【海外の教育ニュースを読む】 米国の公立学校が直面する10の課題

 米国の教育メディア『Public School Review』が昨年12月21日、「公立学校が直面する10の大きな課題」と題した記事を掲載した。10の課題とは、①クラスの定員②貧困③家庭状況④ICT⑤いじめ⑥生徒の学習態度⑦国の政策⑧親の関与⑨生徒の健康問題⑩教育予算――である。

 記事の内容に入る前に、米国の教育事情を紹介しておきたい。米国は「分断国家」と言われている。イデオロギーの対立は言うまでもなく、所得格差や地域格差などによって、さまざまな対立が引き起こされている。そして、米国を分断している重要な要因の一つが、教育なのだ。

 多くの日本人の理解とは逆に、米国は「学歴社会」であり、「コネ社会」「階級社会」である。大学を卒業しなければホワイトカラーの仕事には就けない。高卒、大学中退者に残されているのは低所得のブルーカラーの仕事のみだ。

 教育格差は所得格差につながる。低学歴の人々は社会的に落ちこぼれていく。トランプ前大統領のポピュリズムを支えたのは、“忘れられた人々”と呼ばれるブルーカラー層である。ブルーカラーの子弟の大半は高等教育を受けることができず、貧困の再生産が行われている。

 筆者が米国の大学で教えていたとき、すでに社会人の受講者が多くいた。彼らは会社で管理職に就くには修士号が必要だと語っていた。日本と違って米国では、昇進を目指す社会人は大学や大学院に再入学する。大学院で学位を取ることで、より良い職に就くことができるのだ。

 だが現実は、多くの子供たちが教育から脱落しつつある。米国の公立学校の生徒の3分の2が、学年で要求される水準の読み書き能力を持っていない。公立学校は破綻状況にある。

 それでは『Public School Review』の記事から、米国の公立学校が抱える問題を見てみよう。

 最初の問題は、クラスの定員数に関する問題である。教育予算は郡や市の予算から支出される。地方自治体の多くは財政難であり、教育予算を削減している。その結果、クラス当たりの人数が増加し、教師の数も削減されている。同記事は「定員が30人を越えると効果的な教育はできない。15人から17人の定員が生徒にとっても教師にとっても好ましい」と指摘している。定員数の引き上げや教師の削減は、低所得層の生徒に最も大きな犠牲を強いるとも指摘している。

 次に貧困の問題だ。生徒の22%が貧困層の子供たちである。貧困家庭は4人家族で年収が2万3000ドル以下の所帯だ。近い将来、貧困層の子供たちが25%に達すると予想されている。すでに17州の公立学校では貧困層の児童生徒が過半数を超えている。

 こうした貧困家庭の高校生の多くは十分な食べ物や安心して寝る場所がなく、学習能力も劣り、学校を中退している。そうした生徒は低賃金のブルーカラーの仕事にしか就けない社会構造になっている。

 貧困の背景には、家族問題が存在している。多くの家庭は離婚家庭かシングルマザーで、親が子供の教育に無関心で、学校や教師と協力する意欲も持っていない。

 次の問題は、デジタル技術に関するものだ。教育現場では急速にICT化が進んでいる。だが、同記事は「教師のPC活用能力は生徒より遅れている。PCを使いこなせる生徒は教室内での授業に興味を示さなくなる傾向がある」と指摘している。さらに「学校は予算がないため、必要なPC機器などIT関連の機器を購入することができない」。公立学校は教育のデジタル化の進歩に追い付けない状況に置かれている。

 次が日本でも問題となっている、いじめ(bullying)の問題である。これは世界共通の問題だが、同記事は米国ではSNSを使ったいじめ(cyberbullying)が深刻な問題になっていると指摘している。ツイッターやフェイスブックなどを使って行われるいじめであり、こうしたいじめに対して明確な法律的対処が確立されておらず、「親も教師も学校の管理者も、法的にいじめにどう対処していいか分からない」と、問題の深刻さを指摘している。

 いじめなどによる学校の雰囲気の悪化に伴い、生徒は教師に対して無関心になり、敬意を払わなくなっている。そして教師による教室管理も、極めて難しくなっている。この問題も公立学校における教育の質を低下させ、深刻な問題を引き起こしている。

 さらに公立学校の荒廃を受け、富裕層の公立学校離れも進んでいる。

 米国の保守系メディア『Blaze Media』が昨年12月3日に報じた記事では、大富豪のマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長は「米国の公教育は破綻している」と指摘。さらに「公立学校制度は生徒が大学や企業で成功を収めるために必要なスキルを与えることができず、学習能力よりも出席評価を重視して卒業証明を発行している」と、公立学校の問題を説明している。

 富裕層は優れた教育を行う私立学校やチャーター・スクールに子供を入学させ、公立学校との教育格差がさらに拡大している。ブルームバーグ元市長は、20の大都市圏にあるチャーター・スクールに7億5000万ドルの寄付を行い、生徒を15万人増やす計画を明らかにしている。

 日米の公立学校の抱える問題には、多くの共通点が見られる。米国では、優れた労働力を作り出し、産業化に大きく貢献した公教育制度を、時代の変化の中で見直すべきだとの議論も出てきている。


(中岡望=なかおか・のぞむ ジャーナリスト)

この特集の一覧

あなたへのお薦め

 
特集