【「足並みバイアス」を断捨離】 荒れた学級はどう立て直す?

 毎年度、一番大変な学級を志願する――。札幌市立屯田西小学校の渡辺道治教諭は、私立小学校に勤務していた頃から現在まで、一貫してそうした姿勢を貫き、子どもたちに寄り添ってきた。昨今の学級崩壊や子どもたちの荒れは、一昔前のやり方では立ち行かなくなっていると言われる中、「荒れている学級には〇〇」というバイアスを自らアップデートしながら学級を立て直してきたという渡辺教諭。自身が学級を受け持つ上で大切にしていることや、保護者も巻き込む「バーベキュー型」の学級経営について聞いた。(全3回の2回目)

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大変な学級を志願する理由

――これまで毎年度、一番大変な学級を志願されてきたそうですね。管理職にも驚かれるそうですが、なぜそうした学級を志願されるのですか?

 大変な学級を、多くの方は持ちたがりません。むしろ、敬遠する傾向にあります。でも、誰かが引き受けなくてはいけない仕事です。その時に、渋々引き受けたり、嫌々引き受けたりするのではなく、喜んでそれを引き受ける人がいたら、チームの雰囲気や風土など、いろいろなことが前向きに変わるのではないかと思ったことが一番の理由です。

――私立にいらした頃は4月に担任発表があると、翌日には「渡辺先生に受け持ってもらえるなら安心です」というお手紙が保護者から届いていたと聞きました。

「今まで通り」より「チャレンジ」を求め、公立教諭へ

 ありがたいことに保護者の方からも評価していただき、私立時代の後半にはそうしたお手紙をいただくことが増えてきました。

 でも、4月の初めでまだ授業もしていないし、学級もまだまだ不安定な状況で、「もう安心です」とお手紙をいただく……。まだクラスにおいて何も成していない段階で、感謝のお便りをもらえることに、うれしさとともに息苦しさのようなものを感じていたのも事実です。

 手紙を贈ってくださった方々は、私の過去の「成功」の部分をクローズアップして見て下さっていました。そして、その成功の再現を願っていました。新しいことにチャレンジするよりも、「今まで通り」のことを求められているような気がしました。

 こうなると、変化はしにくくなります。チャレンジもしにくくなります。失敗を避け、成功ばかりを追い求めるようにもなってしまいます。しかし、私にはチャレンジしてみたいことが山ほどありました。子どもたちによく話しますが、「成功と失敗と挑戦」は常にワンセットです。挑戦なくして成功はないし、失敗もない。成功を得るためには挑戦が不可欠なのにも関わらず、そのチャレンジの芽が出しにくくなっている葛藤が、当時は確かにありました。

 そして、11年間の間にどんどん濃くなっていった評価も、結局は私立の中での評価でしかないわけです。JICAやユネスコでの活動で知り合った公立の先生と意見交換する中でも、「その実践は、私立だからできるんですよね」などと言われることがほとんどで、そこに大きな壁を感じていました。

 本当に私の実践は通用するのだろうか。私のことを誰も知らない所でもっと挑戦してみたい。そういう思いが大きくなっていき、札幌市の教員採用試験を受けることにしました。

「変わるのが当たり前」というマインドで

――そのような経緯があったのですね。私立だろうが、公立だろうが、大変な学級を毎年受け持つのは、肉体的にも精神的にも非常にきついと思います。うまくいかないこともあるのではないでしょうか。

 もちろんあります。そして、うまくいかないことや難しい局面を何度も経験することで、そのパターンや傾向などもある程度つかめるようになってきました。

 例えば、何かうまくいかない時というのは、どこか私に慢心がある時が多いです。「毎年学級を立て直してきた」というような自負があったり、「どんなクラスでもこい!」といった気になっている時に、その心を映すかのようにうまくいかないことが起きたりします。

 こうやって、自分の失敗の傾向や、難局の乗り越え方などをいくつもストックできたことで、いわゆる「大変な学級」を連続して持っても笑顔で仕事ができるようになりました。

 そして、傾向と対策を知ること以上に大切なのが、「変わることが自然である」というマインドを持つことだと思っています。毎年、目の前の子どもたちは違いますし、荒れている原因も違います。昨年はうまくいった方法でも、今年はうまくいかないこともあります。だから、教師が「自分は変わらない」と決めていると苦しくなることが多いです。逆に、「変わるのが当たり前」という心持ちでいるだけで、随分と心は軽くなります。

 うまくいかない時には、今まで自分がやってきたことを少しずつ変えていったり、修正を加えていったりしながら進めます。その変化を楽しめるようになったことも、こうした人事希望を出せるようになった要因です。

 毎年、色も形も違う応用問題を子どもたちから出してもらい、それを楽しみながら解いて学ばせてもらっているような状況です。

何のために学校に来ているのか

――そうした学級を受け持つ上で、大切にされていることはどんなことでしょうか。

 もう10年以上、そうした学級を持ち続けているので、毎年、自分の中でもやり方などはアップデートし続けていますが、ここ数年は「最初の1カ月は叱らない」という基本ルールを自分の中で決めています。

学級開きでは「何のために学校に来ているのか」を最初に伝えている

 荒れているクラスは、「なめられちゃ駄目だから、最初は厳しく」というのがスタンダードなやり方です。でも、恐怖で制圧するようなやり方では、どうにもならない子たちがたくさんいます。むしろ、その方法をとったならば、より大きな荒れとなって返ってくる可能性が大です。仮に制圧できたとしても、次の年により大きな形で問題が出てきたり、根本解決に至らなかったりというのが、私の経験則です。

 荒れているクラスの子どもたちには、たいてい「大人不信」や「教師不信」があるので、いきなり「信じてほしい」と言っても、信じません。だからこそ、「この先生はいきなり頭ごなしに叱ったりしない。いきなり声を荒げたりもしない。でも、ちゃんと良いところは認めてくれる。話もよく聞いてくれる」というようなことを、じっくり分かっていってもらうことが大切です。手っ取り早く力で制圧しないということ、それがまず大きなポイントです。

 もう一つは、学級をスタートした日に、進む方向と目的をきちんと語ることです。

――進む方向と目的とは、具体的にはどういうことでしょうか。

 「何のために学校に来ているのか」。大体、荒れているクラスは、これが分かっていないことがほとんどです。「楽しいことをしにくる場所」と本気で思っている子さえいます。「楽しければいい」のですから、はちゃめちゃに騒いでも、人を困らせてもいいと、誤学習をしてしまっている子たちもいます。だからこそ、「一体何のために学校に来ているのか」という一丁目一番地を伝えてあげることが不可欠です。

 私は、ここ数年は子どもたちに「学校には賢く、格好良くなるために来ている」と話しています。

 学校で勉強することで、前に分からなかったことが分かるようになったり、できなかったことができるようになったりする。それが、「賢く」なるということです。

 でも、「賢く」だけでは足りません。例えば、たくさん勉強して賢くなっても、自分の得た知識や知恵を使って人をだましたり、傷つけたり、悲しませたり、困らせたりしている人もいます。だから、「賢く」だけでは危険なのです。

 もう一つの「格好良く」というのは、これは化粧したり、おしゃれしたりとか、そういう意味ではありません。「格好」には、元々の意味としては「ふさわしい」という意味があります。「6年生としてふさわしい」「学校のリーダーにふさわしい姿だ」など、生き方が素晴らしいことが「格好良く」なることだと話しています。

 つまり、「賢く」が頭や体の成長だとすれば、「格好良く」は心の成長です。人に優しくできるようになったり、我慢ができるようになったり、心が少しずつ成長していくことが「格好良い姿」なんだと話します。学校とは、この「賢く」と「格好良く」を実現するために来る場所なんだという目的を伝えるわけです。

 進むべき方向を伝えることで、例えば、何かが起きた時にも「それは格好良い選択なのかな?」と問い直すことができます。「あなたは本当に格好良くなったね」と褒めることもできます。1年を通して、何度もこのキーワードを使うことを大切にしています。

「レストラン型」から「バーベキュー型」の学級経営へ

――学級を立て直す上で、保護者も巻き込んだ学級経営をしているそうですね。

 参加型の学級経営を「バーベキュー型」と称して、毎年取り組んでいます。昨今は、例えばエンタメ界でも「作る側」「見る側」に分かれていた「レストラン型」から、作る段階からイベントに参加するような「バーベキュー型」に変わってきている状況があります

保護者も参加する「バーベキュー型」の学級経営に取り組んでいる

 教師と保護者の関係も、これまで教師主導でつくったものを子どもたちに提供する「レストラン型」が主流でした。でも、保護者の中には一定数、子どもたちの教育に主体的に参加したいと思っている方が、必ずいます。そうした方々に「一緒に学級をつくり上げていきませんか」と門戸を開くだけで、ものすごく豊かなつながり、重なりができるようになります。

 いわゆる「モンスターペアレント」という言葉が出てきたあたりから、保護者と学校の間の断絶が大きく広がるようになりました。お互いがけん制し合うようになり、本当は学校教育のためになるような保護者からの意見さえも、「こんなことを言ったら、モンペと思われてしまってはかなわない」という恐れから、その多くが届かなくなってしまいました。これって、ものすごい損失だと思いませんか。

 だから、私は学級通信や授業参観で「どんどんご意見ください」「一緒に作っていきましょう」と呼び掛けます。コロナ禍でも、主に学級通信でのやりとりを通して、「バーベキュー型」の学級経営をしていくと、保護者の方が子どもたちのために数多くのイベントを工夫しながら開催してくれるようになりました。保護者の方との風通しの良い関係をつくるように工夫することで、いらぬ恐れや不安から解放され、よりこの仕事を楽しめるようになってきています。

(松井聡美)

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【プロフィール】

渡辺道治(わたなべ・みちはる) 2006年に北海道教育大学卒業後、奈良県の天理小学校にて勤務。17年より現職。JICA教師海外研修にてカンボジアを訪問したことをきっかけに、その後もJICAの要請・支援を受け、SDGs教材開発事業に携わる。初等教育算数能力向上プロジェクト(PAAME)にてセネガルの教育支援に携わるなど、海外とのネットワークも太く、年に数回は国外において授業実践や教材開発を続けている。16年にはグローバル教育コンクール特別賞を受賞。 現在は公立校で教壇に立ちながら、月に数回の講演活動や、福祉施設などでのバイオリンの演奏活動にも取り組んでいる。20年からは教育オンラインサロンを立ち上げ、毎月4〜5回のセミナーを開催。四児の父でもある。著書に『学習指導の「足並みバイアス」を乗り越える』(学事出版)。今後、立て続けに3冊の単著を発刊予定。

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