【変革する学校づくりの伴走者】 行政と学校現場の間に立つ

 教員の人材育成や働き方改革について、教育委員会や教員と共に課題に向き合いながら研究を続けている帝京大学教職大学院の町支大祐講師。もともとは横浜市立の中学校で社会科教員だった町支氏は、どんな思いを持って研究の道へと進んだのか。根底にある教員へのリスペクトと、現場と一緒になって課題に向き合う研究ポリシーについて聞いた。(全3回の2回目)

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行政と学校現場の間に立つ人になりたい

――大学は経済学部だったそうですが、なぜ教員を目指そうと思ったのですか。

 就職活動をしていた頃、子どもの学力低下が話題になっていました。そうした中で私自身は、みんな好き勝手に公教育を批判しているけれども、外野から言っているだけでは教育は良くならないし、本当に教育を良くしていきたいのなら、公教育に本気で携わっていく人がもっと必要なんじゃないかと感じていました。そして、まず現場に入らないことには問題の本質が分からないと思ったのです。

 大学卒業後、教員採用試験に落ちて1年は非常勤講師をやり、翌年に受かってからは3年間、横浜市立中学校で社会科の教員として勤務しました。その後、大学院に入ってからも非常勤講師を1年間やったので、私がこれまで教壇に立ったのは計5年間です。

5年間の教員経験を研究にも生かしている

 実際に現場で一番感じたことは、「学校の先生たちはすごい」ということです。授業力のある先生の引きつけ方は感動するものがありました。生徒指導における指導の仕方やタイミングなども、本当にプロフェッショナルだと感じました。

 公立校で教員をやっていた3年間は、出会った先生方にも恵まれていました。中学1年生から3年生まで担任を持ち、部活動の顧問もやって、本当に楽しいものがありました。自分としては、天職なんじゃないかと思っていたぐらいです。

 しかし他の学校の話を聞くと、うまくいっていない学校もあるらしい。また、ある学校では力を発揮していた先生が異動先の学校ではうまくいかずに苦労しているというような話も、よく耳にしました。

 一人一人の先生が持っている力は素晴らしいのに、それぞれの先生が力を発揮できる学校に配置されていないのではないだろうか――。そうして人事異動など行政と学校現場との関わりに興味を持つようになり、もともとどこかのタイミングで教育の大学院に進みたいと思っていたこともあり、横浜市立の中学校を3年勤めた後、大学院に入りました。

――そうした思いが研究者へと進むきっかけだったのですね。

 行政と学校現場の関係がうまくいくかどうかで、公教育は大きく違ってきます。その間に立てる人が必要なのではないかとずっと考えていて、研究者になりたいというよりも、学校組織を研究しつつ学校と行政の間に立つ人になりたくて、研究の道に進みました。

学校現場は多様だからこそ、簡単ではない

――教壇に立った経験は、研究を進める上でも生かされているのでしょうか。

 そうですね。その一方で、自分が「現場を知っている」と思ってしまってはいけないと意識しています。私が教壇に立っていた期間は短いし、今は教職大学院の講師として学校の先生たちとよく接してはいますが、自分の知っている学校はかなり限定されたものだと思うからです。

「現場を知っている」と思ってしまわないよう意識しているという

 言うまでもなく、学校現場は本当に多様です。それぞれの学校がいろんな事情を抱えています。「こうやればうまくいきますよ」と他校のやり方をコピペしてうまくいくような、そんな簡単なものではありません。こうした感覚は、現場を経験したからこそ、一番理解していたいなと思っています。

――どんな時にやりがいを感じますか。

 教育委員会や現場の先生と、これからの学校でどんなことが大事なのかを話している時が、一番夢があって楽しいですね。学校改革や人材育成は本当に時間もかかるし、一筋縄ではいかないことばかりですが、現場と共に課題に向き合うこと、現場に知見を還元することを大切にしてきました。

 これは教員をやっていた時も同じでしたが、人が育っていく瞬間やそこに至る過程を共有できることが、自分の一番の喜びです。研究が現場の前向きな動きにつながったり、それぞれの教員のキャリア形成のきっかけになったりした時は、達成感があります。

 また、学校現場の先生たちの真面目さや地道さみたいなものが、もっとポジティブに世の中に伝わればいいなと、願っています。

――例えば、「1人1台になったのだから、もっといろいろなことができるじゃないか」など、世間からは公教育に厳しい視線が注がれています。でも、学校現場には世間に理解してもらえていない教員の苦労や頑張りが山ほどあります。

 ただ、これまでの学校は、例えば欠席を伝えるのに連絡帳を使わねばならないなど、教員自身が非効率なことを子どもにも保護者にも強いてきた現実もあります。教員側がどんなに苦しいと現状を訴えても、「古いやり方に固執しているからじゃないか」と思われてしまうところもあると思います。

現場と共に「どうやっていくのか」を一緒に考えていきたいと話す

 今回のGIGAスクール構想には、これまでにないくらいのお金がかけられています。もちろん、推進する上では多くの難しさがありますが、今まで「お金がないからできない」と言ってきた状況がある中で、この機会にポジティブな変化が見られなければ、学校教育は世の中からそっぽを向かれてしまうのではないかとも危惧しています。

 1人1台端末のように、新しいものが入ってくると、それをうまく使える学校と使えない学校の差がはっきりします。使えていない学校には、その学校なりの事情がありますが、「だからやらない」ではなく、その事情を踏まえた上で、どうやっていくのかを一緒に考えていく人が必要だと思います。私はこれからも行政と学校現場の間に立って、現場と一緒に考え、チャレンジしたいと思っている先生方の後押しをしていきたいと考えています。

(松井聡美)

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【プロフィール】

町支大祐(ちょうし・だいすけ) 帝京大学教職大学院講師。1980年、広島県呉市生まれ。東京大学経済学部卒業後、筑波大学附属駒場中高等学校講師、横浜市立中学校教諭を経て、研究の道へ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、博士課程単位取得満期退学(修士 教育学)。青山学院大学助手、東京大学特任研究員、立教大学経営学部助教などを経て、2019年より現職。専門は教師教育、教育経営学。主な著書(共著含む)に『教師の学びを科学する』(北大路書房)、『データから考える教師の働き方入門』(毎日新聞出版)、『教師が学びあう学校づくり-「若手教師の育て方」実践事例集-』(第一法規)など。

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