【北欧の教育最前線】 揺らぐ「民主主義のモデル」としての学校

 デンマークでは、生徒が学校の意思決定に参加する機会が多いと言われる。学級会では、クラス旅行の計画や自転車置き場の修繕、各教科の学習内容など、さまざまなトピックが議論される。生徒が最終的な意思決定もできることが特徴だ。デンマークでは、「学校自体が民主主義のモデルになること」が法律に明記され、目標とされてきた。しかし、近年の改革ではそのモデルが揺らいでいる。

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民主主義を教えすぎた?

 生徒の参加を大事にする文化は近年、大きく揺らいでいる。2001年の中道右派政権発足以降、これまで民主主義や平等、社会的連帯に価値を置いてきた政府は、大きく方向転換した。国際学力調査の成績が振るわず、「民主主義を教えすぎた」という声が上がった。さらに10年には「デンマークの生徒は世界で最も優秀でなければならない」という文言が、政策文書に掲げられるようになった。

 試験・競争・評価が強調される中で、人権や多様性を擁護する民主主義の理念を理解し実践することは難しいと、英国のバース大学のハリエット・マーシャル講師は指摘する。とりわけ14年の教育改革により授業時間が増え、教師も子どもも多忙になり、ゆとりがなくなった。

 デンマークの学校を特徴付けるのは、生徒にできるだけ自由を委ねるカリキュラムや教育方法、生徒の自立性と自主性、協働的な学びを支える教師、民主的な組織としての学校――といったことだ。しかし、こうした特徴は今日、大きな変化の波を受けている。

奮闘する現場

 一方で、対話を基礎とした生徒参加を維持し、学校の自律性を残そうという現場の奮闘も見られる。
 2000年代に全国学力テストが導入された際、教育関係者は強く反対した。その結果、教育省は全国的に結果を公表することをやめ、子ども・保護者へのフィードバックのみとなった。さらに結果は、学びや学校改善に活用されることになった。

学び合う基礎学校の教師ら(Folkeskolen.dk提供)

 また、これまで尊重されてきた教師の自律性も、次第に限定的になっている。トップダウン化が進むことに危機感を抱く校長らは、教育目標や評価を、子どもや教師、保護者の視点に立ち、現場の文脈に合わせようと奮闘している。こうした校長の努力を支えているのは、「現場と生徒を一番知っている専門家は教師であり、その声を尊重するべきだ」という信念だ。

 国際的には、まだまだデンマークの生徒は民主的な学校を謳歌(おうか)している。公民・市民性教育に関する国際調査ICCSによれば、調査に参加した24カ国中、デンマークの生徒は教室の雰囲気を最も肯定的に捉えており、開かれた教室の雰囲気が子どもの市民性の学習にポジティブな効果を与えていることが明らかになった。教師は生徒が発言しやすい環境をつくっていて、生徒は自由に政治的・批判的な議論ができると感じている。生徒が意見を述べる自由には、教師に対して反対意見を述べることも含まれている。

 社会や教育行政の大きな変化の中で、生徒の声を聴き、教師の専門職性や学校の自律性を守るのは容易ではない。しかし、学校の主役は生徒であることを再認識し、学校が民主的な組織として機能するよう努力を重ねることが、生徒を無気力にすることを防ぎ、民主主義とは何かを学び、実践する市民の育成につながるのではないだろうか。

(原田亜紀子=はらだ・あきこ 慶應義塾高校教諭。専門は比較教育学)


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