【北欧の教育最前線】 スウェーデンの性教育とユースクリニック

 2022年度から、スウェーデンの学校における性教育の名称と内容が少し変わる。現在は「性と共生」という名称で教科横断的に実施されているが、「セクシュアリティ・同意・人間関係」になり、学習指導要領の内容にも変更が加えられる。

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「同意の文化」のための性教育

 今年2月に発表されたこの変更は、当時のジェンダー平等担当大臣によれば、性的同意の重要性をより明確に子どもたちに教えるためだという。スウェーデンでは2018年の法改正で、「積極的な同意」のない性行為は全て違法、つまり性犯罪とみなされるようになった。性行為は全て自主性と互恵性に基づくべきであるという認識のもと、「同意の文化」をつくる取り組みの一環として、学校での性教育により一層力が入れられ、教員養成における性教育も徹底されることになったのだ。

 今回の変更で重視されているのは、セクシュアル・ライツ(性の権利)を守るために必要な自己決定能力とコミュニケーション力を育てることだ。こうした取り組みが可能になるのは、性に関する知識を教える性教育がすでに定着しているからこそである。

学校における性教育の歴史

 1940年代までは、スウェーデンにおいても、子どもに性についての詳細な知識を教えることは適切でないと考えられていた。こうした状況に異議申し立てをしたのが、1933年に設立された「スウェーデン性教育協会(RFSU)」だ。避妊が違法とされていたこの時代、多くの女性が貧困の中で望まない妊娠を繰り返し、非合法の中絶によって身体を危険にさらしていた。かねてよりこの問題への対処を主張していたジャーナリストのエリーセ・オッテセン=イェンセン(1886-1973)が、医師らと協力してRFSUを立ち上げたことが、性教育の必要性についての理解が広まる契機となった。

 彼女を突き動かした原動力は、自身の妹が若くして望まぬ妊娠をし、苦しい生活を強いられていたことにあった。子どもや若者の将来のために性教育は不可欠だと主張する声が、「寝た子を起こすな」という理屈よりも説得力をもち、当時の政府もそれに応じたのである。

エリーセ・オッテセン=イェンセンによる性教育の講義(1940年代)=Unknown author, Public domain, via Wikimedia Commons

 政府は1940年代に学校に性教育を導入する方針を示し、50年代半ばには小中学校における必修科目となった。それ以来、性行為、避妊、性感染症、同性愛やトランスジェンダーを含む性の多様性など、セクシュアリティ全般が学校において教えられている。

 ただし、子どもの性を巡る多様な問題は、必ずしも学校の教師たちの手に負えるものばかりではない。そのような場合に頼りになるのが、全国約250カ所に設置されているユースクリニックだ。

ユースクリニック

 主として18歳以下の子ども・若者を対象とするユースクリニックは、性に関することに特化した医療機関だ。医師、看護師、助産師、カウンセラーなどの専門職がスタッフとして配置されており、専門的な助言や治療を、親や学校に知られることなく、無料で受けることができる。子どもたちは、必要が生じたときに自ら電話予約をしてクリニックを利用するが、最初は学校における性教育の授業の一環としてクリニックを訪問することが多いという。

 クリニックでは、思春期の身体の変化についての知識を提供したり、性自認や性的指向に関する適切な情報を発信したり、避妊具や避妊薬を配布したり、妊娠検査や性病検査を実施したりしているほか、性とは直接関係しないような相談にも応じている。子どもにとって、性に関する悩みや困りごとは他のさまざまな問題と密接に絡み合っていて、簡単に切り分けられるものではないからだ。

 スウェーデンで初めてこうしたクリニックが設置されたのは、1970年代初めのことである。性に関するトラブルを抱えた若者の増加に危機感を抱いた医師や助産師らが手弁当で開始し、徐々に自治体の支援を得られるようになった。現在では公的医療に組み込まれた形で運営されている。

 学校における性教育と、子どもが安心して利用できるクリニック。この2つの存在は、子どもたちのセクシュアル・ヘルス(性の健康)とセクシュアル・ライツを守るための、大人たちの努力の結果である。こうした土壌の上に、「同意の文化」をつくるさらなる取り組みが始まろうとしているのだ。

太田美幸=おおた・みゆき。一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は比較教育、成人教育、ノンフォーマル教育)


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