【北欧の教育最前線】 コミュニケーションを生み出すデジタル端末

 スウェーデンでは、ほとんどの人がスマートフォンを持っているものの、デジタルツールの所有や利用に関しては、いまだに世代、性別、社会経済的背景による格差がある。こうした格差をなくし、全ての人が平等にデジタル化の恩恵を受けられる社会に向けて、学校のデジタル化が改めて強調されている。

 日本でも、GIGAスクール構想で小中学校に1人1台端末が整備され、その活用や成果に関心が向けられている。AIドリルのような知識・技能を身に付ける教材は部分的にも取り入れやすいが、個別学習になりやすく、クラスメートと協働しながら思考・判断・表現を育てたり、学習のモチベーションを維持したりするのは難しい。

 すでに10年以上前から教室でデジタル端末が日常的に使われているスウェーデンの教室でも、同様の課題を乗り越えてきた。そして現在、協働学習においてデジタル機器が活用されている。

デジタル機器を活用したライティング

 スウェーデンの学校でのコンピューター利用は、1980年代に北欧で教育用コンピューター「COMPIS」が開発・販売され、高校で利用され始めたことにさかのぼる。90年代には小中学校でもコンピューター活用が本格化し、2000年代に入ってWi-Fi環境が整ってからは持ち運びができるタブレット型端末の使用も広がり、多くの自治体で1人1台端末の整備が進められた。

 こうした発展の中で、学習におけるデジタル活用の方法についても多くの提案が行われ、検証が重ねられてきた。「学習のためのライティング(STL)」はその一つだ。

 この学習法の特徴は、子どもたちがペアになって、お互いの文章を相互評価したり、協力して改訂したりする点にある。子どもはパソコンやタブレットで文章を書き、その文章はグーグルドライブ上で常にペアの相手や教師とシェアされ、ライティングの過程で何度もフィードバックを得る。

 こういった活動自体は、日本でも見られるだろう。ただしSTLは、その前後も含めて一連の学習活動がモデル化され、組織的に取り組まれている点が特徴的で、スウェーデンの学校現場に広く浸透している。

 STLでは、共同作業に入る前の準備も重要である。

 まず、教師はライティングの目的や評価基準を子どもに説明する。学習指導要領にもとづいて目標を立て、評価基準を明確にする。これらは子どもたちにも提示し、活動中に見直せるようにする。

 次に、子どもたちが関心を持てるような導入を行う。関連するビデオクリップを授業前に見るように指示しておくこともできる。

 そして、作成する文章の種類や書き方の技法などを、具体例を示しながら教える。こうした準備の上で、子どもたちが自分で文章を書きはじめ、ペアの相手と協力しながら完成を目指すのである。

 有益なフィードバックを行うスキルも必要だ。子どもたちは活動の中でこうしたスキルを学び、実際に使ってみる。自分自身がフィードバックを受ける経験もできる。こうして、お互いの作品をよりよくするフィードバックのスキルを身に付けていく。形成的評価やフィードバックは近年重視されている。STLでは、デジタル機器を利用することでこれらを容易にし、教師にも子どもにも楽しく取り組みやすくしている。

 なお、最後のライティングの評価は教師が行う。活動の過程を通してデジタル機器を利用することで、全ての子どもたちの作品や相互評価の過程がデジタル上に記録され、最終評価に利用できる。

 ソーレンチューナ市では、2011年からSTLの利用を推進しており、その成果を測る研究も行われた。STLを3年間実施したグループは、しなかったグループよりも国語と算数の全国学力テストの成績が良かった。

 なお、比較対象のグループには、デジタル機器は使ったがSTLを実施しなかったグループと、デジタル機器も使わずSTLも実施しなかったグループがあったが、後者の方が前者よりもテスト成績が良かった。つまり、デジタル機器の使用が成績を上げたのではなく、STLを行うことによる学習効果が高かったということであり、デジタル機器はそれ自体が学習を促進するのではなく、使い方が重要であることを示す研究結果だった。

コミュニケーションを生み出すタブレット

 このように、個人でそれぞれに端末を用いながら、コミュニケーションを取って協働して学習を進める方法が開発されている。

 それでもなお、デジタルツールは個人作業を増やすという懸念の声も聞く。小さい頃からデジタルデバイスに触れる環境では不安もなおさらだ。そんな懸念を解消するタブレットを、スウェーデンの学校で見つけた。

タブレットが埋め込まれた机(左)

 ある日訪問したプリスクールで、数人の子どもたちが机を囲んで、楽しそうに声を掛け合いながらゲームをしていた。アーケードゲームのようにも見えるが、ゲームは足し算だったり、文字遊びだったり、教育的な配慮があるものだった。よく見ると、曲線でグリーンの温かみがあるデザインの机に、大きなタブレットが埋め込まれていた。これはアプリをダウンロードできる普通のタブレット端末だという。

 子どもたちから希望があれば先生が電源を入れて、長時間にならないように気を配りながら遊ぶことができる。子どもたちは、友達と一緒に、交代しながら遊ぶように約束しているそうだ。

 子どもにちょうど良いサイズ感で、コミュニケーションが生まれる安心感があった。同じ机は別の学校でも目にした。

 コミュニケーションや協働での学習が重視される中、デジタル機器の活用方法を工夫すると同時に、デジタルデバイス自体を工夫し、変えていくことができるのだ。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)


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