さはどこから来るのだろうかと、自分なりに分析してみることにした。潜入捜査といわんばかりに、あえて先生方のプライベートにお邪魔し、先生方が大切にしているものは何か探ってみることにした。その結果、一つの答えを見つけた。先生方は、仕事よりもプライベート、家族が1番大切なのである。

 セルビアには「スラヴァ」という宗教的な行事がある。スラヴァは、各家庭で守護聖人を祝うセルビア正教の習慣である。守護聖人ごとに日程が異なり、いわば家庭ごとに「家族の日」が一年に一度定められている。どんなに大切な仕事があったとしても、「明日はスラヴァだから、今日は帰るね」と言って、帰っていく。そして、スラヴァ当日は、学校も仕事も休み、家族で準備をする。ある先生のスラヴァに招いていただいたが、豪華な食事が並び、家族で食卓を囲む日本のお正月やお盆といった感じだった。

 日本では、家族を犠牲にして仕事に励む光景がしばしばみられる。セルビア人にとっては“アメージングなこと”であるだろう。近年は、働き方改革が進み、教員の働き方についても見直されてきつつあるが、実際のところはどうだろうか。私自身も協力隊を経験するまでは、残業が当たり前だと思っていたし、休日も仕事のことばかり考えていた。しかしプライベートを重視し、家族を大切にするセルビア人と出会い、自分自身の働き方についても考え直すようになった。

 セルビア人の働き方の全てを見習うと、日本では大変なことになってしまうが、この「プライベートも大切にする」「家族を大切にする」という精神は、見習うべき点だと感じた。

あと1年あれば…
日本文化についての授業

 派遣から8カ月がたち、日本文化についての公開授業を何回か設定し、実行した。授業を見に来られた校長先生は、今まで、見たことのない生徒たちの表情に驚いていた。日本では当たり前である視覚支援や、生徒に合わせた教材教具を使うと、生徒らは目を輝かせて参加していた。世界共通で、子どもたちは「学びたい」のである。

 やっと、活動が軌道に乗ってきたなと感じていた矢先に、コロナの感染拡大。世界中でロックダウンが始まり、2020年2月、セルビアでもロックダウンが決まった。セルビア隊員は、JICAスタッフからの電話で、「あさっての飛行機で一時帰国するので、荷物をまとめてください」と伝えられた。気持ちの整理をつける暇もないまま夜通し、引っ越し作業に追われた。

 出発直前に学校へ行くと、ちょうど職員会議が開かれており、全職員の前でお別れのあいさつをすることができた。拙いセルビア語であいさつをしていると、寂しさ、悔しさ、どうしようもない感情で涙が溢れた。校長先生や仲の良かった先生方は泣きながらハグをしてくれた。そして「また会えるよね」と言って別れた。この時点では、一時帰国の予定だった。しかし、なんとなくお互いにもう会えないことを予測していたのだと思う。

 このような突然の別れを、全世界に派遣されていた約1800人の協力隊員は経験したのだ。私より滞在期間が長く、思い入れも深く、活動のまとめをしたかった隊員もいただろう。派遣されたばかりで、やっと現地の生活に慣れてきた隊員もいただろう。いろいろな気持ちを抱えて、協力隊は帰国を余儀なくされた。

けん玉を楽しむ子どもたち

 あれから、1年半。再派遣が決まり、活動できている隊員もいれば、再派遣を待っている隊員、日本の生活に戻った隊員もいる。私は、すっかり日本の生活に戻り、セルビアの生活を思い出すことも少なくなってきた。しかし今でも、あと1年あれば…と思うことがある。1番に浮かぶのは子どもたちのことだ。一人一人の名前と笑顔は、一生忘れられない出会いだった。いつか世界が日常を取り戻したころ、セルビアを訪ね、子どもたちの成長を見に行けることを願いつつ、私のセルビアでの協力隊経験に「終」をつけたいと思う。

 今回、このように振り返る機会を与えてくださった皆さまに感謝を申し上げたい。また日本全国、全世界で活躍中の協力隊員、帰国隊員にエールを送りたい。“Sve najbolje!”(スベ・ナイボリェ/Wish you the best)

(横井結衣=よこい・ゆい 青年海外協力隊の活動を終え、特別支援学校教諭として特別支援教育に携わる) 


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