【“探究ドライバー”池谷教諭】 チームでつくる探究の授業

 昨年度から教科として「探究科」をスタートさせた追手門学院では、中学校、高校共に各学年週2時間ずつ、同教科が設定されている。プロジェクトの推進役を担うのは、「探究ドライバー」の池谷陽平教諭をはじめとする6人のチーム。「探究」で何をすればいいのか分からずに戸惑う教員も多い中、同校の「探究科」の授業プログラムを、どのように構築してきたのか。池谷教諭が「探究」に魅せられるようになったきっかけも聞いた。(全3回の2回目)

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チームでつくり上げていく授業プログラム

――探究科は現在、6人のチームで推進しているとのことですが、どのように授業のプログラムなどを作っているのでしょうか。

 新しいプログラムを作るときには、必ず最初にみんなでブレインストーミングをやります。作成するプログラムは、インプットからアウトプットを考えたり、逆にアウトプットからインプットを考えたりする形が多いですね。実際にやってみた感触を出し合ったり、今年度から新しくチームに入ってくれた教員の視点も入れたりしながら、常にブラッシュアップしています。

ブレストしながらチームで授業プログラムを作っていく

 今、高校1年でやっているプログラムは、プロジェクトテーマが「価値観」です。自分の価値観に気付くことがインプットの目的なのですが、教員間のブレストでインプットのアイデアを出していくうちに、「煩悩の数の108個、価値観を書かせてみよう」という案が出てきました。また、それを何で表現すると相性がよいのかも考え、コラージュや映像という手法を用いることにしました。

 アウトプットから逆算して考えたプログラムとして、来年から新たに「チャイムプロジェクト」をやってみようと考えているところです。

――チャイムプロジェクトとは面白そうですね。

 このアイデアは、「音に関するプロジェクトをやってみたらいいかも」という話からスタートしました。そして、音を意識させるにはどんなアウトプットがあるのかをブレストし、「チャイム」という案が出た時に、みんなで「それ、めちゃくちゃ面白い!」となったのです。

 そこからは、どういうインプットから「チャイム」というアウトプットに至ればよいかを考えていきました。そして、「学校にいる時間帯によって、自分の気持ちって違うよね」という気付きから、それをチャイムで表現するプログラムへと練り上げていきました。

アイデアを拾って面白がる人も必要

――こうしたブレストに苦手意識を持っている教員も多いと思います。

 私自身が、アイデアが出てこないタイプだったので、よく分かります。そういう場に行くと固まってしまって、本当に苦手でした。でも、おそらくどの学校にもユニークな先生というか、「何を言ってもいいよ!」と言われると、生き生きし出す、アイデアが止まらないタイプの人はいるものです。

池谷教諭も最初はアイデア出しが苦手だったという

 探究科のチームでは性格タイプの診断をして、お互いのタイプを認識しています。そういうアイデアが止まらないタイプの人は、6人中3人です。逆に、そうじゃないタイプの人たちは、「それいいやん!」などと、アイデアを収束するのが得意だったりします。

 つまり、アイデアを出す人だけがいればいいのではなく、そのアイデアを拾って面白がれる人がいることも重要なんです。

 生徒に対しても同じことが言えます。例えば、ある生徒のマニアックなアイデアに対しても、教員が「それ、面白いやん!」と拾うだけで、クラス全体のマインドセットが変わります。「え、そんなアイデアでもいいの?」となれば、他の生徒のアイデア出しのハードルが低くなっていくのです。

――今年度から「探究ドライバー」という肩書を名乗られていますが、この言葉にはどういう意味や役割があるのでしょうか。「主任」などの肩書じゃないところもユニークですよね。

 探究科はチームでやっていることもあり、それぞれの個性に合った肩書を付けています。他にも「探究デザイナー」や「探究アーティスト」「探究クリエーター」などがいます。毎年、肩書を付けるための会議もするほど、重要視しています。

 私の「探究ドライバー」は、チームの原動力を生み出す新しい道を提示したり、出来上がったプログラムを出す時期を判断したりしていくような役回りです。最近では探究科に携わってくれる教員も増えてきて、自身で授業をデザインして実践している教員の姿や外部の研修に参加して学んでいる若手の姿を見て、ドライバーとしてとてもうれしく思っています。

生徒に本当に学ばせたいことは何なのか

――「探究」に魅せられるようになったきっかけを教えてください。

 高校・大学時代はアメフトに没頭していました。アメフトを教えたい気持ちが強く、大学4年の時に教員を目指そうと思いました。でも、その時点では教職課程を履修していなかったので、大学卒業後に1年間勉強して、大学院に入り直しました。

 探究に魅せられたきっかけの一つは、大学院に入ってから1年間休学して、オーストラリアのとある学校で日本語を教えていたときの経験です。それがまた衝撃的な学校でした。

 その学校の中学3年生は全寮制で、夕方になったらカンガルーが100匹ぐらい下りてくるような山の中で1年間を過ごします。シャワーを浴びたければ、自分たちで巨大な丸太をまきにしてお湯を沸かさねばならないような、過酷な環境でした。

 卒業試験は1週間分の食料を全部背負って、山を転々として戻って来るというものでしたし、普段も昼間の授業はありますが、それ以外の時間は「生きること」に費やすような学校生活でした。

――「生きること」に費やすとは、すごいですね。

 生徒が言っていたのは、「生きるか死ぬかがかかっているので、生活する力も付く。何より自分自身と向き合って、自分について探究するような時間がある」ということでした。その子たちの1年間の成長は目を見張るものがあったので、人生のどこかのタイミングでそうした経験をすることは大切なんだと感じました。そして、やっぱり「教育は面白い」と思ったんですよね。

箕面高校時代の経験も今に生きている

 その後、母校の大阪府立箕面高校で英語科の教員となりました。8年間の勤務のうち、後半の4年間は日野田直彦先生(現武蔵野大学中学校・高等学校および武蔵野大学附属千代田高等学院学園長)が公募校長として赴任され、さまざまなことを経験させてもらったことも大きかったですね。今、本校の探究科で一緒にやっている髙木草太教諭ともそこで出会い、彼の授業を見たことが「探究」へと突き動かされたもう一つのきっかけでした。

 当時の髙木教諭は、府が派遣するSET(スーパー・イングリッシュ・ティーチャー)として箕面高校に赴任してきました。でも、英語の授業なのに英語を教えていなかったんですよね。

――どんな授業だったのでしょうか。

 英文には日本の文章にはない、「先に結論を言って、その後に理由を言う」といった、論理的な決まりがあり、そういう文化もあります。なぜ、そういう順番を踏むのかが理解できていないと、英語の文章を読んでも意味が分からず、丸覚えしているだけになってしまう――。こういった「思考」の授業をしていました。

 それを見たときに、私は大きな衝撃を受けました。それまで私自身の授業には、「英語力を高めるにはどうしたらいいか」ということしか広がりがありませんでした。でも、彼の授業を見てから、教科は道具でしかないので、それを使って「生徒に本当に学ばせたいことは何なのか」をきちんと考え始めたのです。

 その後、いろいろな教科の教員とチームを組んで、「生徒に何を身に付けさせたらいいのか」を一緒に考え、新しい授業をつくっていきました。それを特別講座という形で希望する生徒たちにやってみたのですが、めちゃくちゃ楽しかったんです。「生徒にいろいろな見方や選択する力が身に付くような、こういう授業をしたい」という当時の思いが、今につながっています。

 (松井聡美)

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【プロフィール】

池谷陽平(いけたに・ようへい) 関西学院大学卒業、同大学院修了。関西学院大学時は、アメリカンフットボール部で日本一も経験。社会人チームでも活躍する。2010年度から母校である大阪府立箕面高校で英語科教諭となる。18年度から追手門学院中学・高等学校へ赴任、20年4月から「探究科」を立ち上げ、現在は学年主任と探究科の「探究ドライバー」として日々取り組んでいる。22年度から新設される同校の「創造コース」の立ち上げにも関わっている。探究科のオウンドメディア「O-DRIVE」にも、各校から注目が集まっている。

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