【ぼうず校長】 「なぜ学校に来るのか?」に答えられるか

 「最後のとりでとして、誰一人取りこぼさない学びの場としてあり続けたい」――。3部制の定時制高校、東京都立八王子拓真(たくしん)高校の磯村元信校長は、同校の役割をこう言い表す。課題を抱えた生徒一人一人に合理的配慮を行い、一人でも多くの生徒が卒業できる高校づくりに取り組んでいる磯村校長。生徒にとって本当に良い学校とは何か。(全3回の2回目)

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高校は適格者主義のままでいいのか

――拓真高校は校則や単位取得など、生徒それぞれに合わせた配慮を行って、中退率などを減らしてきました。一方で磯村校長は、義務教育ではない高校教育の中では、個別最適化された教育が浸透しづらいという課題も指摘されています。

高校生であることがセーフティーネットになっている生徒もいると指摘する磯村校長

 はい、「特定の子だけに配慮するのは、他の生徒にとって不平等じゃないのか」といった、平等主義が根本にはあるように思います。とはいえ、小学校や中学校は義務教育ですので、課題のある児童生徒に対して、通級や自立活動などさまざまな支援が機能しやすい環境にあるでしょう。

 しかし、高校は義務教育ではありません。そのため、いわゆる「適格者主義」とでも言うのでしょうか。一定以上の学力や社会性を身に付けた人が通うべきところという思い込みを前提に、捉えられてしまっているように思えます。そのため、高校生が学校というセーフティーネットからこぼれ落ちそうになっても、「自己責任」だと切り捨てられてしまうのです。

 例えば、不登校気味で小・中学校の学びが十分に定着していない生徒に、個別に学び直しの機会を与えたとします。しかし、「他の生徒にとって不平等になるから、やめてください」と言われるのが現状ではないでしょうか。こうやって見放された高校生は、結局、学校を辞めてしまいます。一方で、昨今は高校が「準義務教育化」されたと言っていいほど、多くの生徒が進学しています。

 特に本校のような定時制高校には、さまざまな課題や困難を抱えた生徒がたくさんいます。彼らにとっては高校生であることが、セーフティーネットになっているのです。いったん高校を中退してしまうと、自力で社会に戻ることはそう簡単ではないでしょう。

 私たちは今こそ、高校教育を再定義しなければいけないのではないでしょうか。

単位が取れると、学校を辞めない

――拓真高校では、どのように再定義しているのでしょうか。

 特別支援教育の考えを取り入れた、「合理的配慮」に基づく学校運営をしています。本校では生徒一人一人の困り感に対応するために、学習面やメンタル面、日本語などの言語面について、年間を通じて組織的・計画的に個別指導ができる体制を敷いています。

 学校でいくら生徒の話を聞いて、相談にのってケアをしても、結局は単位が取れなければ、生徒は学校を去っていきます。そこで柔軟に単位を認められるルールづくりも進めています。

 例えば、心身の病気や不登校などで登校できない場合は、特例的に補習の履修を認めています。特に理由のない欠席の場合でも、欠席が目立つ生徒には、年間を通して補習期間を設定し、年度末を待たずに単位認定の補習を前倒しで実施しています。

コロナ禍で学校にくる意義を考え続けたという

 昨年度は文科省や教委から、新型コロナウイルス感染症に対する感染不安が理由の欠席には配慮するよう通知がありました。本校もそれに倣い、感染不安による欠席の生徒は欠席扱いしないようにしてきました。

 その代わり、コロナが少し落ち着きを取り戻した年度末に、「対象の生徒に対して可能な限り補習をしてほしい」と教職員に呼び掛け、補習を実施してきました。正直、担任からすると、「本当に感染不安の欠席かな?」という生徒もいるわけですが、そこは学校が区別できることではありません。ですから、申請した生徒全員に補習を実施しました。すると、これまで84%ほどだった単位取得率が92%に跳ね上がりました。不登校や退学者の数も減少するなど、生徒は単位が取れると学校に来るし、学校を辞めることもなくなるということが分かりました。

 コロナ禍で、「学びの保障」の必要性が改めてうたわれました。本校の場合、学びの保障は単に授業時間を確保することではありません。生徒たちにできる限り学びのチャンスを与えて単位を取得させ、一人一人の学びをつなげていくこと。それこそが、拓真高校の「学びの保障」なのです。

学校に来る意義をもう一度考える

――コロナ禍の特例的な補習を呼び掛けたとき、教職員の反応はどうでしたか。

 最初は「何時間欠席した生徒までを補習の対象者とするのか、校長が決めてください」といった声も一部でありました。「私がそんなの決められるわけがない。毎日生徒を見ている先生方一人一人が、それぞれ考えてほしい」と伝えました。すると、それぞれの学年や担任が、自分のクラスの状況に合わせて範囲ややり方などを工夫して進めてくれたのです。

 その補習があったからこそ単位を取れた生徒の数が増えました。不登校気味だったけれど「もう一度頑張ってみよう」と、新年度から登校して学習に励んでいる生徒もいます。

 単位が取れるとモチベーションが上がり、学校に来る。生徒目線で考えれば当たり前のことでしょう。逆に、せっかく入学しても単位が取れないと分かるとモチベーションの維持が難しくなり、学校を休みがちになって、結局途中で辞めてしまいます。ただ「卒業できるチャンスがあるかもしれない」と分かると、「頑張ってみようかな」と前向きになれるのではないでしょうか。

 単純なことですが、コロナ禍の学校運営で改めてそのことに気付かされたように思います。

――コロナ禍ではICTの活用が急速に進み、学校に行かなくともオンラインで学習できる環境が整いつつあります。学校の役割をどのように捉えていますか。

 私立高校授業料実質無償化がスタートした結果、私立高校やN高などの広域通信制の高校に生徒が流れ、本校のように進路が多様な公立高校は、定員割れが深刻になっています。さらにはコロナ禍で1人1台端末の整備が進み、公立学校でもオンライン授業ができるようになり、「学校に行かなくても卒業できるのではないか」という価値観が、生徒や保護者にも広まりつつあります。

 このタイミングで私たち公立高校の関係者は、今一度、学校に来ることの意義を考える必要があると感じています。「オンラインでも単位は取れる」という事実があるのなら、「なぜ学校に来るのか」という問いときちんと向き合い、目の前にいる生徒にしっかりと説明できなければならないように思います。

 私は学校説明会で、本校は「高校生デビューできる学校」だとアピールしています。本校を志望する生徒は、不登校を経験したり、授業についていけなかったりするなど、小中学校時代につらい思いをした子も少なくありません。彼らに向けて「小・中で不登校でも、勉強が苦手でも問題ありません。うちの高校で、一から一緒にやっていきませんか」と呼び掛けています。

社会に出る練習の場としての学校として、あり続けたいと話す

 本校は今年度より東京都地域探究推進校に指定されており、特徴として地元就職に強い学校でもあります。地元である八王子市内の高卒就職者の約6割を、本校の卒業生が占めています。社会に出て働くのであれば、たとえ不登校であったとしても、どこかの段階で外に出て、社会とつながり、他人とコミュニケーションを取ったり規則正しい生活を送ったりする経験をしなければいけません。「このままでは駄目だ、頑張りたい」と思っている生徒が、社会に戻る練習場としてあり続けることが本校の役目だと思っています。ですから、時代が変わりゆく中でも「変わりたい」「チャレンジしたい」と願う生徒がいる限り、「学校に来て一緒に過ごそう」とメッセージを送り続けるでしょう。

「高校生デビュー」できる学校

――生徒たちの反応はどうなのでしょうか。

 「高校生デビュー」という表現をしましたが、確かに高校入学をきっかけに変わりたいと思っている生徒は一定数います。理由の一つは、高校では小・中学校時代の仲間から離れられるからです。そのタイミングを心待ちにして、「高校に行ったらこんなことをやりたい」と思い描いている生徒は少なからずいます。

 小・中学校時代に不登校経験のある生徒は、最初から毎日登校することは難しいでしょう。そのため、一時的にオンラインを活用した学習を行い、登校できても教室に行けない生徒には「学びのスペース」で学習をサポートしています。また、並行する形で、教室で授業を受けることが難しくとも、保健室や相談室など学校の居場所となり得る場所を一緒に探していきます。こうやって一人一人の適応のスピードやなりたい将来像に合わせながら、最終的には教室で皆と学習や部活動に励む。そうして卒業後には就職して、社会で生きていけるようにするためのサポートをしています。

 入学式では生徒たちに、「学校はいろいろな課題を乗り越える訓練をする場所ですよ」と話しています。本校は、生徒が社会に出るために練習をするための場所。公教育の最後のとりでとして、誰一人取りこぼさない学びの場としてあり続けることが求められているのです。

(板井海奈)

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【プロフィール】

磯村元信(いそむら・もとのぶ)

東京都立八王子拓真高等学校校長。2008~18年まで東京都立秋留台高等学校校長として在任。19年より現職となり、中退防止を最重要課題として、学び直し、特別支援教育の高校への普及・啓蒙を推進するために教員集団の意識改革に努めている。

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