【“探究ドライバー”池谷教諭】 授業を超えたとき探究になる

 2022年度に高校でスタートする「総合的な探究の時間」に先駆ける形で、昨年度から教科として「探究科」をスタートさせた追手門学院中・高等学校。その立ち上げにおいて中心的役割を果たしたのが、「探究ドライバー」の池谷陽平教諭だ。インタビュー最終回(全3回)は、探究的な学びにおける評価の在り方や、生徒の姿から感じた「探究」の定義を聞いた。

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探究的な学びでどのような力が付くのか

――「探究的な学び」で実際にどのような力が付くのかというのは、よく問われることだと思います。評価や成果については、どのように考えていますか。

探究科の授業で生徒から相談を受ける池谷教諭

 よく聞かれますし、求められます。まだ本校でも「探究科」がスタートして2年目なので、プログラムも完全には固まっていませんが、ゆくゆくはきちんと論文にまとめなければいけないと考えています。今は、単純に生徒たちが「探究科の授業に満足しているか」や「探究科の学びによって自己肯定感が高まるか」などをアンケートで聞いて、蓄積しています。

 ただ、自己肯定感を測るにしても、本人が元から持っている特性にもよるので、数値化は難しいとも感じています。ある部分では自信が持てるようになったということはあっても、そんなに大きな変化は期待できません。だから、探究についての成果は「評価できないものもある」ということは、明言しておかないといけないとも思っています。

 また、例えばコミュニケーション能力を点数化して、「あなたは80点です」「あなたは50点です」というような評価をすると、コミュニケーション能力を高めるためのテスト対策をする人が出てきてしまいます。それも変な話ですよね。

 今は資質・能力を測れるものなども出てきていますが、そうしたものをやるべきかどうかについても見定めているところです。また、「評価ができるもの」と「評価しないでおいた方がいいもの」を分けるべきではないか、といったことも考えています。私の感覚としては、「評価しないでおいた方がいいもの」の中に、本質があるような気がしています。そこに没頭するから「探究」なのです。リアルなフィードバックさえあれば、生徒が自ら評価、判断し、自己実現に近づけていくのではないかと思うのです。

 成果を数値化して測ることが難しい教科だからこそ、生徒が成長する姿を見てもらうことが一番大切なのだと思います。その成長をアウトプットするためにも、探究科の特設サイト「O-DRIVE」をつくっていて、プログラムだけでなく、生徒たちの成長についても発信しています。

自由があるということは、すごく不自由

――その「O-DRIVE」に、新しいプロジェクトの導入として高校2年生がドキュメンタリー映画『Most Likely to Succeed』を視聴した際の振り返りが載っていました。この映画に対する大人の感想と生徒たちの感想が違っていて驚いたのですが、特に印象に残っているリフレクションはありますか。

 『Most Likely to Succeed』は、米国のカリフォルニア州にある「ハイテックハイ」というチャータースクールに通う高校1年生の成長を追い掛けたドキュメンタリー映画です。ハイテックハイには決まった教科書も定期試験もなく、1日の授業の大部分がプロジェクトをベースとした学びです。

 これを観た生徒たちからのリフレクションは、全てが洞察力に富んでいて、一つに絞るのは非常に難しいのですが、例えばこのリフレクションには、探究科の教員全員がドキッとしました。

 「今の自分達には自由があるということはすごく不自由だと思う。決まった形があるからそこに従っているだけで評価がもらえる、その形にはまってさえいれば何をしても基本許される。今の自分たちはその形に慣れていて、形があるからこその楽さがある。でもその形が無くなり、そしてその形から自分で作り始めるとなると、今までの逃げ道はなくなるし、自分で動いていかないといけないしんどさがあると思うので、それに慣れてない人にはこの授業はとてもしんどく不自由なものだろうと感じた。社会に必要な人材、AIには超えられない人間を作るのが目的なのなら、教育が一人で先走ったり、遅れすぎていたりするのではなく、社会の進度と歩幅を合わせるということが大事なのかなと思った」(追手門学院中・高等学校 探究科「O-DRIVE」内より引用)

生徒のリフレクションには、たくさんの気付きがある

 私たち教員は「なるべく探究は自由に」とか、「少なくともいろいろな選択肢を子どもたちに与えてあげるべきだ」と思っていたのですが、一方では「それが正解だ」というような雰囲気を出してしまっていたのではないかと気付いたんです。この映画を観せたのも、あくまで考えるきっかけのつもりでした。でも、もしかしたら「ああいう風になったらいいな」という思いが教員側にあった。だから、このリフレクションにドキッとしたのかもしれません。

 探究をやる上で、自由度が高い方が楽しいと思う子もいれば、自由度が高すぎて何もできない不自由さを感じる子もいるということを、私たちはきちんと認識しておかないといけません。一口に「自由」と言っても、人によって感じ方は全く違います。生徒によって段階もあるだろうから、それを自分で選べるようになったらいいよねと、探究科チームの教員たちとも語り合いました。

――探究的な学びは今後ますます重要になり、ウエートも高くなっていくと思います。その上で、教師に必要なことはどんなことだと考えますか。

 まず、教員自身が自由にならないといけませんよね。例えば、多くの教員は「教科書」に縛られています。でも、学習指導要領には目標や考え方など、教科の方向性は書いているけれども、「この知識をこれだけ覚えさせなくてはならない」というようなことは、どこにも書いていません。それなのに、なぜ教科書に縛られているかというと、「入試では、この教科書の全範囲から出る」ことを知っているからです。だから、「この教科書を1年間でどうやって終わらせようか」ということに終始してしまうのです。

 結局、高校1年で10のことをやっても、3年になって残っているのは、そのうちの1か2です。だから3年になってもう一度、頭に詰め込まなくてはいけない。そんな薄い濃度で学ぶぐらいだったら、もう少し教員の裁量権で「探究」するような学び方をした方が、結果もついてくるのではないでしょうか。

 そうして授業の自由度が上がれば、子どもたちを自由にさせられる時間が増えます。だからこそ、教員が自由を獲得するのはものすごく大きいことだと思います。

 もう一つ大事なのは、探究のテーマを決めた後、それをまずは教員が学び手となって探究してみることです。頭で考えて「これでいけるだろう」と思っても、やってみると全然違うものです。自分がやってみてどうだったのかを語れる状態にしておくことが、大切だと思います。

自分の時間を使う判断をしたときに「探究」になる

――来年度からは、高校で新しく「創造コース」がスタートするそうですね。

 私も立ち上げチームに入って、ずっと携わってきました。このコースに関しては、「もし、大学受験を一切考えずに、やりたいことだけをやろうと思ったら、どういう学校ができるか」という観点から、考え始めたんです。

――追手門学院高校の中の小さな学校のようなイメージですね。

 そうです。大学進学を目標に置いている従来型の高校の場合、頭では考えるだけ考えて、勉強もしているけれども、何も行動を起こさないまま卒業していくようなイメージがありました。だから、ちゃんと行動力を身に付けられる3年間にしたいと考えたのです。

 そこで、通常は年間5回ある定期テストをやらずに、その期間はプロジェクト期間に充てます。行動を起こすために必要な知識を自ら学び取ってくる時間としています。

 教科の授業についても、探究プロジェクト型の授業を行っていく予定です。私の仮説として、この方が知識として深く刻まれるものが多いはずなので、高校3年の時点で残っている知識量は「創造コース」の生徒の方が多くなるのではないかと思っています。これが検証できたら、今後の教育に大きな影響を与えると思うので、その点でも楽しみです。

 卒業後の進路としては、大学ならば国公立大や私立大の推薦入試、海外の大学など、多様な進路を想定しています。起業する子なども出てくれたらいいなと思いますし、卒業後の道が今よりも多様になるだろうと考えています。

――「探究」についてはさまざまな捉え方がありますが、どのように定義されていますか。

 自分の好きな時に、好きなだけ、好きなことができる。それが「探究」だと思います。

「自分たちの時間を使うという判断をしたときに、それが初めて探究になる」と池谷教諭

 例えば今、高校2年生のあるチームは、「食物アレルギーで困っている人が周りにすごく多い。いろいろなお店でアレルギー表示がされるようになってきているけれど、お祭りの屋台などでは表示がなく、アレルギーがある子が安心して楽しめない」という課題意識を持っていました。

 そこで、一つ一つの屋台の食物アレルギーをチェックして、それぞれの店舗にQRコードを置き、スマホをかざせばその店舗のアレルギー表示が出るようなアプリを開発したいと考えました。

 この構想を発表して、いったん授業としては終了したのですが、彼女たちは「このアプリを本気で実現したいから、外部のビジネスコンテストに出たい」と言って、今も放課後に私たちのところに来て、相談しながら取り組み続けています。

 この姿を見た時に、本当にうれしかったんですよね。彼女たちのように、授業という枠を超えて「自分たちの時間」を使うという判断をしたときに、それが初めて「探究」になると思うのです。

――「探究科」がスタートして2年目。現在地はどの辺りでしょうか。

 まだ山に向かう途中ぐらいですかね。まだ山に登っていないと思います。

 私は、自由にやりたいと思うことをやれるような社会にしていきたい。そのためには、これまでの知識偏重型の教育が変わらなければいけないし、学校が一番クリエーティブな場所じゃないと、そのような社会はつくれないと思っています。その意味では、学校の教員が一番のクリエーティブ職になるべきです。そうなれば、学校の教員に対する世間のイメージも変わっていきますし、クリエーティブな人が集まるもっとエネルギーを生み出す職業になっていくのではないでしょうか。

 (松井聡美)

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【プロフィール】

池谷陽平(いけたに・ようへい) 関西学院大学卒業、同大学院修了。関西学院大学時は、アメリカンフットボール部で日本一も経験。社会人チームでも活躍する。2010年度から母校である大阪府立箕面高校で英語科教諭となる。18年度から追手門学院中学・高等学校へ赴任、20年4月から「探究科」を立ち上げ、現在は学年主任と探究科の「探究ドライバー」として日々取り組んでいる。22年度から新設される同校の「創造コース」の立ち上げにも関わっている。探究科のオウンドメディア「O-DRIVE」にも、各校から注目が集まっている。

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