【はかま校長】 ICT化でアナログとデジタルが融合した学校を

 公立高校ながら、1人1台端末の活用があらゆる場面で行われている北海道大空高校。今春開校したばかりの同校で、端末の活用を重点目標に掲げる大辻雄介校長は、もともとICT教育の専門家だ。これまでベネッセで遠隔授業サービスを開発してきたほか、島根県や高知県の学校ではICT化に携わってきた。生徒たちは毎日、当たり前のように端末を使っているが、ICTの活用をここまで常態化することに成功した秘訣(ひけつ)は何なのか。大辻校長流のメソッドに迫った。(全3回の2回目)

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端末を「どう使うか」の次元を超えた

――大空高では4月にデジタル端末を全生徒に配布し、授業や学級活動で積極的に活用されていると聞きました。具体的に、どのように活用されているのでしょうか。

 実は私も生徒に、「授業でどんなふうに使っているの?」と尋ねてみました。すると「大辻さん、全授業で使っているから、“どんなふうに”と言われても全部説明しなくてはいけないので無理です」と笑われました。この半年で生徒にとって端末は、そのぐらい日常の道具になったのだと実感する出来事でした。

オンラインでインタビューに応じる大辻校長

 大人も「仕事の中で、パソコンをどうやって使っていますか?」と尋ねられると困惑するはずです。生徒も端末を「どう使うか」の次元を軽々と超えてしまったのだと、正直驚いています。

 あえて具体例を挙げるとすると、先日の探究学習の時間に「理想の図書室をデザインする」というテーマで、1年生の生徒が端末を活用しました。端末を使って、一人一人が理想の図書室をイラストにし、それを「スクールタクト」というアプリで共有したのです。イラストツールを使い手描きで描く生徒、図形を使って正確にレイアウトする生徒、家具の写真を切り取って貼り付けてデザインする生徒など、一人一人がありとあらゆるスタイルで自分の理想を形にしていました。

 また、作品に対してコメントを書いたり「いいね」も押せたりするので、スムーズに生徒同士のイメージをシェアすることができました。

――学校全体で端末を活用する土壌は、どのようにつくられたのでしょうか。

 教職員全員にタブレット端末が渡っているので、最初は校務で使い始めました。するとまず、教職員たちが利便性を実感し、自然と授業や学級活動の中で活用する機会が増えていきました。

 例えばチャット。何か決めることがあるたびに会議を開いていると、時間調整が難しいので、チャットで決められることはチャット上でコミュニケーションを取りながら決めるようにしました。あとは会議のペーパーレス化。事前にグーグルクラスルームで、資料データを共有するようにしました。するとある教員から「生徒への配布物もこれで渡せばいいよね」とのアイデアが自然と出てきて、そうした活用法が広がっていきました。

 さらに、本校では「ICTを教具ではなく、文房具として使おう」という方針を日常的に確認し合っています。生徒がペンを使ってよいか駄目かを教師が指導しないのと同じように、端末を使ってよいか駄目かについても口出しをしないように呼び掛けています。あくまで生徒主導。それだけを徹底した結果、いつの間にか生徒が当たり前のように使うようになっていました。

 今年4月に教職員と共有した学校経営方針では、「『主体性育成』と『ICT活用』。まずはこの2つだけを常に頭に置いて、教壇に立ってほしい」と伝えました。幾つも目標があるよりも、特に大切なことに集中してほしいと言ったことがよかったのかもしれません。

教師がICTの便利さを味わうことが近道

――以前、大辻校長はSNSで「タブレット端末の有効活用と主体的・対話的で深い学びは、セットで進めるべきだ」とコメントされていました。その真意を教えてください。

 端末を生徒主体で使わせることを恐れている教員の多くが、授業中に生徒用端末で何をしているか分からない点を不安視しているように思います。確かに、教員が板書しながら解説しているときに生徒の前に端末があると、ノートを取っているのか端末で何かを見ているのか、状況が分かりません。

 その状態を避けるためにも、授業スタイルを変えてみるというのはどうでしょうか。例えば、授業をワークショップ型にしてみると、面白いくらいに生徒の様子が見えるようになります。グループ活動を取り入れるのもいいでしょう。すると生徒が端末をどう使っているかがよく見えて、教師自身にとっても発見があるでしょう。生徒は不思議なもので、クラスメートとのグループ活動になると、自分だけ違うことをしているのが恥ずかしくなるようです。ですから、一人だけYouTubeを見ているような状態も格段と減るように思います。

 要は一斉講義にこだわっているから、端末がブラックボックスになってしまうのです。改めて授業形態を見つめ直せば、端末は確実に有効活用できるはずです。

――端末活用に際して、苦手意識を持っている教員はいませんでしたか。

 もちろん、いました。ただ、本校には得意な先生が寄り添ってサポートする空気感が当初からあり、その点がとてもよかったと思います。苦手な教員が、校務の中でICTの便利さに気付き、急ピッチで積極活用し始めるケースもありました。

 例えば先日、特に苦手意識を持っていた教員が「進路指導でICT を活用すると、めっちゃ便利でした!」とうれしそうに報告してくれました。

 進路指導では、生徒が企業や学校に出す志望理由書を教員が添削しなければなりません。これまでは、生徒がパソコン室でタイピングして印刷した紙に、教員が赤入れをして返すというやりとりでした。でも、それでは時間も手間も掛かりますし、中には「なくした」という生徒もいたそうです。

 そこでその教員は、グーグルドキュメントを活用して、生徒とやりとりをするようにしました。ドキュメントで生徒が書いているものを閲覧しながら、同時編集でコメント機能を使って「ここはこう言い換えよう」などと指導するのです。紙と違ってなくしてしまう心配はなく、データに残るので振り返ることもでき、生徒の文章力もどんどん上がっていると聞きます。

 そうやって教員自身がICTの可能性を発見することが、ICTの活用を広げていく上で、何よりの近道だと思います。

100年前の教師と現代の教師との違いとは

――学校全体でICTを活用する雰囲気をつくるコツはありますか。

 コツも何もないですよね。なぜかというと、使う・使わないは教師ではなく、生徒に主導権があるからです。ですから私から教職員に対して、具体的に指示を出すことはありません。でも、なぜか活用が進んでいくのです。

「端末を活用するかしないかは、生徒に決定権がある」と強調する大辻校長(本人提供)

 強いて言うならば、うちの生徒は端末に対して特別な印象を持っていません。「うちの学校、ICTが進んでいるんだよ」と生徒に言っても、「へえ」と薄い反応をします。大人はどうしても「デジタル」と色眼鏡で見てしまうのかもしれませんが、子どもにとってはもはや、デジタル・アナログという概念がないのかもしれません。「キーボードがついていて、スマホよりも画面が大きくて便利だな」くらいの印象なのかもしれませんね。大人がICTを特別視し過ぎて躍起にならないことが、大切なように思います。

 私もここまで活用が進むとは思っていなかったので、実は驚いています。4月に通年の目標として「ICTの活用」を掲げたのですが、もう十分に達成したので、10月には新たな目標として「対話」と設定しました。

――大辻校長はもともとベネッセでICT教育のプロジェクトを指揮したり、島根県や高知県の学校のICT化に携わられたりして来られました。改めて、学校現場のICT活用をどのように見ていますか。

 「GIGAスクール構想」の始動前に、こんなことが言われていました。100年前の医者をタイムマシンで現代に連れてきたとしても、仕事ができない。おそらく、新聞記者もパソコンやネットを使えないから仕事ができない。唯一、仕事ができるのは教師だというのです。痛烈な皮肉ですよね。

 教師は黒板を使ってチョーク&トークを展開し、生徒はそれをノートに写し続ける。Society3.0と言われる工業社会はそれでよかったのですが、今はSociety4.0、そして子どもたちが社会に出る頃にはSociety5.0を迎え、アナログとデジタルが融合した社会になっています。未来を生きる子どもを育む学校が、一番古い環境だなんて大きな問題です。

 今の子どもたちが、私たちの世代が知らない技術を使いこなせなければ、社会で生きていけない時代はすぐそこに来ています。ですから1人1台端末も、当たり前のこととして捉えることが大切だと改めて思います。

(板井海奈)

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【プロフィール】

大辻雄介(おおつじ・ゆうすけ)大手予備校や塾で講師・教室長を歴任後、2004年からベネッセコーポレーションに転職。ICTを活用した新規事業開発に携わる。その後、島根県隠岐諸島に移住し「島前高校魅力化プロジェクト」に参画。公設塾のマネジメントと教育ICT活用を進め、総務省地域情報化大賞アドバイザー賞を受賞。17年には高知県に移住し、「嶺北高校魅力化プロジェクト」を立ち上げ、入学者数を前年度の倍以上に増やした。今年度より新設された北海道大空高等学校の初代校長に就任。新しい「学校づくり」に取り組んでいる。総務省地域情報化アドバイザー、スタディサプリ数学講師を兼務。

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