【廣津留すみれ氏】ハーバード大で見た「主張する」授業

 大分市の公立高校から、ハーバード大学、ジュリアード音楽院に進学し、ともに首席で卒業したという経歴をもつバイオリニストの廣津留すみれ氏。小中高生を対象にしたサマーキャンプを企画したり、大分市の教育委員に就任したりと、未来の教育を担うキーパーソンとして注目されている。そんな廣津留氏は世界各国の才能が集まる環境で、どう学び、どう教育を捉えてきたのだろうか。インタビューの1回目(全3回)では廣津留氏のこれまでの歩みとともに、ハーバード大学で体感したという授業の在り方、学習者と教師の理想の関係性などについて聞いた。

この特集の一覧

発言をしないと認められない教室

――独学で公立高校からハーバード大学に進学されたのですね。海外の大学へ行かれて、どんなことを感じましたか。

 とにかく、発言をしないとその場にいることが認められないという環境に、最初は驚きました。ただ出席するだけでは駄目。発言したり、質問したり、その授業の中で自分がいるからこそ生み出せるバリューを示さなければ、評価されないし、クラスメートからも認めてもらえないのです。

ハーバード大学の学びの形に刺激を受けたと話す廣津留氏

 ハーバード大学の場合は、1つの学期に4つほどしか科目を取れず、1科目当たり週3回ほど授業があります。どの科目も大講義室だけでなく、15人ほどの少人数で取り組む授業が必ずあります。少人数の授業では、全員に発言するチャンスがあります。

 そこで発言ができないと、「この人は何も意見がない人なのだ」と認識されてしまいます。「とにかく何か発言しなければ」と、毎授業ものすごいプレッシャーを感じていました。

――著書で、初めて授業に出た時に「これでは駄目だ」と思い、即座に教授の所へ行ったエピソードが印象に残っています。

 そうですね。経済の授業だったのですが、先生の英語がとても速かったんです。確かに授業で使う言葉は教科書を読んでいけば何とか分かるのですが、内容を理解して、自分の考えを膨らませて発言するとなると、到底そのスピードには追い付けません。

 さらに私は英語の発音が良いと評価していただけていたので、「ネーティブなのに、ただ喋らない学生」と勘違いされる可能性もありました。

 そこで、オフィスアワー(教員が学生らの相談に応じる時間)に先生の所へ行って、「実は日本育ちで、先生の書いた板書をひたすら写し、授業中もなかなか手を挙げないシャイな文化で生きてきた」と伝えました。それ以降はオフィスアワーに積極的に先生の所へ行き、授業内容について質問をしたり、先生の意見を聞いたりを繰り返すことで、お互いの理解がどんどん深まっていきました。

 英作文の先生は「次回はこの質問のときに指名するから、ここは絶対に準備してきてね」「ここで発言する練習をしよう」などと、とてもポジティブに声掛けをしてくれました。すると、「手を挙げるには、こういうタイミングか」「こんな意見を言うと、クラスメートはこう反応してくれるんだ」などとだんだん成功体験を積めて、自信につながっていきました。もちろん、先生もそうした私の姿をつぶさに見ていてくれて、「そろそろ大丈夫かな」と独り立ちさせてくれました。こうして段階を踏みながらサポートしてくれたことは、とても助けになりました。

 こうした経験から、自分の主張を発信したり、それが受け入れられなかったときは交渉をしたりしながら、その環境で生きようとする術(すべ)が身に付いたように思います。

「同じ意見です」が駄目な理由

――そのほかにも、「前の人と同じ意見です」は受け入れられないとも、本の中にありました。

 たとえ前の人と同じ意見だとしても、そこに自分なりの視点や疑問などプラスアルファを加えることが求められました。何か新しいものを出さないと、先生としても評価が付けられないからです。

 学生たちは授業中、必死に自分なりの答えを導こうと頭を回転させ続けています。1つの質問に対して、13人いれば13通りの答えが返ってくるんです。生徒全員がインタラクティブに取り組むため、教室の中での対話は刺激的で、とても面白いものになるのです。

――日本と海外の教師の違いを感じることはありましたか。

 日本では小中高しか知らないので、一概には比べられません。ただハーバード大学の先生たちは、自分の専門分野がとにかく大好きだったことが印象的でした。

 専門分野に誇りを持っているからこそ、どういうふうに授業をすれば学生が喜ぶか、常に客観視しているように見えました。自分の知識をつらつらと並べるのではなく、授業をエンターテインメントと捉えて、教壇というステージでどのようにプレゼンをすれば、学生が夢中になるのかを研究されている先生が多かったように思います。

「学生が落第するのは教員に責任がある」というカルチャーに衝撃を受けたと話す

 また、「学生が落第するのは教員に責任がある」というカルチャーがあったのも新鮮でした。つまり学生が授業で寝ていても、「教員がつまらない授業をしているから寝ているのだ」という認識が教員側にあるのです。だから授業についていけていない学生がいると、対面ではもちろん、メールなどでも手厚くフォローしてくれました。

 一方で、先生が自宅に招いてホームパーティをしてくれたり、音楽の授業でプロフェッショナルのジャズの作曲家でもある先生とセッションしたりと、学生に歩み寄って一緒に学びをつくっていこうとしてくれる先生が多かったように思います。

学びたいことを自由に学べる環境

――大分市の公立高校から世界に飛び立ちました。きっかけは何だったのでしょうか。

 3歳から始めたバイオリンの存在が大きいですね。当時から今日まで「歯磨き、ご飯、バイオリン」のように、日常のルーティンになっています。一方で学業と両立したいという思いも、小学生の頃から持ち続けていました。新しい知識を得ることがとても好きだったので学校の授業で吸収しつつ、帰宅するとバイオリンも手を抜かずにやるというのが、自分自身の決まり事でした。

 高校生になって初めてパスポートを作って、イタリアの国際コンクールに行きました。そこでグランプリを頂き、その副賞として2年生で全米ツアーへの切符を頂きました。そして、そのツアーの最後のステージが、ニューヨークのカーネギーホールでした。

 その時に、そう遠くない距離にハーバードという大学があることを知り、軽い気持ちでキャンパスツアーに参加することにしました。当時の私はバイオリンに夢中で、大学受験についてはほとんど無知。日本の大学や受験システムについても、リサーチしたことがありませんでした。

 でも、キャンパスに足を踏み入れた瞬間、この大学の魅力に心を打たれました。案内してくれた在学生のキラキラした目の輝きは、今でも覚えています。学業はもちろん、課外活動にも手を抜かない彼らの姿に憧れました。学業にプラスして、演劇やディベートなど、それぞれが関心のある分野を突き詰めていたのです。学業についても「ルームメートの影響で、政治を専攻し始めたんだ」と話す人がいて、自由に専門分野を選べる雰囲気にも刺激を受けました。

 日本では高校3年生で「〇〇学部を受ける」と決めた後は、なかなか進路を変えるのは難しいように思います。また、学業と課外活動を分断することなく、どちらも両立させてお互いに相乗効果を生み出す考え方も、あまり見られません。学業とバイオリンを両立させたいと思いながら過ごしてきた私にとって、ハーバード大学は理想的な環境でした。

子どもの世界を広げるには?

――ハーバード大学を受験することを話した時の周囲の反応は、どうでしたか。

 三者面談で担任の先生に話したときは、「え、あのハーバードですか?」と聞き返されました。大分の公立高校からはハーバードはもとより、そもそも海外の大学に進学する人すらいませんでした。前例がないわけですから、先生方も何から始めればいいのか戸惑っていました。

 受験を決めてからは、インターネットで必要な資料をかき集めました。インターネットを使えば、大体の情報は手に入れることができます。

自身の経験を重ね、10代のうちに自分の世界を広げる大切さについて語る

 考えてみたら、些細(ささい)なきっかけで自分の世界は広げられるのです。「自分の興味があるテーマの勉強会がある」「海外の同世代と学べるキャンプがある」など、ネット上には情報があふれています。ただ中高生のうちはそんな世界の存在すら知る機会のない人が多く、そもそも自分の世界を広げるといった考えに行き着きにくいように思います。ネットが発達した今でも、特に地方の子どもたちが自分だけで十分な情報を収集するには限界があります。

 例えば、学校の先生が「あなたの興味のある分野でこんな活躍をしている人がいるよ」「面白そうなオンラインプログラムがあるよ」などと声を掛けてあげるだけでも、子どもたちが学びを深める大きなきっかけになるのではないでしょうか。

 世代や住んでいる場所に関係なく、子どもたちが自分なりのロールモデルを見つけられる環境が整ってほしいですね。

(板井海奈)

この特集の一覧

【プロフィール】

廣津留すみれ(ひろつる・すみれ) 大分市出身のバイオリニスト、起業家、著作家。成蹊大学客員講師・国際教養大学非常勤講師。大分市教育委員。12歳で九州交響楽団と共演、高校在学中にNY・カーネギーホールにてソロデビュー。ハーバード大学(学士課程)、ジュリアード音楽院(修士課程)卒業。2013年に共同設立した大分での英語セミナーSummer in JAPANの開催や、ビジネスセミナーとリサイタルを組み合わせた「講演演奏会シリーズ」の定期開催、テレビのコメンテーター出演など、演奏の傍ら多方面で活動中。著書に『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』(KADOKAWA)など。

あなたへのお薦め

 
特集