【未来へのハッシャダイ】 本気が格差を突き破る

 18歳の選択格差を是正するために高校生のやる気を引き出し、教師や地域のコミュニティーづくりにも情熱を注ぐHASSYADAI social(ハッシャダイソーシャル)の勝山恵一代表理事。若者が生きていくにはさまざまなしんどさが伴う現代の日本で、働くことの本質とは何なのか。インタビューの最終回では、大人の入口に立つ18歳が置かれている現状を、ハッシャダイソーシャルがどうやって突き破ろうとしているのかに焦点を当てる(全3回の最終回)。

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仕事の本質をどれだけ本気で追求できるか

――就職できたとしても、仕事が肌に合わず、すぐに辞めてしまう若者は少なくありません。学校も生徒が卒業してしまうと、支援したくてもできません。

 確かに、今の学校組織の構造として、卒業後までを含めた伴走型の支援を行うのは難しいかもしれません。学校だけでは先生個人の思いでできる範囲になってしまうので、限界があります。

 その点で、僕らはやりやすいんですよね。自分たちの中で「こうできるかな」とか「これは課題だ。やってみよう」と思ったら、明日からでもすぐに行動できるんです。

 学校の構造を変えようとするのは、時間も労力もかなり必要です。でも、現実問題として、目の前の生徒はいつまでも学校にとどまっているわけではありません。だからこそ、私たちのような団体を頼って、学校の中のオプションとして、長い目で伴走型の支援ができる仕組みを整えてもらえないかと考えています。

――高校卒業後に正規で就職しても、すぐに辞めてしまえば、次は非正規の仕事しかないという厳しい現状もあります。この問題をどう考えますか。

 日本では、どうしても正規の仕事に就職させようという意識が強いですよね。でも、個人的にはもっと大事なことがあるように思うんです。

 僕自身が営業の仕事を始めた頃の話ですが、お客さんに説明をして熱意を伝え、「あなただから買うよ」と言ってもらえたとき、自分はただこの商品を売っているのではなくて、お客さんに対して自分の思いや熱意も売っているのだと気が付きました。それが対価となって自分の給料になる。よく、「お金は『ありがとう』の現物化」だと言われますが、僕はそれ以来、人にどれだけの「ありがとう」と価値を届けられているのかを常に考えるようになりました。それは今の教育に関わる仕事でも変わりません。

 きっと、どんな仕事でもその本質は一緒なんです。ニーズがあって、誰かにその価値を届ける。それによって対価を得る経済活動なんです。それをどれだけ本気で追求できるかどうかで、その人のキャリアは変わってきます。

 だから、非正規であろうが正規であろうが、自分が選択した道でその本質を貫けるならいいのではないかと思います。もちろん、非正規雇用の不安定さや、非正規の仕事に一度就くと正規の仕事に転職が難しい構造を変えていくことは、大前提として必要です。

 就職って、本来はもっとフランクでいいと思うんですよね。日本の場合、高卒でも大卒でも、すごく慎重になりすぎているように見えます。まるで結婚相手を決めるみたいです。一生のうちに初めて恋をした相手としか結婚できないというのなら分かりますが、そうじゃないですよね。会社だってそうです。一生その会社に勤め続ける必要なんてないから、しんどかったり、他にやりたいことが見つかったりしたら、辞めていいと思うんです。「この決断でミスをしたら終わりだ」みたいに思い込んでいるから、冷静に判断できずに、単に「安定していそうだから」といった視点でしか仕事を選べなくなる。でも、結局それは自分の本当の意思ではないから、仕事にやりがいを感じられなくなるんです。そういう人がこの国にはかなり多いですよね。

 今はいつだって選び直しができる世の中です。だからこそ、「自分次第」の部分がかなり大きなウエートを占めるようになってきています。もちろん、「自分次第」と言えるのは、社会や周囲のサポートがあるというのが前提の話です。

 これから独立して人生を踏み出そうとしている若者に、「自分次第で何とかやっていけるんだ」ということを認識させるためのコミュニティーやきっかけをつくるのが、私たちハッシャダイソーシャルのミッションですね。

可能性の「認識」格差

――コロナ禍などもあり、改めて日本の教育格差が拡大するのではないかという懸念が広がっています。

 僕は、過去に非行に走っていたことがフォーカスされがちですが、当時の僕の周りには引きこもりの子もいたし、他人とコミュニケーションを取ろうとしない子もたくさんいました。自分はたまたま非行に走ったけれど、彼らと僕の家庭環境はすごくよく似ていました。極論かもしれませんが、非行に走るのも、引きこもりになるのも、そんなに変わらない。ただ偶然、きっかけとなるものが違っただけなんじゃないかって思うようになりました。

 この国では、非行も引きこもりも、本人の責任だという意見をよく耳にします。確かに、多少は当事者にも責任があるかもしれません。でも、もっと根源的には、親やさらにその親から連鎖している多様な要因がある。そういうものが複雑に絡み合った結果、がんじがらめになった本人が、非行や引きこもりに陥らざるを得ない状況に追い込まれてしまっているんです。

 残念ながら、資本主義社会で生まれた限り、平等というのはあり得ないと僕は思います。親の年収であったり、教育観であったり、あるいは文化資本みたいなものも含め、家庭による差はどうしても出てきてしまいます。

 そういうふうに、育った家庭や地域によって、子どもたちには可能性の認識格差がある。可能性の格差ではなく、可能性の「認識」格差です。だから、自分たちが置かれた現実をしっかりと認識し、どうやったら幸せになれるかを考えることができたら、その格差は埋められると捉えることもできます。

 かつては、家庭の格差がそのまま自分自身の人生のハンデになっていた社会でしたが、今はそうではありません。親以外の、例えば僕たちみたいな存在とつながり、認められて、応援されて、一緒に伴走してもらえる環境がある。そういう新たなきっかけをいかに届けていくかが、これからより重要になってくると思っています。

――もしかすると、そうして応援してくれる周囲の存在に、学校や生徒自身が気付いていないだけなのかもしれませんね。

「ハードルは高い。だからこそ熱量を届ける」と語る勝山代表理事

 やっぱり、そのハードルは高いですね。でも、だからこそ僕らは現場に熱量を届けに行くんだと考えています。その壁を乗り越えることができれば、きっと視界が開けて新しい価値観が形成されていく。若者が、一人一人の目の前にある壁を超えるための「発射台」の役割を、僕たちが担えればと思います。

(藤井孝良)

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【プロフィール】

勝山恵一(かつやま・けいいち) HASSYADAI social代表理事。1995年、京都府生まれ。高校をはじめ、少年院や児童養護施設などで講演を行いながら、さまざまな若者のキャリア支援プログラムを展開する。3児の父。

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