【北欧の教育最前線】 フィンランドのウェルビーイング・デイ

 フィンランドの学校では、ウェルビーイングやメンタルヘルスについて取り組んでいる。筆者がインターンシップを7カ月していた総合学校(日本の小中学校に相当)で参加した事例を紹介したい。


全員参加のイベント

 ウェルビーイング・デイは、5年生から9年生(日本の中学校3年生に相当)を対象に、午前9時から午後1時15分まで実施された。

ウェルビーイング・デイのクラスごとのスケジュール表

 1日のスケジュールは、クラス単位で、さまざまなテーマを扱う7つのステーションを回るというものである。1ステーション当たり20分ほどの活動に参加し、途中にランチや休憩が入る。ステーションは教室や専科の部屋、体育館などを拠点に、学年によって異なるテーマを扱う。

 例えば5年生は、「リラクゼーション」「睡眠と休息」「感情」「マインドを鍛える」「メンタルヘルス」「時間管理」「身だしなみ」というテーマのステーションに参加した。6年生では、自尊心、セクシュアルアイデンティティーも扱い、7年生ではさらに、安全(タバコ、アルコールやドラッグなどの中毒物と交通安全)が入ってくる。

クイズやワークショップで楽しみながら

 各ステーションでは、さまざまな専門家が講師になり、クイズやワークショップなどの活動を提供していた。

 例えば、「メンタルヘルス」のステーションでは、精神保健師が講師になり、自分自身に対するポジティブなフィードバックを紙に書き出すワークを実施していた。また、「マインドを鍛える」ステーションでは、ユースワーカーが、誰かからポジティブなフィードバックをされたときのことを思い出して隣の人とシェアする、そして自分にポジティブなフィードバックをした時のことを思い出してシェアする、というワークをしていた。

 「セクシュアルアイデンティティー」のステーションでは、ユースセンターのスタッフがファシリテーターとなり、問いに対する意見を表明する活動を行っていた。教室を「そう思う」「分からない、知らない、答えたくない、考えたい」「そうは思わない」の3つのエリアに分け、生徒たちが自分の意見に合わせて教室を動く。投げられる問いは、「性は生まれつきにあるものから変わることはないと思うか?」「レインボープライドは必要なものか?」「ゲイの子どもはゲイか?」「性転換手術をしないとトランスジェンダーとは言わないのか?」などだ。正解がある問いやそうでないものが織り交ぜられていた。

 ユースワーカーは、各回答エリアに移動した生徒にその理由を尋ねたり、コメントを求めたりする。「レインボープライドは必要だと思わない」という回答エリアに立っていた生徒に、ユースワーカーが「どうしてそう思った?」と尋ねると、生徒は「いいことだとは思うけれど、僕は必要だとは思わない。レインボープライドの行進自体が大事なわけではないから」と話した。また、「自分の親は、もし自分の性的指向が他の人と異なっていても、自分を受け入れてくれると思うか?」という問いに対して、「そう思わない」という回答エリアに立っていた生徒は「私の親は、宗教的に理解してくれないと思う」と返答した。生徒たちが話すことで一人一人の価値観、多様な意見やモノの見方に気付くことが出来るのが興味深かった。

 「安全」ステーションでは、ユースワーカーがオンラインクイズシステムを使ってセクシュアルハラスメント、性的合意、オンラインいじめなどについて出題し、生徒たちがグループ、もしくは個人で、スマホを使って匿名で回答し、競い合って理解を深めた。

 担任の先生は専科の先生たちと交代で休憩をとりながら、担当学年のクラスの生徒がいるステーションに一緒に行き、ふざけている生徒たちに声を掛け、監督している様子だった。一緒にワークに参加している先生もいた。

専門家とのつながりを持つ機会

 講師は学校の先生ではなく、外部の専門家が務めている。思春期真っ只中の生徒たちには、親にも先生にも友達にも相談したくない、あるいは相談しにくいことはたくさんあるだろう。その中で、自分からどこかに助けを求めたい時にどうしたらよいか、ただ話をしたい時にどのような機会があるのか、そのためのつながりがウェルビーイング・デイでは緩やかに作られていた。

ステーションで配布されるガールズハウス&ボーイズハウスの案内。各団体の活動紹介や連絡先を受け取ることができる

 例えば、さまざまなアクティビティを展開する街のユースセンター(当時コロナ禍のため開室せず、街中でのアウトリーチを中心に活動)のスタッフ、シェルターのような役割も持つユースセンター、ガールズハウスやボーイズハウスのスタッフも来ていた。講師の年齢もさまざまだ。20~30代に見える若手のユースワーカーもいれば、白衣を着た年配の専門家たる風貌の人もいた。

 この学校のウェルビーイング・デイは、個人や小グループ単位で、ユースワーカーや各種専門家と近い距離で関われるようにデザインされていた。生徒は、クイズや身体を動かすアクティビティを通し、参加して学ぶことができた。また、カジュアルな雰囲気で話しやすく感じた。講師を務めた保健師に聞くと、専門家として学校に呼ばれてこうした形で生徒と関わることはよくあるとのことだった。ウェルビーイング・デイというのは1つの手法に過ぎないが、このアイデアから学べることは多そうだ。

(田中潤子=たなか・じゅんこ。オウル大学教育学部修士課程修了、たなか家教育研究所主宰)

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