【不登校×これからの学校】 草潤中の仕組みを当たり前に

 不登校の子どもたちにとってのチャレンジではなく、学校にとっての再チャレンジ――。今年4月に岐阜市で開校した不登校特例校の同市立草潤中学校についてそう話すのは、同校の構想から開校までをリードしてきた前岐阜市教育長の早川三根夫氏と、同校の設立準備段階からアドバイザーとして関わり続けている京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之氏だ。購読者限定オンライン対談の最終回(全3回)では、同校の取り組みを振り返りながら、これからの学校の在り方について両氏が語り合った。(司会・教育新聞編集長 小木曽浩介)

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100人10通りぐらいの対応を

――参加者から「不登校児童生徒が学校に求めていることは何なのでしょうか」という質問が来ています。

 早川 草潤中の生徒に話を聞くと、みんなが「学校には来たかった」と言います。これまでも来たかったけれども、いろいろな理由があって来られなかった。でも、草潤中のような学校ができて、来られるようになったんだと話してくれます。やはり子どもたちは人と話したい、学びたいという気持ちがすごく強かったんだなと実感しましたね。

「生徒への向き合い方を、みんなで考えていくような研修を」と塩瀬氏

 塩瀬 学校に来る目的は、みんないろいろありますよね。「学びたい」も目的の一つだし、「友達と会いたい」という目的もあるでしょう。授業に必ずしも出たいわけではないけれど、休み時間に友達とただ話しに来たい生徒もいるでしょうし、また、学校に来ても誰ともしゃべらずに、ただ黙々と勉強したい生徒もいていいはずです。

 「みんながみんな、同じように椅子に背筋を伸ばして座り、同じ向きを向いて先生の授業を聞いている」というだけが学校ではなく、もっといろいろな学校の使い方ができるのがすてきだと思います。どんな使い方をしてもいい、どの状況でも来ていいというのが、これからの学校が目指す方向の一つに加えられないかと考えています。

――草潤中の教員は希望制とのことですが、教員に求められる対応はどのようなことでしょうか。また、どのような研修を行っているのでしょうか。

 早川 教員は、やっぱり日々悩みながらやっていますよ。「これまでのやり方ではうまくいかない」とか、「これでよかったんだろうか」とか、「手を出し過ぎたかもしれない」とか、常に試行錯誤しているようです。

 教員は往々にして、みんな同じ方向で指導してしまいがちです。でも、これからは「別の方向から捉えてみたら、もっと楽に考えられるよね」とか、「そういうのもありだよね」とか、多様な考え方がもっと出てくることが必要なのでしょう。

 塩瀬 早川さんがおっしゃるように、先生方が「みんなに同じように対応しなければならない」というプレッシャーから解放されるといいなと思います。

 例えば、「手の掛からない生徒」にも2種類あります。一人でどんどん突き進んで行きたいタイプと、手を掛けてほしいけれども声が上げられないタイプです。どちらのタイプなのかをしっかりと見極めた上で、対応する必要があります。

 教科書をどんどん進める子に対して、怒る先生もいますよね。一人でどんどん突き進んで行きたいタイプの生徒にとって、「同じペースでやりなさい」と言われるのはとてもつらいことです。1人1台の端末が入り、1年生でも3年生の学びを受けられるようになったのに、そこすら止めてしまっていないでしょうか。

 一人一人に差が出るのが当たり前だということは、よくよく考えれば分かることです。でも、「みんなに同じように対応しなければならない」という大前提に立って指導すると、そこからはみ出た子は「規格外の生徒」になってしまうのです。

 もちろん、一人一人違うといっても、先生も100人に100通りの対応をすることはできません。でも、100人に1通りでないことも事実です。100人10通りぐらいの方法を持てると、おそらくいろいろなタイプの生徒に対応できるようになるのではないでしょうか。

 草潤中に赴任した先生たちが「今までの方法ではうまくいかない」と試行錯誤されていることは、実は素晴らしいことです。草潤中はいろいろな生徒に向き合うことが期待されている学校だと思いますので、先生たちが100人10通りのうち、1、2、3、4通りぐらいを手に入れられる学校になるのではないでしょうか。

 私は全ての先生が草潤中からキャリアをスタートさせ、その経験を持って異動して、他の学校に波及させていくような形になればいいと思っているほどです。

 早川 研修について他の学校と違うのは、例えば塩瀬先生や岐阜大学大学院医学系研究科の加藤善一郎教授などから直接、話を聞く機会があるということです。

 スケールの大きな話や教育界とは別の観点からの話は、先生方にとってとても良い刺激になっていると思います。ここで培ったことを、ぜひその後の異動先の勤務校でも広げていってほしいですね。

 塩瀬 これまでの研修は、ICTだとかグローバルだとか、ソサエティ5.0だとか、上から降ってきて、先生自身が本当に必要なのかどうか考える間もないままのテーマが多々あります。今後はそうではなく、生徒への向き合い方をみんなで考えていくような研修も取り入れていってほしいですね。

草潤中は、学校にとっての再チャレンジ

――草潤中は「子どもが学校に合わせる」学校ではなく、「学校が子どもに合わせる」学校ですが、そうした考え方や取り組みから、これからの学校の在り方も見えてきそうですね。

 塩瀬 草潤中をつくるときにデザイナーさんと一緒に考えたのは、「不登校という言葉をやめませんか」ということでした。

 学校に適応できて、そこで素直に伸びる子もいるし、嫌々ながらも我慢してなんとか適応する子もいます。「学校に行かない」という選択をした子は、もしかするとそうした子たちよりも主体的なのかもしれません。私は「自分で学校に行くことを選ばない生徒たち」と呼び名を変えられないかと考えました。

 草潤中は不登校特例校なので、現実的に「不登校」という言葉をなくすことはできませんでした。しかし、これから先は「不登校特例校」という言葉を消せるよう、この学校の仕組みを当たり前にしていきたいと思っています。

 草潤中のチャレンジは、「学校に行けなかった子たちが行けるようになる」のではなく、「学校がもう一度信じてもらって、来てもらえるようになる」ことです。「不登校の子どもたちにとってのチャレンジ」と思われがちですが、そうではなく「学校にとっての再チャレンジ」なのです。

 学校を、安心して学びたいと思ったときにいつでも学べて、自分の味方がたくさんいる場所だと思ってもらえるようにする。それが「学校にとっての再チャレンジ」です。他の学校でも、草潤中のチャレンジでまねできることがあるのではないでしょうか。

 早川 登校日数を選べたり、担任を選べたりというのは、すぐには難しいかもしれませんが、例えば、草潤中で設けている「クールダウンの時間」なんていいですよね。

 学校に登校せずに自宅でタブレット端末を使って勉強する子たちが、その日の最後に先生と話す時間なのですが、この時間が子どもたちはすごく楽しみだと言っています。

 塩瀬 そうですよね。朝来て夕方帰るまで、誰ともしゃべらない生徒も全国にはたくさんいると思います。そういう生徒が「困っている」というサインをちょっとでも出せるような場所や時間は、絶対に必要だと思います。

 早川 草潤中のような公立学校は今後、一定規模以上の自治体には必要になってくると思います。

 例えば、「草潤中の授業をオンラインで受けたい」と言ってくる学校も出てきています。市内の校長会では毎回、草潤中の校長が発表をして、実践を広げています。草潤中を特別な学校ではなく、波及効果のある学校にしていくというのが、これからのフェーズだと考えています。

――学習権の保障という観点からはいかがでしょうか。

「草潤中を特別な学校ではなく、波及効果のある学校にしていきたい」と早川氏

 早川 全ての学校が草潤中のようにやるのは、人的にも予算的にも現状は難しいと思います。しかし、今後は地域の学校と特例校の両立、特例校の波及効果を持ってして、子どもの一人一人の学習権を保障していくことが、教育行政には必要だと考えています。

 あと10~15年すると、校舎が耐用年数を迎えてしまう学校が全国的に出てくるという切実な問題もあります。特に地方では、全ての学校を建て替えるのは難しいでしょう。そうした場合、これまでは統廃合による学校規模の適正化を考えてきたわけですが、今後は規模の問題ではなく、「公教育全体で学習権をどう保障していくのか」という観点で計画を作っていただきたいですね。

 塩瀬 学びたいのであれば、地域の学校だろうが、フリースクールだろうが、ホームスクーリングだろうが、本来はどこでもいいはずです。でも、どこかそれぞれが敵対しているかのようにうまく連携がとれていません。

 地域全体でやるのが本来の公教育です。そこにいる人たち全員で力を合わせてこそ、子どもたちの学びを守ることができると思います。草潤中が地域と対話を重ねた上で、力を合わせて一緒にスタートできたことは、すごく大事なことだと感じています。その部分もうまく伝われば、他の地域でも同じような学校をつくることができると思います。

 子どもたちの学習権を保障する上で、第一に子どもたちの学びたいという意欲を減退させないことが大事です。そして、もう一つ重要なことは、子どもたちが学びたいと思ったときに、いつでもそれを支える準備が大人にあるということを示すことです。そういう学校のはしりに、草潤中がなってくれたらいいなと思っています。

 もちろん、草潤中のようなスタイルの学校だけで、不登校の子どもたちを全てカバーできるわけではありません。草潤中とは違う仕組みの不登校特例校にフィットする子もいるでしょう。一つの形だけで全てを良くするなどということは、無理な話です。二の手、三の手を打ち出していくことで、子どもたちが「どこで学んでもいいんだ」「至るところにいろいろな学校があるんだな」と思える状況をつくっていきたいですね。

(企画・構成 松井聡美)

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【プロフィール】

早川三根夫(はやかわ・みねお) 前岐阜市教育長。1954年生まれ。岐阜市出身、横浜国立大学卒。小中学校教諭、校長、県教委教職員課教育主管、義務教育総括監等を経て、2012年4月から21年3月まで岐阜市教育長を務める。在任中は「5年先行く岐阜市教育」を旗印に、才能開花教育をけん引。いち早くプログラミング教育を開始し、英語教育、サイエンスフェスタ、ぎふっ子ノーベル賞、小中一貫教育、ペッパー導入、STEAM教育 、Gifted、不登校特例校の新設など、先駆的な施策を提案、実行し、全国から注目を集めた。第7期中教審委員、全国中核市教育長会長等を歴任。現在、岐阜大学客員教授等。

塩瀬隆之(しおせ・たかゆき) 京都大学総合博物館准教授。1973年生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて、技術戦略担当の課長補佐に従事。14年7月より大学教員に復職。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップ多数。17年度文部科学大臣賞(科学技術分野の理解増進)受賞。著書に『インクルーシブデザイン:社会の課題を解決する参加型デザイン』、『問いのデザイン』(共著)など。文科省中央教育審議会理数探究専門チーム委員、2025年大阪・関西万博政府日本館基本構想有識者ほか委員多数。

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