【北欧の教育最前線】学校向けに多数のサービス ノーベル賞博物館

 10月上旬にノーベル賞の受賞者が発表された。ノーベル賞の地元スウェーデンでは、どの国の人が受賞しても12月上旬のノーベル週間はお祭りムードだ。12月10日には、ストックホルムで授賞式と晩さん会がきらびやかに行われる。それは決して科学者や大人だけのイベントでなく、小さな子供にも楽しみがある。

この連載の一覧

幼児にとってのノーベル賞

 筆者の息子は小学校入学前の1年間をスウェーデンで過ごしたが、彼が通う就学前学級(いわゆる0年生)の様子を見て驚くことが多々あった。その一つが、ノーベル賞の授業だった。授賞式のある12月10日、クラスの正面の壁にノーベル賞のポスターが3枚貼られ、金メダルの写真が掲げられていた。

就学前学級で見たポスター

 生理学・医学賞、物理学賞、化学賞のポスターだ。「輝かしいツール」「彼らは進化の力を会得した」といった目を引くキャッチコピーとともに、受賞者や受賞理由が紹介されていた。受賞者の写真と、大きめのイラストや図が掲げられ、親しみのもてるポスターだった。

 とはいえ、「5、6歳の子供に、この難しい研究内容を説明したのだろうか?」と驚きながら壁を見ていると、その上には金メダルの写真が貼られた手づくりのポスターがあった。

 どうやらメインはこちらだったようだ。「クラスメートと仲良くして、興味や喜びを分かち合い、お互いの違いを尊重し合っている就学前学級の皆さんに、私たちの小学校のノーベル平和賞を送ります」という内容の文章が書かれていた。子供たちは、クラスメートとともに平和を喜びながら、ノーベル賞の話を聞いたのだろう。


受賞者発表直後に授業案

 ノーベル賞について学校で子供たちに話すのはごく自然なことだ。人気の観光スポットにもなっているストックホルム旧市街にあるノーベル賞博物館は、学校向けの取り組みに力を入れている。

ノーベル賞博物館

 その一つが授業教材だ。動画、説明用スライド、配布用資料、発問や時間配分の例が載っている簡単な教師用ガイドがあり、教師が気軽に利用できる。13歳の子供を念頭において組み立てられた授業が紹介されているが、資料はさまざまな年齢層に使用可能である。

 授業の導入では、ノーベル賞や、生みの親であるアルフレッド・ノーベルについて知る活動を行い、その後、各ノーベル賞の受賞者や受賞理由の紹介があり、関連する問いについて議論する。毎年、受賞者発表の24時間後には、その功績をテーマにする授業案が公開されるため、教師はすぐに授業で取り上げることができる。

 また、博物館には、学校向けの有料プログラムも用意されている。プリスクール(幼保一体化された施設)の子供から高校生までを対象に、特別支援学校向けのものも含めて、多様なプログラムがある。テーマも多様で、ノーベル賞について知るプログラムや、物理や生物などの専門的なプログラム、創造性や研究の喜びを知るプログラム、SDGsを取り上げたものもある。最近は、訪問できない生徒のためにオンラインのプログラムも実施されている。

 これらの多くは、教科横断的で、実生活と関連していて、子供たちが興味深く活動し発見する機会を提供する。日本で近年話題のSTEAM教育にもつながるものだ。

「人類の最大の利益」と教育
晩さん会会場のストックホルム市庁舎。受賞者はこの大階段から降りてくる

 その他にも、ノーベル賞博物館では、生徒の研究プロジェクトの支援や、教員研修、教師向けのイベントなど、学校向けにさまざまなサービスを提供している。

 なぜこんなにも学校向けのプログラムがあるのだろうか。「優れた教師がいなければ、新しいノーベル賞受賞者はいません」とウェブサイトには記されている。だから教師と生徒たちは重要なのだ、と。教師と子供に働き掛けることによって、科学的探究への関心を高め、裾野を広げ、創造性や好奇心を呼び起こすことを目指しているのだ。

 ノーベル賞は、一部の優れた人のためにあるのではなく、「人類の最大の利益」のためにある。そのビジョンが、学校向けの取り組みに表れている。教育は、偉業と子供をつなぐ架け橋なのである。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)


この連載の一覧

あなたへのお薦め

 
特集