【変革する学校づくりの伴走者】 学校改革の鍵は何か?

 学校の学びが大きく変わろうとする時代の中で、教員に求められる役割も変化しようとしている。そうした中、学校や教員が取り組むべきこととは何なのか。中学教員の経験がある帝京大学教職大学院の町支大祐講師は今、各地の教育委員会や現場教員と共に、教員の人材育成や学校の働き方改革などの研究プロジェクトに取り組んでいる。学校改革の鍵を握ると言われている「みんなで決める場をどうつくっていくのか」について、研究から見えてきたこととは——。(全3回の1回目)

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その改革は自分事になっているか

——現在、どのような研究をされているのか教えてください。

横浜市立の中学校などで教員経験もある町支氏

 主に「教員の異動研究」「教員の成長とキャリアに関わる研究」「学校の組織開発」の3分野の研究に取り組んでいます。2つ目と3つ目の研究は、立教大学の中原淳教授の研究室のもとでやらせてもらっている横浜市での取り組みが中心です。

 横浜市では、2010年ごろから若手教師が急増していました。その先生たちをどう育てていくのか、ということで、人材開発や組織開発を専門とする中原教授の研究室と共に人材育成のプロジェクトに取り組むことになりました。私は違う大学の研究室に所属していたのですが、縁あってこの研究に取り組むことになりました。

 数年前からは、働き方のプロジェクトに取り組んでいます。「サーベイフィードバック」という手法を用いた学校の働き方改革や、その改革を進められる校長先生を育成するための研修開発です。

 「サーベイフィードバック」は、組織を調査して、その調査結果を現場に返すことで組織変革を果たす手法です。調査することが目的ではなく、それを基に「どうやって良くしていくか」を組織メンバーで対話して決めていく、という特徴があります。

——働き方改革など、学校改革に取り組むものの、なかなかうまくいかずに悩む学校も多いと聞きます。うまくいかない理由は、研究の中で見えてきているのでしょうか。

 例えば、管理職の思いだけで学校を変えていこうとすると、大抵の教員は言われた通りにやるものの、当人たちが腹落ちしていないために魂が入っていない改革になり、成果が出ないということがよくあります。そうならないためには、単純ですが「みんなで決める」ことがポイントになります。

学校改革は「何を変えるのか」よりも「どう決めるか」

 これはつまり、意思決定にみんなが少しずつ関わるということです。学校改革となると、「何を変えるのか」「何をやめるのか」が話題の中心になりがちですが、大事なのはむしろ「どう決めるか」なのです。

 全ての教員が意思決定に少しでも参加していると、その改革は“自分事”になります。学校改革は思った通りに進まないことも多々あります。そうした場合も、それぞれの教員に改革への納得感があれば、少しずつ調整しながら進めていくことができます。

 もちろん、これは簡単なことではありません。「みんなで決めたら意見が合わないのでは?」「いつまでたっても決まらないのでは?」という指摘はその通りで、教員は一人一人が信念を持っているので、みんなで決めようとすると、ぶつかったりズレが生じたりすることになります。

 ですから、これからの学校改革の鍵となるのは、管理職が「みんなで決める場をどうつくっていくのか」についてのノウハウを身に付けることなのだと思います。

意見が違う中で、どのように決めていくのか

——「みんなで決める場をどうつくっていくのか」「どう決めるのか」については、これまでの管理職研修などでも扱われてきたことなのでしょうか。

 「管理職はマネジメント力が大事」だと言われていますが、これまでの研修は、「マネジメントとはこういうことですよ」といった知識と実践の入り口までというケースがほとんどでした。「みんなで決める場をどうつくっていくのか」「どうやって決めるのか」というプロセスについては、重視されてこなかったと思います。

 マネジメントやファシリテーションは、実際にやってみながら学んでいくものです。教員の場合は授業研究などで、経験をもとに振り返り、学んでいくという「経験学習」を自然に行える場があります。管理職も、「みんなの意見が違う中、決めていく」ということについての経験学習をしていく場がもっと増えるべきであり、今後、それができるような管理職研修に取り組んでいきたいと考えています。

——みんなの意見が違う中、決めていく上でのポイントは何か見えてきましたか。

 これまでの研究を通じて見えてきたやり方の一つは、データを使ってその学校の状態を「見える化」することです。

 本来はそのためにあるのが学校評価なのですが、扱い方が難しく、うまく使えていない学校が多いと思います。だから、データを見て分析するというよりも、話のネタにするというか、カッコよく言えば、その場のメディアとして使えばいいと思います。

「データを見るタイミングにもこだわるべき」と町支氏

 特に丁寧に目を向けたいのは、教職員の方々の心理や感情です。教職員それぞれにいろいろな考え方があって、決めるのが難しい中、一歩進むときというのは、みんなの感情が動く瞬間なんですよね。そういう瞬間を共有する。データを見たときの、「ああ、うちの学校はこうなんだ」といったハッとする瞬間をみんなで共有したときは、組織が変わり始めるための大きなきっかけになったりします。

 だからこそ、データを見るタイミングにもこだわったりします。データを使うときに「事前に見ておいてください」と伝えてしまうと、それぞれがそれぞれのことを感じるだけになってしまいます。でも、みんなで決める場で、みんなで同時に見て「あっ!」と気付き、その空気と感情を共有すると、「それぞれ考えはあるけれど、これは変えていかなければ」という方向に進んでいけるようになります。

 これは難しいことのようですが、こういうファシリテーションは、教員が授業でやっていることと似ているんです。

——確かに、そうですよね。

 何かの問題や課題について子どもたちが「ああでもない、こうでもない」と考えて、先生が「じゃあ、教科書の○ページを開いてみようか」と言って、グラフなどを見せる。そして、そのデータを見てどう思うのかについてやりとりを重ねていく。そういうものと同じような丁寧な学びの場づくりを、教員間でもやっていくような、そんなファシリテーションが必要なんだと思います。

 結局、深い気付きがないと、人の行動は変わりません。深い気付きを共有する場や時間を持つことが、変わりにくいものを変えるきっかけになるのだと思います。

(松井聡美)

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【プロフィール】

町支大祐(ちょうし・だいすけ) 帝京大学教職大学院講師。1980年、広島県呉市生まれ。東京大学経済学部卒業後、筑波大学附属駒場中高等学校講師、横浜市立中学校教諭を経て、研究の道へ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、博士課程単位取得満期退学(修士 教育学)。青山学院大学助手、東京大学特任研究員、立教大学経営学部助教などを経て、2019年より現職。専門は教師教育、教育経営学。主な著書(共著含む)に『教師の学びを科学する』(北大路書房)、『データから考える教師の働き方入門』(毎日新聞出版)、『教師が学びあう学校づくり-「若手教師の育て方」実践事例集-』(第一法規)など。

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