【ぼうず校長】 生徒のための学校づくりは教職員主体で

 複雑な問題を抱えた生徒が多く通う、3部制定時制高校の東京都立八王子拓真(たくしん)高校。中退や不登校などが深刻だった同校に着任してから2年半の間にさまざまな学校改革を実施し、「生徒のための学校」を実現させてきたのが磯村元信校長だ。100人以上に上る教職員をまとめ上げ、学校の当たり前を抜本的に見直してきた磯村校長に、「課題集中校」が生まれ変わった経緯と、目の前の児童生徒と向き合う教職の役割について聞いた。(全3回の最終回)

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「ぼうず通信」で教職員と交流

 「校長がお勧めしていた大村はまさんの書籍、ネットで購入しました。早速読んでみますね」と、若手教員が磯村校長に話し掛ける。

 午前・午後・夜間の3部制の同校は、午前8時半から午後9時まで、びっしりと授業が詰まっている。午前に出勤する「A勤」と午後に出勤する「B勤」に振り分けられた教職員は、講師も含めると総勢100人以上。職員会議は数カ月に1回と、全職員が集まる機会は少ない。会議に時間を割くよりも、1秒でも長く生徒と向き合ってほしいという思いが、磯村校長にはある。

さまざまな工夫を凝らしながら、100人以上の教職員とコミュニケーションを取る磯村校長

 目まぐるしい日々の中で、一人一人の教員とじっくり語り合う時間は十分に取れない。そんな中、磯村校長は教職員とコミュニケーションを取るために、毎週「ぼうず通信」を発信している。お勧めの書籍や散歩途中で出会ったユニークな人のエピソード、日々校舎をぐるぐる巡りながら見えた生徒たちの様子…。A4用紙の裏表に、磯村校長が見た学校の風景がつづられている。「結構、反応があります。表はクスリと笑えるような内容、裏は私が伝えたい学校教育の本質的な内容をまとめて、教職員が手に取りやすいように意識をしています」とほほ笑む。

 この「ぼうず通信」には、「とにかく生徒第一でなければならない」「基礎・基本を手取り足取り丁寧に教えるのが教師の役目」「ルールを変えれば、みんな頑張れる」など、磯村校長が40年の教職人生の中で見いだしてきた「生徒のための学校」をつくるヒントが書かれている。

 定年後の再任用で同校の校長に着任した磯村校長の任期は、今年度までだ。「教職員たちには、『遺言みたいなものだから、よく覚えておいてくれよ』と言っているんです。私が去った後も、『生徒のための学校』を柱にこの学校が在り続けてほしいですね」と言葉に熱を込める。

一番知っているのは現場の教職員

――生徒の支援には組織的に当たっているようですが、100人以上いる教職員はどのように連携しているのでしょうか。

 3部制という特徴を踏まえると、学年単位で集まるよりも、1部、2部、3部といった部のまとまりを強化させる方が効果的です。そのため、部単位で生徒に関する情報の共有を図り、若手教員のフォロー体制を敷いています。

 授業が朝から晩まであるので、長時間の会議はなるべく減らしています。実は集中すれば、10~15分程度のミーティングでも物事は決まります。本校の職員室では集まれる時間に集まれる人数がぱっと集まり、即席の会議をしてまた業務に戻るという光景がよく見られます。

生徒のことは現場の教職員が一番知っていると語る

 校長として、現場の最前線で生徒と向き合っている教職員たちこそが、生徒や学校を一番知っているのだということを、常に念頭に置いています。ですから教職員が主体となって、学校のルールを決めるべきだと思っています。文科省から降りてくる通知をただ待っている状態では、生徒のための学校は実現できないのではないでしょうか。

 本校では教職員主体の学校運営を実現するために、「未来構想プロジェクトチーム(PT)」という仕組みを作りました。有志の教職員が自由にチームを立ち上げ、新たな取り組みを提案できるというものです。PTである程度の形になったら、その取り組みは分掌に移行し、PTは解散。また新しいPTが生まれます。

――例えば、どんな取り組みが生まれているのでしょうか。

 最近では若手の教員が中心となり、オンラインを活用した学びについて考えるPTが立ち上がりました。このPTでは、補習のときにスマートフォンでQRコードを読み込むと、教員がつくった授業動画が出てきて解説してくれたり、欠席した生徒に向けて授業動画を配信したりと、さまざまな手法を試しており、来年度に向けて集約させていこうと動いているところです。

 確かに、ICTの活用については文科省からある程度の方向性が示されています。しかし、どの学校にも共通する一律のやり方で活用が浸透するわけではありません。本校にはさまざまな年代や国籍、バックグラウンドの生徒が通っており、足し算や引き算ができない生徒もいれば、自分で学習する習慣がない生徒もいます。普通科や進学校と同じようなやり方でICTを学習に生かせるかと言えば、難しいでしょう。だからこそ、本校の生徒に合わせた活用法を検討しているわけです。

校長が外部につなぐ仕組みを作る

――課題や困難のある生徒へのきめ細やかな対応と、教職員の働き方改革をはじめとした労働環境の整備は、どのように両立しているのでしょうか。

 課題を抱えた生徒をフォローすることが、学校や教職員にとって負担増になることは事実です。「手のかかる生徒の面倒を見ると、ちゃんとやっている生徒に目が行き届かないのではないか」「一生懸命やろうとしている生徒に、力を注いだ方がいいのではないか」などと、これまで赴任してきた課題集中校でも指摘されることがありました。

 確かに、「学校がどこまで支援するか、できるのか」については、限度があるでしょう。ただ、手のかかる生徒と関わることが、教師にとっても自身のスキルを高める上で貴重な経験となっていることを忘れてはいけません。

 本校では、全教職員の勤務時間を私が確認できるようになっているので、残業が目立つ教職員には声を掛けて状況を把握するように努めています。

 あとは、生徒の問題を学校や教職員だけで抱え込まないよう、積極的に外の専門機関につなげるようにしています。例えば、生徒の相談は毎週来校するユースソーシャルワーカーやスクールカウンセラーと連携しながら対応に当たっています。また、今年度から東京都地域探究推進校に指定されたことを受け、産学協働のコンソーシアムを立ち上げました。その一環として、地域の青年会議所や商工会議所が生徒の進路指導を担ってくれたり、学校運営連絡協議会のメンバーに地元企業やNPOの人などを入れたりするなど、さまざまな組織と一緒になって学校運営をしています。

 今の学校は教育だけでなく、福祉や医療まで担わざるを得ない状況になりつつあります。教育以外の部分をいかに外部に出せるかが、校長に課せられた役割の一つになっているように思います。

――早期に専門機関につなげることで、教職員の負担軽減が図られるだけでなく、生徒にとっても良い影響があるのではないでしょうか。

 精神的に不安定で自傷癖や拒食症の症状がある生徒が、担任に向かってカッターナイフを振り回したことがあります。その後も精神的に不安定な症状が続き、ご家族に相談した上で、医療につなげ入院することになりました。退院後、その生徒に改めて単位を取得するチャンスを与えると、最初は「そんなの無理だ」と文句を言っていましたが、どうにか努力してある程度の単位を取得しました。それが自信やモチベーションにつながったようで、今年度は落ち着いた様子で登校しています。

 ここ数年は希死念慮を持った生徒も見られるようになっており、生命に関わる案件も幾つか発生しています。そんな事態に直面したときは、自分たちで抱え込まず、迷わずに専門機関とつながって適切な処置を受けさせる。そうした対応を徹底するようにしています。

学校はいろいろな形がなければ

――磯村校長自身が困難を抱えた生徒に目を向けるようになったきっかけは、何かあったのでしょうか。

 初任時代に赴任したのは、大変な生徒ばかりの高校でした。時代的なものもあり、暴走族に片足を突っ込んでいる生徒やシンナーを吸いながら授業を受けている生徒も珍しくありませんでした。そんな中、私は柔道部の顧問を務めていましたが、部活動で見る生徒たちと教室で見る生徒たちの様子が少し違うのです。教室では不良行為をしながらも、柔道場に入ると常に真剣に取り組んでいました。彼らは練習の成果が実り、関東大会に出場して「勝てるはずがない」と思われていた強豪たちを次々に倒して勝ち進んでいきました。

 放っておけばとんでもないことをする生徒たちです。しかし、大人がしっかりと目を向けてやると、内側に秘めているすごいパワーを発揮することができる。「こいつらはやっぱりすごいな」と思いましたし、教師として大切なことを教えてもらいました。当時のやんちゃな生徒たちとは、今でも酒を酌み交わす仲です。

 一方で、柔道場から出ると彼らのような生徒は、「お荷物」のように扱われているのも事実でした。教師は口では「頑張れよ」と言うものの、意識が向いているのは常に言うことを素直に聞く真面目な生徒たち。「学校の先生の目を見ると、『お前なんてやめちまえ』と言われているような気がした」と、当時を振り返る教え子もいました。

 今の学校を見ると、全ての学校が進学校を目指しているかのようで、学力が全ての物差しになっているように思えてなりません。校長仲間と話していても、「うちの学校、今年は〇人を国公立大に入れたんだ」と誇らしげに語る人がいます。そうしたことを自慢することに、とても違和感を覚えます。

 進学校への異動の打診もありましたが、それよりも困難を抱えている生徒と向き合いたいとの思いが強く、課題集中校で勤務するのを選んできました。

――最後に、これからの学校教育の在り方について思っていることを教えてください。

 学校は、いろいろな形がなければいけません。もちろん学習意欲が高い生徒のための進学校も必要でしょう。ただ、今は全ての学校で「進学のための学力」というたった一つの物差しだけで、学校運営をしてしまっているように見えます。

 いくら努力しても学力が上がらない生徒もいます。彼らに学力を求めても、自己肯定感は高まりません。それよりも、彼らの良い面や特技を伸ばしてやって、卒業後に社会で生き抜ける人材に育てていく。そういう学校の存在も、認めるべきではないでしょうか。

 学校をつくる上で、生徒を見ることでしか答えは出せません。目の前の生徒は何を求めているのかをよく考えれば、どのような教育を実践していけばよいかが、おのずと見えてくるはずです。

(板井海奈)

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【プロフィール】

磯村元信(いそむら・もとのぶ)

東京都立八王子拓真高等学校校長。2008~18年まで東京都立秋留台高等学校校長として在任。19年より現職となり、中退防止を最重要課題として、学び直し、特別支援教育の高校への普及・啓蒙を推進するために教員集団の意識改革に努めている。

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