【カナダ編】 生徒主体のカリキュラムへの変革

 カナダでは、教育は国ではなく、州の管轄となっており、州ごとに違った取り組みが行われている。ブリティッシュコロンビア州(BC州)では2015年度より、幼稚園からグレード12(高3)までのカリキュラムの変革が徐々に行われてきた。今回は州レベルでどのようなカリキュラム変革が行われたのかについて、次回は各教員やクラスのレベルでの変革について述べていく。

カリキュラム変革の目的
カリキュラムの変遷

 06年度に行われたカリキュラム変革は、比較的詰め込み型だった。各内容で何を教えるか、どれくらい時間を掛けるのが適当なのかまで細かく州からの指示があり、教員や生徒の独創性や主体性を発揮できるような隙間は見当たらなかった。

 15年からの変革では、この流れを一掃し、内容だけを見ればかなり薄まったように感じた。内容を減らして一体何を導入しようというのか、そこに新しいカリキュラムの目的がある。コンピテンシーの導入だ。

 いかに多くの内容を丸覚えするかが重視され、応用力に乏しかった過去の流れを変えるためにも、たとえ少なくてもこの内容を使う力、つまりコンピテンシーを育てようということだ。

 この変革の裏にあるのは、社会の要請の変化である。これまでの「誰かに言われた通りのことができる」というスキルは、過去には通用したかもしれない。しかし、現代の情報技術やIT の発達した社会は常に変化している。それに対応するためには「自分で考えて動く力」が必要になる。国内外の教育学の専門家による協議の末、この社会の変化に対応するには、生徒主体で柔軟に考える力を付ける教育が欠かせないという結論に至った。

 新しいカリキュラムの目的は社会の変化に対応することだが、筆者としては学び続ける力を得ることで、生徒自身が人生を思い通りに切り開く自由な力を身に付けてほしいと思う。

共通テストは廃止に

 日本と違ってBC州では、大学入学に直接関わる「大学入学共通テスト」のようなものは存在しない。以前は、州共通のテストが主要5科目で年に一度行われていた。教科ごとに4択問題を3時間半ずつかけて解くというものだ。成績の40%はこのテストの結果に左右される。そして最終成績の合計平均点が大学進学の判断に使われていたが、15年以降はこのような成績に直接関わるテストは完全に廃止となった。

 ではなぜBC州は、このような共通テストの廃止へと方向転換したのか。それは新しいカリキュラムへの変革に伴って、生徒主体の教育を目指すとき、次のような問題が考えられるからだ。

  • 共通テストの大学進学においての比重が高まれば高まるほど、考えるための学びから、テストのための学びに方向性が変わる
  • 生徒一人一人の将来はさまざまで、共通テストは大学進学を目指した生徒にしか意味がなく、学びの機会の公平性に欠ける
  • 人種や文化、育った国や環境の異なる生徒の多いカナダ。そのカナダで共通テストは、社会的経済的水準の高い家庭にある生徒にとっては優位に働き、それ以外の生徒にとっては逆効果に働く
  • 生徒の学びのペースはそれぞれで、最後まで学びの成長の機会は与えられるべきであり、1回きりのテストでは不公正

 こうした理由をもって共通テストはなくなった。

柔軟に考える力が求められている

 15年以降は、これらの共通テストは国語と数学のリテラシーアセスメントへと形を変えた。成績への直接的影響はなく、大学進学にも使われない。州がコンピテンシーベースの学びがどれだけ進んでいるかを測るために行われている。

数学アセスメントの例題

 問題は以前のような4択だけでなく、解答が1つとは限らないようなものも出題される。例えば「部長として、過去のセールスの結果から部下のボーナスをどのように分けるのが適切か」などの問題があった。単純な公式では解けないもので、より考えることを楽しんでほしいという意図が感じられる。

 また、先に述べた学びの不公正さにも配慮して、高1から高3まで最高で3回、このテストを受けることができる。成績は記録に残り、大学や企業が参考にすることもある。

 社会の要請に合わせてカリキュラムの目的が大きく変わり、それに伴って州レベルでの共通テストの認識も大きく変わった。いかに多くの4択問題を速く解くことができるかといったスキルは、もはや求められていない。求められているのは、解が必ずしもない状況下でどのような判断ができるかというような、柔軟に考える力なのだ。

(梅木卓也=うめき・たくや 2007年度よりワーキングホリデーをきっかけに、カナダで学童保育や障害児サポートなどに携わり、19年度よりバンクーバー市の公立高校にて数学教員)


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