【上田氏×井本氏】 子どもの考えた軌跡をたどる

 学習者の好奇心をかき立てる学びは、いかにしてつくられるのか――。「プレイフル・ラーニング」(夢中になってワクワクする学び)の提唱者であり、ユニークな学びの在り方を提案し続ける同志社女子大学の上田信行名誉教授と、栄光学園中学・高校で教壇に立ちつつ、主宰する私塾「いもいも」で独自の実践をする井本陽久氏。両氏の授業実践には、ヒントを求め全国各地から多くの教育関係者が訪れる。どうすれば、児童生徒の目が輝く授業をデザインできるのか。両氏の対談を通じて教育観をたどっていくと、学校現場が見落としがちなヒントが浮かび上がってきた。(全3回の2回目)

この特集の一覧

ヒントは、生徒の解答から得る

――学校という場を生かして、面白い学びを展開するコツはありますか。

井本 学校の素晴らしいところと言えば、たくさんの子どもが集まることです。児童生徒一人一人が、それぞれ異なる考え方や感じ方を持っています。100人いれば、100通りのデータがある。そんなに多くの子どもたちのデータが集まる場所、学校以外ではないでしょう。

児童生徒の解答にこそヒントがあると強調する井本氏

 教師は一人一人をしっかり見て、児童生徒が何を考えているのかを想像して、その個性や能力を生かす方法を考えるだけでいいのです。授業をつくるための材料は、ふんだんにあります。材料がありすぎて、どれを選べばよいのか迷ってしまうほどです。

 一方で、教師は多忙でもあります。忙しい中ではどうしても、何かしらの工程を省く必要があります。その際、多くの先生は、児童生徒の解答を見るという作業を簡略化してしまうように思います。正解か不正解かだけに目が行ってしまって、子ども一人一人が汗をかきながら必死に考えた過程を拾ってあげられていないのではないでしょうか。私から見ると一番おいしいところを手放してしまっていて、とても残念です。

 正解か不正解かに価値を置いてしまうと、授業は一気につまらなくなってしまいます。そんな授業の中で間違ったり、答えられなかったりした児童生徒は、冷や水を掛けられたような気持ちになるでしょう。

考えたプロセスにこそ学びがある

上田 井本先生の出演されているテレビ番組を拝見して、先生の授業は「問い」がすごいと感服しました。誤答を吟味して挑戦的な問題を作って、「これでもか」と挑み続けている。そして何より、その挑戦をご自身が楽しんでいらっしゃいました。その姿を見て、10年前に1年間過ごしたマサチューセッツ工科大学のメディアラボという研究所での日々を思い出しました。

考えたプロセスにこそ学びがあると話す上田名誉教授

 そこには21の研究グループがあり、学生や研究員が作ったものに対して、チームを超えて盛んに対話し、フィードバッキングする文化が根付いていました。研究員一人一人がプロトタイプをどんどん作って、それを仲間とシェアして、まだ誰も見たことのないものを創り出そうと改善を繰り返す毎日だったのです。

 誰かが「こんなのができたよ」とプレゼンすると、周りは手を止めて「わあ、すごい!」と驚いてくれます。それから、「ここを工夫すると面白いんじゃない?」とあれこれフィードバックをくれます。すると作った本人は「じゃあ、明日作り直してくるね」と言って、永遠のプロトタイピングの世界が循環し始める……。

 最初から完成品を求めるのではなく、どんどんプロトタイプを作って、修正していけばいいという空気が当たり前のように流れていました。「頭の中にあるだけでは駄目だ。とにかく外に出せ」とよく言われました。それは、アウトプットした途端に対話の対象になるからなのです。彼らが見ているのは結果ではなくプロセス。できたものがすごいから「わあ!」と驚いているわけではなく、「どういうふうに考えて作ったか」に重きを置き、そこを評価していました。

 しかし日本には、不完全なものを恥とする文化が根強くあります。つまり、結果を重視しすぎているのです。ですが学ぶことの醍醐味(だいごみ)は、「あなたが何を考えて、どこでぶつかっているか」をシェアすることなのです。先進的なアメリカの研究所や井本先生の授業では、それが日常化されていることに感動しました。

 一方で井本先生のおっしゃるように、多忙な先生方がそんな環境を一人でつくり上げることには限界があります。そんな時こそ、仲間をつくってください。同僚の先生でも、教室にいる教え子でも構いません。不完全であっても、間違っていても、考える過程を見せ合っていこうというカルチャーを教室や学校の中に根付かせてほしいのです。

子どもを本当に「見る」ために

――井本先生は「問い」をつくるときに、心掛けていることはありますか。

井本 多くの先生が本を読んだり、勉強会に足を運んだりと、日々一生懸命、教材づくりに励んでいるでしょう。でも、そのようなやり方ではうまく行かないのかなと思います。なぜならば、答えを知っているのは目の前にいる児童生徒だけだからです。

 こちらが「どんな問いを投げれば、児童生徒が面白がるだろう」と、どれだけ考えても無駄です。それよりも、子どもを見ることに尽きます。私たち教師は授業に目的を持ってしまい、「ジャッジする=見る」と捉えてしまいがちです。しかし、その目的を捨て、ただシンプルに、目の前の子どもがどんなテンションで、どんなことをやろうとしているかを見つめるに尽きるのです。

 以前、「正四面体をいろいろな方向から見ると、輪部はどんな形があるか」という問題を生徒に出したことがあります。すると生徒は、自分たちで正四面体を作り始めました。最初は鉛筆で6つの辺を作り、次に鉛筆をバットや掃除用のモップに変えて挑戦していました。作るのが面白くなったようで、最後には人間で試していました。でも、人でやるのは意外と大変。辺を真っすぐに維持するのに苦労するのです。

 もしこの時、私が「正しい答えを早く出すことが大切」という目的を持っていたとすれば、正四面体づくりを途中で止めていたでしょう。しかし、彼らが学びに集中して試行錯誤しているならば、放っておいた方がいい。その試行錯誤の中で起こっていることをじっくり観察していると、「次はどんな教材を作ろう」と参考にできることがあふれているのです。

 「子どもを見る」と言ったときに、「どうやればいいのでしょうか」と尋ねられることがあります。まずは一人一人が取り組んだものを丁寧に見ることから始めてはいかがでしょうか。書いたものや解いたもの、それらをしっかりと自分のところに集まるようにする。夏休みの宿題のように、回答だけ書かせたり、丸付けまで児童生徒本人にやらせたりしては何も見えてきません。児童生徒がどんなテンションで取り組んでいるか、どんなプロセスでその答えを導いたのかが大切なのです。その部分をじっくり見れば、おのずと次に何をすればいいか分かってくるはずです。

学びのOSを入れ替える

――上田先生は今、大学生をメインに授業実践をされています。小中高と学びの楽しさに気付けないまま、大学に入学して来る学生も多いと思うのですがいかがでしょうか。

上田 井本先生の今のお話を聞いていて、その通りだなと思いました。というのも、大学に入って来た時点では、学びを自分で開拓したり、自分がやりたいことに取り組んだりできない学生が非常に多いのです。自分がやりたいことを分かっていない学生が目立ちます。

 私が何より問題視しているのは、彼らがこれまで「考える」という行為を十分にしてこなかったことです。高校3年生までの学校教育で、考えることにほとんど時間を割いてこなかったからでしょう。考えるよりも、教科書の内容を暗記することを求められ、それが学びだと取り違えてしまっています。このような環境だと、学ぶことに意欲的になれず、苦手意識を持ってしまう子どもがいることも理解できます。

 実は、学びの中で一番面白いのは、考えることなのです。その面白さに気付けると、学びの印象はガラリと変わります。

 もちろん、「考えたことがないから駄目。これからではどうしようもない」というわけではありません。気付いた今、この瞬間から、取り組めばいいのです。だから私は学生たちに、「今から一緒に、本当の学びを始めよう」と声を掛けています。「考えるということを考える」くらい、とにかく考え尽くす体験をしてほしい。何か具体的なことについて深く、深く、考えることで、考える意義を見いだしてほしい。机に座って本を読むだけでなく、モノづくりを通して、ダイナミックに動き、協同作業を通して学びを深める「Learning by Making」を心から満喫できる喜びの環境を作りたいと思っています。

 考える時間の不足は子どもだけの問題ではなく、企業でも深刻になっています。私は企業のワークショップに携わる機会も多いのですが、多くの人が考える時間を割くことについて、「効率が悪い」と消極的になっています。そんな姿を見ていると、私たち全ての大人が、学びに対するOSをそっくりそのまま入れ替えなければいけないと危機感を覚えます。

 井本先生が取り組んでいるのは、そのような学びのOSを発見し、再発明(reinvent)する作業なのかなと思います。子どもたちが自力で、新しい学びのOSを発見するのは難しいでしょう。ですから井本先生をはじめ、その点に気付かれている先生方が、ご自身の取り組みを抽象化し、それをさらに授業という文脈の中で具体化し、そしてまた抽象化し直すという循環を通して、子どもたちと一緒に新しい学びの文化を創出していくことが、今の教育にとって必要なことだと感じています。

(板井海奈)


この特集の一覧


【プロフィール】

上田信行(うえだ・のぶゆき) 同志社女子大学名誉教授、梅光学院理事、ネオミュージアム館長。1950年、奈良県生まれ。2020年まで同志社女子大学現代社会学部現代こども学科で教壇に立つ。同志社大学卒業後、セントラルミシガン大学大学院でM.A.、ハーバード大学教育大学院でEd.M.、Ed.D.を取得。ハーバード大学教育大学院客員研究員、MITメディアラボ客員教授などを務め、現職。著書に『プレイフルシンキング[決定版]:働く人と 場を楽しくする思考法』(宣伝会議)、共著に『プレイフル・ラーニング:ワークショップの源流と学びの未来』(三省堂)、『教育の方法と技術』(ミネルヴァ書房)、翻訳に『発明絵本 インベンション!』(アノニマ・スタジオ)など。ネオミュージアムのウェブサイトはこちら

井本陽久(いもと・はるひさ) 「いもいも」主宰 栄光学園数学科講師。長年、児童養護施設やセブでの学習支援活動を続けている。子どもから「イモニイ」の愛称で親しまれる。『いま、ここで輝く。』(おおたとしまさ著)、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でその生き方を紹介された。

関連記事