【パプアニューギニア編】 「放ったらかし主義」教育の成果

冷たい印象を受けたが…

 生徒の名前は覚えないのが普通のパプアニューギニアの教育。1人当たりの教員が受け持つ生徒数が500人を超えたり、日々の生活が日本よりも厳しいこともあったりするため仕方のないことではあるが、この他にも生徒に対する対応が少し冷たすぎると感じる場面がたくさんあった。

 黒板に貼られた模造紙に書かれている内容と問題を写すだけの授業、学校行事の準備の時間、これらの時間は完全に教員不在の状態で行われる。その間、教員は家で休んだり、他の授業の準備をしたり、時には街へ買い物に行ったりするなど、不真面目を絵に描いたような勤務態度が目についた。さらに、担任業務として担当生徒の進路や受験先を把握するようなこともほとんどしない。

 「放ったらかしにされる生徒がかわいそうだな」と思いつつ、私は協力隊のモットーの一つ、「赴任して半年間は様子を見ること」を愚直に実践してみた。

放ったらかしでも荒れない生徒

 ある日、授業準備の都合で、早めに担当クラスの教室へ出向いてみた。中をのぞいてみると黒板に模造紙が貼ってあるだけで、教員は不在だった。どうやら自習の時間のようだ。教室の隅で授業の準備をコソコソさせてもらいつつ、生徒に話を聞いてみる。

 「今、農業の先生いないみたいだけど何してるの?」

 「宿題。ちょっと難しい内容だったから、この時間が自習になってくれて助かったよ」

教員不在のため廊下で待ちながら自習をする生徒

 生徒が見せてくれた宿題を見てみると、どうやら化学の宿題のようだった。後に分かったことだが、ある教科で難しい宿題が出ると、教員不在の自習時間はその宿題や復習に充てられる。話し合える友人が集まっているから非常に便利がいいらしい。学校を休んでしまった時の遅れもここで取り戻す。日本だとしゃべったり、スマホをいじったりする時間になりそうだが、パプアニューギニアの生徒は柔軟に勉強の時間に充てているようだった。

 パプアニューギニアには定期考査の概念はなく、おのおのの教員が自由なタイミングで「小テスト」や「宿題」を課しながら成績をつけていく。出席点なるものは前回の記事で述べたように、座席表が存在しないため、つけることができない。小テストと宿題の出来次第という完璧な実力主義で成績がつけられるわけだが、生徒もこのことは理解している。

 確かに、考えてみれば各教科の中でも難しい内容を扱う時期もあれば、簡単な内容を扱う時期もある。そこで思い切って生徒に手を掛けすぎず、余裕を持たせることで生徒が自分自身で考えて勉強する習慣が身に付いているように見えた。中には勉強する計画を立てられない生徒もいるが、その生徒は他の生徒のまねをしたり、宿題を見せてもらったりしながらうまく切り抜ける。それでも勉強についていけない生徒は自然に落第し、村に帰って自給自足をしながらのんびり暮らす生活に戻る。

 ある意味、この「放ったらかし主義」は一人一人の生徒に合った着地点をもたらすシステムになっていたと思う。

「熱心に面倒をみる」のが良いとは限らない

 勉強以外の場面でも、この「放ったらかし主義」はとどまることを知らない。

独立記念日の学校イベントで民族衣装をまとった生徒

 「独立記念日」や「教師の日」「終戦の日」には、生徒が企画したやりたいことがそのまま学校の行事(イベント)になる。準備もほぼ生徒のみ。企画を主導する学年によってこの行事の出来は大きく左右されるが、これについて教員は全く評価をしない。失敗してうまくいかなくても、「そんなものだよね~」と誰も気にしない文化なので、生徒は自由気ままにやりたいことをやりたいように実行する。

 生徒の進路に関しても同じ。生徒が大学に進もうが村に帰ろうが教員はほとんど関与しない。「もっと勉強しろ! 進路を考え直せ!」などという茶々は決して入れない。その生徒が望んで、その生徒の精いっぱいをやればそれでいい感じだった。

 「日本では各生徒の成績を吟味して、面談をしたりするんだよ」と現地の教員に話すと、「彼らの人生なんだから、彼らが自分で進学先を調べて、自分で頑張らなければ意味がないんじゃないか?」という声が多く返ってきた。

 確かに教員の不在や生徒の名前を覚えない「放ったらかし主義」によって行えない教育活動もある。しかし、実際に体験してみると、柔軟な小テスト・宿題・授業の工夫で生徒の理解度は十分に把握できることが分かった。「放ったらかし」の学校行事で、手を挙げて発表させるなどの主体性の育成も補填(ほてん)可能だった。

 日本の教育制度には日本の教育制度の良い点がある。しかし、日本の教員が行っている仕事のほとんどをパプアニューギニアの教員はしていない。にもかかわらず、パプアニューギニアの生徒は伸び伸びと勉強して幸せそうに暮らしていた。

 文化の違い、環境の違いがあるため日本とパプアニューギニアを簡単に比較することはできないが、今の日本の教育を見直す材料がパプアニューギニアの教育にはあったように思う。

(服部晃平=はっとり・こうへい 青年海外協力隊の任期を終え、漫画家として現地の文化をSNSで発信する活動を行う)


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