【カナダ編】教員養成プログラム 難所は12週間の教育実習

 カナダに移住してから14年。ワーキングホリデーで渡航してから縁あって教育に関わり続けてきた。学童保育からスタートし、障害児のサポートなどを経て、現在は公立高校で数学を教えている。教育のさまざまな場でさまざまな役割で関わってきたからこそ、見えてくるものがあった。今回は2018年度より11カ月通ったブリティッシュコロンビア大学(UBC)の教員養成プログラムについて紹介する。ちなみにQSという会社の調査によると、UBCの教育プログラムは世界10位に選ばれている。

入学に必要な条件は学力と経験
学期ごとに6つ以上のコースをとるので、授業の合間を縫って読み物に目を通す

 高校教師になるためのプログラムに入学する条件は2つ、学力と経験だ。まず学力として、自分の教えたい科目での大学卒業資格(平均65%以上の成績)が必要となる。教えられる科目が多ければ多いほど、入学はもとより、プログラム終了後に教えられる科目が多いので、雇われやすいという利点もある。私の友人の中には、生物学専攻で数学副専攻という人もいた。

 経験としては、最低100時間以上のクラス内やそれに似た環境で働いた経験が必要だ。つまり賃金が発生するしないに関わらず、自分が教えたい年代の生徒を対象に働いた経験があるのかが問われる。1対1での家庭教師のような仕事よりも、カナダの学校で10人以上の生徒を同時に対応したことがあるといった経験の方がより有効だ。多くの人は直接地元の学校に連絡して、クラスに入ってボランティアさせてほしいと頼むことが一般的で、それを通してつながった教員などに推薦状を書いてもらい、経験の条件は満たされる。

 大学によって条件に違いはあるが、UBCでは以上の2点と「なぜ自分が教員になりたいのか」などを書いた小論文を提出し、入学に必要な書類がそろう。科目によって違いはあるが、倍率は2倍程度。私が入学した年は、小学校教員の希望者は350人、高校教員の希望者は350人程度いた。

プログラムの中身
直角三角形を使って数学を体験として感覚的に理解する

 プログラム期間は11カ月。州内の他大学はどこも最低2年のプログラムなので、UBCはかなり短めだ。そんな事情もあり、かなりハイペースで進んでいく。

 コース内容はさまざまで、子どもの成長過程を心理学の視点で学ぶこともあれば、教育の歴史やそれが自分たちの仕事環境にどう影響しているのか、特定の科目においての教授法や評価の方法なども学んだ。カナダは移民の国なので、英語学習者(ELL)にどう教えるべきかについても学ぶ。また、障害のある生徒や原住民の生徒をどうサポートしていくことがよりインクルーシブな教育につながるかなども学んだ。

 講義のようなクラスもあったが、基本的にディスカッションをもとにした授業で、さまざまな教科志望の生徒と共に議論を交わしながら理解を深めていった。週ごとの課題は、基本的にリフレクションをもとにしたものが多く、プレゼンや小論文が各コースの終わりに課された。

一番の難所は「12週間の教育実習」

 この11カ月のプログラム期間中には、12週間の教育実習が含まれている。最初の2週間は授業の観察だ。この期間に自分の教える科目だけではなく、他科目の教師のクラスにも入って観察する。この期間に2~3回、クラスを教える機会をもらえるのが通例だ。

 この2週間の後に、10週間の教育実習がある。大学側から1人、高校側から最低1人のアドバイザーが付いて、授業についての助言がもらえる。

クラス担当の教員に代わって、10週間以上教える

 10週間の間、徐々に仕事量は増えていき、最後の4週間は一般的な教師の仕事量の8割程度を担う。8割といっても、本来ならインターネットを使って教材などを作ればいいところを、「初めてだから自分で全部作った方がいい」というアドバイザーがいたり、「レッスン1つ1つのプランを毎日、明確に書き出してほしい」というアドバイザーがいたりするなど、実際の仕事量は一般的な教師の仕事量より多くなりがちだった。アドバイザーが実習の合否を決める決定権を持っている分、逆らえない難しさはかなりストレスになった。ちなみに数学教員希望者は1割くらいが合格できず、もう一度やり直しすることになっていた。

 このプログラムの一番の難所は、この教育実習だ。日本のように州や市ごとの試験はない代わりに、このプログラムを終えられるかどうかが教員免許を取得するための決め手になる。

 全体を通してかなりハイペースだが、1年近く同じ目標を持った教員志望の皆と過ごせて、本当に楽しい期間だった。プログラム内容はリフレクションが多かったので、自分の中にあるバイアスを見つめる良い機会となった。また、教育実習はアドバイザーの板挟みとなり、くじけそうになることもあったが、教員になるための準備としてはとても良い機会だったし、良いプログラムだと思っている。

【プロフィール】
 梅木卓也(うめき・たくや) 兵庫県出身。2007年度よりワーキングホリデーをきっかけに、カナダのバンクーバーで学童保育の仕事に従事。その後、13年度より教員補助員として1対1での障害児のサポートに携わる中で、公立小中高での教育制度や現状について学ぶ。並行して大学にて数学、教育学を学び、19年度よりバンクーバー市の公立高校にて数学教員となる。初年度より、生徒主体で数学を学ぶ方向性を模索。Thinking Classrooms (考える授業)の構築や、Standards Based Grading (基準を言語化した評価方法)の導入により、生徒と先生という垣根を超えた双方向的学びを実現。noteに日々の実践や学びを書いている。


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