【不登校×これからの学校】 安心して社会とつながれる場を

 学校が子どもに合わせる、学校らしくない学校――。今年4月、岐阜市に開校した不登校特例校の同市立草潤中学校は、生徒が担任も登校日数も選択できるなど、さまざまな特徴的な取り組みが全国的に注目されている。同校の構想から開校までをリードしてきた前岐阜市教育長の早川三根夫氏と、同校の設立準備段階からアドバイザーとして関わり続けている京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之氏をゲストに迎え、同校の取り組みの具体的な内容や、開校から半年間で見えてきた成果を聞いた。(司会・教育新聞編集長 小木曽浩介)

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賛否両論あった担任の選択制

――草潤中学校では、生徒が担任も登校日数も選択できるなど、これまでにない取り組みが注目されています。開校から半年がたったわけですが、学校の様子はどうなのでしょうか。

 塩瀬 構想段階で、まずデザイナーの方たちや教育委員会の方たちと一緒に「理想の学校とはどんな学校だろう?」と考え、言葉出しをしていきました。

 そこで出てきたのが、時間割、担任、教室、職員室、評価についてです。これらは学校から与えられるのが普通ですよね。その普通を疑って、変えてみることにしました。先生ではなく、生徒が選択できるようにすればいいのではないか――。こうした考えに基づいて設計していきました。

 早川 まず登校については、4月の開校以来、毎日登校する生徒もいれば、週のうち数日だけ登校したり、午前中だけ登校したりする生徒もいます。1人1台貸与されるタブレット端末を活用して、家庭での学習を基本にする生徒もいますし、登校スタイルについては、生徒の状況に応じてどんな形でも受け入れるようにしています。

 また、登校した後に教室で授業を受ける子もいれば、個別ブースや特別教室、廊下、校庭にある藤棚の下などからオンラインで授業に参加する子もいます。

 担任も、毎年5月に生徒の希望で決定できるようにしています。選べる担任が9人いて、年度途中の変更も自由です。

 塩瀬 担任の選択制については、賛否両論がありました。「自由に選べるのは良くない」「我慢するのも社会勉強ではないか」という意見もいただきました。しかし、担任の先生とうまくいかずに学校へ行くのが嫌になった子もいる中で、それをもう一回強いるのは酷で、むしろ選べた方がいいと考えました。

 また、「ある先生に人気が集中してしまわないか」という懸念も寄せられたのですが、そうしたことは実際にはなかったようです。中には「受け持つ生徒が少ない先生がいい」というような選び方をした生徒もいたそうです。先生方は「自分のことをしっかり見てもらいたい」とする気持ちの表れではないかと分析しておられました。

「先生ではなく、生徒がさまざまなものを選択できるように設計した」と塩瀬氏

 早川 時間割についても、例えば教科として新設された「セルフデザイン」では、生徒たちが音楽、美術、技術・家庭科の中から学びたいことを設定していきます。カリキュラムは一人一人の生徒と相談した上で決定し、通知表も一人一人と話し合って決めています。

 また、給食は頼んでも頼まなくてもいいですし、校内のどこで食べても構わないことになっています。だから職員室や校長室で食べる子もいて、これがとても評判のようですよね。

 塩瀬 そうなんですよ。これまで職員室は、多くの子どもたちにとって「怒られるときにしか行かない」というイメージでした。でも、子どもは普段から先生とおしゃべりができていてこそ、困ったときに先生に相談に行けるはずで、「日常から行ける職員室」にするにはどうすればよいのかを考えていきました。その一つの方法が、「職員室や校長室で昼食を食べてもOK」でした。

 実はこれがこの半年で一番効果のあったことではないかと、私は思っています。教室で、一人で食べていると孤立が目立ちますが、そうした状況もなくなります。子どもたちの気持ちの面での安心にもつながっているでしょう。

 こうしたちょっとしたことのように思われることにも選択肢が増えることは、草潤中の象徴的なことと言えるのかもしれません。

安心して社会とつながる場がある

――成果として何か見えてきたことはあるのでしょうか。

 早川 何をもって成果とするのか、その点が難しいですよね。開校以来、いろいろなマスコミ取材もあるのですが、生徒たちは「こうして自分が頑張れる場所があるということを、不登校の子たちに伝えたい」などと盛んに言ってくれています。

 それまではほとんどの子が完全に不登校だったのですが、今は毎日30人前後(定員40人)の子が登校しています。もちろん、学校に登校できればいいという単純なことではありません。でも、今まで一歩も出られなかった子たちが生き生きと活動できる場があるということは、見るべきことではないでしょうか。彼らが安心して社会とつながる場ができたことを、とてもうれしく思っています。

「教員の仕事の優先順位を変えたりするだけでできることはある」と早川氏は指摘する

 子どもがいろいろなことを選択できるようにすること、学校が多様性を持つことは、本当に手間の掛かることですが、ICTを活用したり、教員の仕事の優先順位を変えたりするだけで、できることもあるということが分かりました。こうしたことを、いろいろな学校に広げていきたいですね。

 塩瀬 早川さんが先ほどおっしゃった、マスコミのインタビューを受けてくれた生徒たちの気持ちを、成果と言ってもよいのではないでしょうか。

 これまで自分にとってよい居場所が見つからなかったけれど、その子にとっては草潤中という場所が見つかった。それを、まだ見ぬテレビの向こう側の同じようなことに悩んでいる子を思って、発言してくれたわけですよね。

 また、こんなエピソードも聞きました。人と話すことが得意ではない生徒が先日、通学中に倒れている年配の方に遭遇したそうです。あらゆる大人が通り過ぎる中、その子が声を掛け、救急車を呼ぶなどしたと聞きました。

 その生徒は「こういうことがあって遅刻するから、学校に連絡してほしい」と保護者に連絡したそうです。保護者の方は、「普段は自分からそんなに話す子じゃないのに、そのような行動を取れたことがうれしいし、学校に遅刻することを気にしていたのがおかしかった」と話されていました。

 もう、これだけで社会とのつながりはOKだと思いませんか。倒れている年配の方を通り過ぎていく大人たちと比べたときに、どちらの方が確かなつながりや確かなコミュニケーション能力を持っていると思いますか?

 こうした行動を取れる子どもたちが、学校に行かないというだけで「不登校児」というレッテルを貼られてしまっていることは、子どもたちに対する大人側の見方が不足しているということです。こうした事実に大人側が気付きさえすれば、子どもをちゃんと見たり、褒めたりする方法が増えるのではないでしょうか。

自分に合う場所が必ず社会の中には存在している

――参加者からの質問ですが、草潤中ではどのような進路指導や就労支援をしようとしているのでしょうか。

 早川 草潤中がこういう学校であるということは、県内の公立学校や私立学校もみんな分かっているので、どのようにするのかは今後固めていくことになりますが、学校としては成績を付けられると考えています。

 進路については、高校の方が義務教育よりも多様性があるので、さまざまな高校と情報交換しながら進めていくことが重要になってくると思います。

 塩瀬 不登校特例校における世間からの懸念は、学力や社会とのつながりの不足です。学力に関しては、本人のペースで身に付けられるところまで付けられたらいいと思います。

「自分に合う場所を自ら見つけて選ぶ力をつけてほしい」と塩瀬氏

 高校にはいろいろなバリエーションがありますし、就職先もたくさんあります。だから、その子に合った進路を選べばいいと思いますが、私が生徒に伝えたいことは二つあります。一つは、中学校のその先の社会にも、草潤中のような居場所が必ずあるということ。もう一つは、これからはそれを自分で見つけて選ぶ力を付けなければならないということです。

 草潤中は公立中学校としてたまたま自分の家から通えるところにできたわけですが、この先の社会においてもこういう場所が必ずあることを信じてほしい。そして、そうした場所を自ら見つけて選ぶ力が求められていることを、生徒や保護者にも伝えていく必要があると思っています。

 同時に、「みんなと同じペースでこれだけ学ぶべきだ」とか、「嫌なことにも耐えなければいけない」と思っている社会が存在していることも、伝えておく必要があります。こうしたズレの部分は、例えば学力が追い付いたときに調整すればいいし、心の準備が整った時に社会とのつながりを取り戻せばいい。そのための猶予の時間が、草潤中での時間なのだと捉えています。

 自分に合う場所が、必ずこの社会の中には存在しています。しかし、それが小中学校の時には自分だけでは選べないということが一番の問題です。草潤中のような学校が存在することで、そういう場所があると知ってもらえたことは大きいし、それを自分たちで選ぶ力をこれから養っていってほしいということは、私からのメッセージとして伝えることができたらと思っています。

(企画・構成 松井聡美)

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【プロフィール】

早川三根夫(はやかわ・みねお) 前岐阜市教育長。1954年生まれ。岐阜市出身、横浜国立大学卒。小中学校教諭、校長、県教委教職員課教育主管、義務教育総括監等を経て、2012年4月から21年3月まで岐阜市教育長を務める。在任中は「5年先行く岐阜市教育」を旗印に、才能開花教育をけん引。いち早くプログラミング教育を開始し、英語教育、サイエンスフェスタ、ぎふっ子ノーベル賞、小中一貫教育、ペッパー導入、STEAM教育 、Gifted、不登校特例校の新設など、先駆的な施策を提案、実行し、全国から注目を集めた。第7期中教審委員、全国中核市教育長会長等を歴任。現在、岐阜大学客員教授等。

塩瀬隆之(しおせ・たかゆき) 京都大学総合博物館准教授。1973年生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて、技術戦略担当の課長補佐に従事。14年7月より大学教員に復職。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップ多数。17年度文部科学大臣賞(科学技術分野の理解増進)受賞。著書に『インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン』、『問いのデザイン』(共著)など。文科省中央教育審議会理数探究専門チーム委員、2025年大阪・関西万博政府日本館基本構想有識者ほか委員多数。

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