【変革する学校づくりの伴走者】 教員の学びの変化と若手育成

 教員の学ぶ時間や心の余裕を増やすためには、何かを減らすことを同時にやらなければいけない――。教育委員会や教員と共に、学校の働き方改革や教員の人材育成に取り組んでいる帝京大学教職大学院の町支大祐講師は、教職の魅力を取り戻すために、人材開発と組織開発を両輪で進めていく必要性を訴える。教員免許更新制廃止後における教員の学びの在り方や、若手教員の育成について聞いた。(全3回の最終回)

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実践型の研修を増やすべき

――教員免許更新制が事実上の廃止となりますが、教員の負担が減るのかについては疑問が残っています。今後の教員の学びの在り方について、どう考えていますか。

 ここ何年か、横浜市と研究を続けてきた中で分かってきたのは、教員の学ぶ時間や心の余裕などを増やすためには、何かを減らすことを同時にやらなければいけないということです。

「難しくても、教員が学び続けながら、働き方も変えていくしかない」と指摘する

 より良い教育に向かうためには、教員が学び続けることも大切にしながら、働き方も変えていくしかありません。この2つを同時に進めるのは非常に難しいことです。しかし、難しくてもそこを目指さないと、若い人は公教育の世界に入って来ないし、人材不足は解消されないままです。このままでは、今現在、学校現場にいる人たちがますます疲弊してしまいます。

 こうしたことから、今後の教員研修制度においては、教員自身が自分の力量をつくっていくために必要と感じられるような研修が中心になってほしいと考えています。

 そのためのポイントはいくつかあります。まず、強制された学びの場ではなく、教員自身が自分のための学びの場を選び取り、自分の力量をつくっていけるような仕組みです。もう一つは、ただ聞いて学ぶような理解推進型の研修だけでなく、現場での実践をプログラムの中に組み込むような実践型の研修がもっと増えてほしいと思います。例えば、研修の場で学んだことを現場で実践し、その経験を研修の場に持ち寄ってみんなで振り返りながら次の作戦会議をする、といったような研修です。

 こうしたものが機能するには、いろいろな仕組みをつくっていくことはもちろんですが、ベースとなるのは、教員自身が自分の職に対して誇りと希望を感じられるようになることだと思います。「教員としてやっていきたい」という思いが高まらなければ、自分の力量を高めることにも、そのために何らかの課題に取り組むことにも、積極的になれないと思います。

「学習者中心の学び」が若手育成のカギ

――若手教員の育成にも関わってこられたそうですね。今、全国的に若手教員の割合が増えており、その育成が喫緊の課題となっていますが、ポイントとなるのはどんなことでしょうか。

 10年ほど前から都市部を中心に団塊世代の大量退職と、それに伴う若手教員の大量採用が生じてきました。横浜市では、今はミドル層が増えてきていますが、少し前までは全校種の教員において勤続年数3年までが全体の約2割を、勤続年数9年までが全体の約5割を占めていました。

全国的に喫緊の課題である若手教員の育成にも携わる

 そうした状況の中、若手教員の育成に向けて横浜市ではメンターチームを組み、メンタリングを取り入れていました。メンタリングとは、若手と先輩が関係をつくりながら学んでいくことですが、このやり方は一歩間違えば、「先輩が後輩に一方的に何かを伝えていく」ことになりがちです。

 そうではなく、若手のニーズや悩みを中心に学んでいく必要があります。この発想の転換は、つまり教員の学びにおいても「学習者中心の学び」を大切にすることでもあります。その方が、学び手の問題解決や成長実感につながるという知見が、以前の研究プロジェクトからも明らかになっていました。

 例えば、子どもの学びがあまりにも阻害されているような場合は、先輩教員が介入して課題を解決することも必要でしょう。しかし、これまで主流だった「先輩が若手にやり方を伝える」だけの育成では、若手の自律にはつながりません。

 先輩側の教員がどうしても伝承型の育成をしがちになる背景には、教員自身がこれまで「学習者中心の学び」を、学び手として経験してきていないこともあるかもしれません。しかし、これから大きく学びの在り方が変わっていきます。若手教員は、その中心を担う存在となります。だからこそ大切なのは、育成する先輩の側も自分が経験してきた学びから変わっていく、学び続けていくことなのだと思います。

若手にとって「一緒に悩んでくれる人」となっているか

――1人1台端末が整備され、個別最適な学びが提唱されるなど、学びの在り方が大きく変わろうとしている今、若手教員にとって、いわゆるお手本になる先輩教員像が見えづらくなっているように思います。

 教育は新しい形になっていこうとしているので、誰もが悩んで当然です。それこそ、「1人1台端末を活用して授業をやるには、どういう授業がいいのか」という問いには、まだ誰も答えを持っていません。だからこそ、若手もミドルもベテランも、一緒になって悩んでいいと思います。

「若手もミドルもベテランも、一緒になって悩んでいい」と町支氏

 若手を育成する立場にある教員は、まずは自分が若手に対してオープンになって、失敗も見せていくことが大切です。そうして学び手である若手が、分からないことを分からないと言えるような心理的安全性が担保された環境をつくることが、最初のステップです。自分がオープンになって、いろいろなことを見せていかないと、若手は「一緒に悩んでくれる人」だとは決して思いません。

 横浜市では、若手の育成を支える勤続10年目ぐらいのミドルの育成プロジェクトも、同時に進めてきました。その中では、若手とミドルの1対1の関係づくりだけでなく、ミドル同士がつながっていくことも大切にしていました。若手とミドルが個々にメンタリングを進めていくと、どうしても相性の合う、合わないが出てきます。ミドル同士がつながって、全体で若手を育てていく視点を持つことも、重要なポイントになると思います。

(松井聡美)

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【プロフィール】

町支大祐(ちょうし・だいすけ) 帝京大学教職大学院講師。1980年、広島県呉市生まれ。東京大学経済学部卒業後、筑波大学附属駒場中高等学校講師、横浜市立中学校教諭を経て、研究の道へ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、博士課程単位取得満期退学(修士 教育学)。青山学院大学助手、東京大学特任研究員、立教大学経営学部助教などを経て、2019年より現職。専門は教師教育、教育経営学。主な著書(共著含む)に『教師の学びを科学する』(北大路書房)、『データから考える教師の働き方入門』(毎日新聞出版)、『教師が学びあう学校づくり-「若手教師の育て方」実践事例集-』(第一法規)など。

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