【廣津留すみれ氏】 「いい質問だね!」が子どもを変える

 ハーバード大生と日本の小中高生が一堂に会する英語のサマースクール「Summer in JAPAN」。アクセスが良いとは言えない大分市が会場にもかかわらず、「子どもたちが生き生きと輝きだす」と全国から応募が殺到し、今年で9年目を迎える。大分市の公立高校からハーバード大学に進学したバイオリニストの廣津留すみれ氏が、母・真理さんと共同設立した。インタビューの2回目(全3回)では、廣津留氏の実体験やサマースクールに参加する子どもの変容を通して、昨今課題となっている子どもの自己肯定感の育み方や、自律して物事に向き合うための要素について考える。

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ハーバード大生と小中高生が学ぶ7日間

――大分市で、ハーバード大生を講師に迎えた小中高生対象の英語のサマースクール「Summer in JAPAN」を運営されています。

 2013年から開始して、今年で9回目を迎えます。昨年と今年はコロナ禍の影響で、オンラインでの開催となりました。

大分市でハーバード大生と小中高生が学び合うサマースクールを運営する廣津留氏

 大分市で長らく英語教室を主宰してきた母と、ハーバード大学に通う私で、子どもたちの学びのために何かできないかと考えたのがきっかけです。私自身が地元にいた頃は、情報のリソースがたくさんあったわけではありません。同じような環境の子どもたちに、自分の世界を広げる経験を提供したいと思いました。

 また、英語をしっかりと学ぶには、学校の授業だけでは時間が足りないと感じていました。例えば、英作文。英語圏に出てみると、想像以上にライティングが重要視されていました。イントロがあって、ボディが3つあって、結論がある…というような体系立てた学びの不足を実感する場面が多くあったのです。そうやって体系立てて英文を捉えられるようになると、ロジカルシンキングを身に付ける上でも大いに役立ちます。

――プログラムはどんな内容なのでしょうか。

 1~2週間のプログラムで、午前中はライティングの授業、午後からはワークショップになっています。

 まずライティングは、クラスのレベルに応じて英語のエッセイや評論文、物語などの読み方や書き方を学びます。伝わりやすい文章を書くテクニックや自己表現方法などにも触れます。

 午後からのワークショップは、子どもたちが好きな学科を選びます。内容は講師を務めるハーバード大生の専門に応じて毎年変わっているのですが、最近ではコンピューターサイエンス(プログラミング)やパフォーミングアーツ、プレゼンテーションなどをテーマに授業をしています。

 講師を務めるのは、100人近くの応募から選抜したハーバード大生です。例年12人ほどの講師を招き、小中高生は約50~80人が参加します。

 学年別ではなくレベルや興味別にグループを分けているので、同じ教室に小学生もいれば高校生もいるところが特徴です。例えば小学生は高校生の姿を見て「あんな高校生になりたいな」と憧れたり、高校生は同じクラスの小学生が積極的に話しているのを見て刺激を受けたりと、一人一人の存在がモチベーションになっているようです。

 日本の学校のカリキュラムでは、「この学年でこの文法を習う」といったようにかっちりと決まっています。でも本来は、意欲があれば年齢を問わず学べるはず。年齢で分断するのではなく、学びたいことを学べる環境を提供したいと思っています。

「いい質問だね!」で教室は変わる

――どのような小中高生が参加しているのでしょうか。

 学ぶこと自体が好きな生徒や、もともと英語に興味があって海外に行きたいという目標がある生徒など、意欲的な子どもが多い印象です。当初は地元の子どもを対象に展開していく予定でしたが、シンガポールやカナダなど、ありがたいことに現在では15カ国くらいから子どもたちが集まるようになりました。

 どの子も現状に満足せず「ライティングの腕を上げたい」「プレゼンをしっかり学びたい」と、自分なりの目標を持って挑んでいる姿が印象的です。

――最初からそんなに自然になじめるものなのでしょうか。

 いえいえ、1日目はみんな本当にシャイ。やる気はあるけれど、発言は苦手な生徒さんが多いです。講師を務めるハーバード大生が「日本人はこんなに静かなんだね」と、驚いてしまうくらいです。

 でも、そこからの吸収が信じられないくらい早いのです。最終日には、ほぼ全員が英語をペラペラとしゃべっています。最初は「何を言っているのか分からない」と涙目だった生徒が、果敢に何とか分かろうと食らいついて、どんどん理解していく姿には毎回驚かされます。

学びの中に「遠慮や失敗を怖がる気持ちはいらない」と強調する

 最初はお互いに遠慮や気まずさがあるのか、指名されてもなかなか発言できない場合が少なくありません。でもそこはハーバード大生がよく頑張ってくれて、子どもたちの心を解きほぐしてくれます。授業を見学していても、「意見を言うのは大事だよ」と言葉で伝えるのではなく、自分の行動で寛容な空気をつくってくれるのです。

 例えば子どもたちが質問すると、ハーバード大生はまず「とてもいい質問だね!」と一言添えてから、回答し始めます。すると子どもたちは「質問していいんだ」と安心するとともに、「いい質問をしたい」との意欲が湧いてきます。こうした積み重ねを経て、子どもたちはだんだんと「遠慮や失敗を怖がる気持ちはいらないんだ」と分かり、どんどん発言するようになります。

自分に自信があるから、相手を尊敬できる

――世代も文化も違う大学生と触れ合うことで、さまざまな面で大きな刺激を受けているのでしょう。廣津留さん自身も、学生時代は刺激を受けることがありましたか。

 同じキャンパスに通う仲間には、いつも刺激を受けていました。ハーバード大学で出会った学生はみんな、自分に自信を持っていました。入学するまでに、学業や何らかの分野で秀でた成績を収めた人が多かったので、当然かもしれません。入学式のときに、学長から「みんな今まで一番だったかもしれないが、ここでは同じスタートラインに立っている。過去のことは忘れて頑張りなさい」とスピーチがあり、思いを新たにしたのを覚えています。

 一方で自分に自信や自己肯定感があるからこそ、相手をリスペクトできることも発見しました。例えば、ある学生の論文が科学雑誌『サイエンス』に掲載されたとしたら、仲間は自分のことのように喜びます。自分も違う分野を突き詰めてきたから、その学生がここまでにどれだけ努力してきたかを理解できるし、尊敬もできるのです。まったく嫉妬しない姿が印象的でした。

 また、一番大きかったのが寮生活です。学生の9割以上が寮で生活を共にし、寮対抗のスポーツ大会があったり、大学から帰って一緒にご飯を食べたり…。食堂は24時間開いているので、課題を持ち込んで夜中までやっていると、自然と皆が集まって来るんです。ベーグルとコーヒーが用意されていて自由に食べられるので、それを片手に毎日、午前3時くらいまで作業していました。

 そばにいる彼らが課題に取り組みつつ、「今からホッケーの練習に行ってくる」と課外活動も頑張っていたので、学生生活で弱音を吐きたくなったり、モチベーションが下がったりすることはなかったですね。

「学業に生かせない」でつぶす自己肯定感

――廣津留さんの中では、何が自己肯定感につながったのだと思いますか。日本では子どもの自己肯定感の低さが、指摘され続けています。

学業以外でも、自己肯定感につながる種を育ててほしいと語る

 学業もコツコツとやってきた自負はありましたが、やはりバイオリンが大きかったと思います。バイオリンは弾き方をどれだけ習ったとしても、結局は自分自身の内面を全てさらけ出して演奏する楽器だと言われています。それにずっと向き合い続けて来られたことが、大きな自信になっています。

 これは、バイオリンに限らない話ではないでしょうか。「部活動の試合で活躍した」「ディベート大会で入賞した」「eスポーツの大会に出場した」など、どんな人の中にも自己肯定感につながる種はあるはずです。ただ日本ではその頑張りを「学業に生かせない」と過小評価したり、「将来の職業には生かせない」と消極的に捉えたりしがちなように思います。私の場合はバイオリンを続けることを両親がサポートしてくれたのが後押しになりました。

 分野を問わず、モチベーションを維持してこられた経験のある人は、どんな困難があっても戦えるように思います。一方で、その対象を見つけられないという相談もよく受けます。

 私は、きっとどの子も夢中になってやりたいことはあるはずだと思います。でも、いろいろな言い訳をしてしまい、結局ないことにしてしまっているのではないでしょうか。改めて聞いてみると「でもお金がないし」「でも親が反対するし」などと、ハードルになっていることが見えてきます。学校の先生や保護者の皆さんなどがそのハードルを見つけ、どうすれば解決できるかを一緒に考え、子どもたちが自信を付けるサポートをしてあげてほしいと思います。

(板井海奈)

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【プロフィール】

廣津留すみれ(ひろつる・すみれ) 大分市出身のバイオリニスト、起業家、著作家。成蹊大学客員講師・国際教養大学非常勤講師。大分市教育委員。12歳で九州交響楽団と共演、高校在学中にNY・カーネギーホールにてソロデビュー。ハーバード大学(学士課程)、ジュリアード音楽院(修士課程)卒業。2013年に共同設立した大分での英語セミナーSummer in JAPANの開催や、ビジネスセミナーとリサイタルを組み合わせた「講演演奏会シリーズ」の定期開催、テレビのコメンテーター出演など、演奏の傍ら多方面で活動中。著書に『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』(KADOKAWA)など。

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