【北欧の教育最前線】放火や対教師暴力 SNSで広がる学校の荒れ

 学校の備品窃盗や器物破損が世界的な問題になっている。米国では学校の消毒液ディスペンサーや消火器、駐車場の看板などを持ち去る動画がTikTokに多数投稿され、10代を中心に「Devious licks」と呼ばれるトレンドに発展した。今年9月に始まった破壊活動は瞬く間に全米に広がり、トイレの破壊、教職員の自家用車への細工(タイヤのボルトを抜くなど)、備品の窃盗が各地で相次いで報じられた。

 Devious licksはコロナ禍での不安定な運営に苦慮する学校関係者をさらに追い詰めている。一方で、1年以上にわたって休講やオンライン学習で我慢を強いられ、ようやく学校が再開してもストレスが多い状況に直面する生徒たちの反抗とも受け止められ、厳罰よりもケアが必要だという意見も聞かれる。また、一部の生徒たちによって、壊されたり盗まれたりした備品を自腹でこっそり補充する「Angelic yields」という対抗活動も興っている。

 この騒動はいまや米国だけでなく、世界的な問題に発展し、北欧諸国でも深刻な懸念となっている。

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年間500件燃やされるスウェーデンの学校

 スウェーデンでは学校の放火が深刻だ。危機管理庁の統計によると、昨年は566件の学校火災が報告されている。毎日どこかで学校が燃えている計算になる。学校では小さな失火は消防に通報しないことが多いため、実数はさらに多いと見込まれている。昨年秋ごろには10代の若者の間で、放火に関するSNSの投稿が拡散して問題になった。

 特に社会経済的に厳しい環境にある地域の、幼稚園や基礎学校が放火のターゲットになる。学校は日中には多くの人が出入りするが、夕方以降は無人になることが多く、警備も手薄になりがちなのが標的にされやすい要因でもある。また、長期休みはさらに狙われやすい。

 放火で逮捕される若者は在校生の場合もあるし、他校の生徒の場合もあるが、人的被害がなければ比較的軽い処分になることが多い。学校への恨みやいたずら、憂さ晴らしなど、動機はさまざまだが、はっきりしないケースも目立つ。

焼け落ちた校舎

 ニュースを検索すればおびただしい数の学校火災の記事が表示されるが、ここではウプサラ市で2018年に起こったゴッツンダ基礎学校の放火の事例を見てみよう。新学期が始まって1カ月が過ぎた10月8日月曜日、午前3時ごろに消防に通報があった。この時点で、3つある校舎のうち2棟が激しく燃え、手の付けようがない状態だった。広域から多数の消防車が集まって消火活動を続けたものの、建物は燃え続け、全焼した。その日のうちに、14歳の少女2人が警察に事情聴取された。

 生徒たちの間では、容疑を掛けられた少女が「ソファに火を付けようと思っただけで、学校全体が燃えるなんて思っていなかった」と謝罪するビデオがSNSを通じて瞬く間に出回り、少女たちへの批判と、動画を拡散する人たちへの批判が同時に巻き起こった。一方で、この学校が社会経済的に厳しい地域にあることから、同情したり、団結を呼び掛けたりする人もいた。焼け落ちた学校のフェンスには、生徒や保護者、地域の人たちからのメッセージカードや花束が置かれた。

 校舎が使えなくなった483人の生徒たちは、しばらくの自宅待機の後、市内の複数の学校に分かれてバスで通うことになった。校舎の再建には5年の歳月と100億円近い費用がかかるとされた。容疑を掛けられた少女たちは、現在は国内の別の場所で保護されている。

低学年では対教師暴力が問題に

 教職員組合が最近実施したアンケートでは、低学年を担当する多くの教員が、子供たちから深刻な暴力被害に遭っている実態が明らかになった。就学前学級では54%の教員が過去2年間に1度以上の暴力被害に遭っていると報告した。この割合は基礎学校低学年で47%、中学年で39%、高学年で15%と、学年が上がるにしたがって減少している。また、高校では3%だった。割合が最も大きかったのは余暇指導員で、59%が生徒から身体的な暴力を受けたと回答した。暴力の具体的な内容は目を覆いたくなるようなもので、腹を殴られた、顔に唾をかけられた、腕をナイフで刺されたといったものから、喉元にスコップを突き付けられたといったものまであった。

励ましのメッセージカード

 この数字が徐々に増えているのか、あるいは昔からこの状態なのかといった経年変化を知ることはできない。というのも、アンケートは今年5月にスウェーデン南部の学校で起きた学校襲撃事件を受けて、緊急に行われたものだからだ。これまでも、ナイフや銃による襲撃は度々起きているが、5月の事件は15歳の生徒が教師を狙って起こしたという点で衝撃的だった。現在、殺人未遂で審判にかけられているこの少年は、襲撃の3カ月前にも学校にナイフを3本持って行ったと証言していて、計画的な犯行だったとみられている。

 折しも、保険会社の統計が公表され、強いストレスによる何らかの精神疾患を理由に90日以上病休している教員が劇的に増加しており、2万5783人以上いると報告された。特に余暇指導員と幼稚園の教員が多かった。コロナ禍による環境悪化も大きいが、教師が自分の健康を犠牲にしている状況に、教職員組合は強い危機感を表明している。

 いまや、学校の荒れはSNSを通じて世界中に伝搬する時代になっている。学校の放火、器物破損、備品の窃盗、対教師暴力は日本でも存在するが、不安定化する社会のはけ口として学校がターゲットになっているのではないか。ひとたび火が付くと取り返しがつかないほど燃え盛るのがSNSの恐ろしいところでもある。子供たちや教職員がリスクにさらされることがないように、予防策が求められている。

(林寛平=はやし・かんぺい 信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)


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