【木村泰子×山田勝治】 「子どもを見る目」を持つために

 文科省の調査によると、2020年度に自ら命を絶った児童生徒は415人に上り、過去最多を記録した。こうした状況がある中、子どもが安心できる学校づくりをどう進めればよいのか。大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子氏と、大阪府立西成高校の山田勝治校長による対談の第2回では、両氏がこれまで出会ってきた子どもたちとのエピソードを基に語り合ってもらった。「私たち教師は、本当の意味で『子どもを見る目』を持たなければならない」と山田校長は強調した。(全3回の2回目)

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負の連鎖をどこで断ち切るか

――読者から、児童生徒の自殺についての質問がたくさん届いています。

 木村 以前、生徒が自殺した中学校の命の授業に招かれたことがあります。私は「授業の前に死んでしまった子にあいさつできないようなら、授業はできない」と伝え、彼の自宅に伺いました。彼のお母さんやお父さん、大学生のお姉ちゃんにお会いし、仏壇に手を合わせました。そこには自殺する2カ月前の遠足で撮った、満面の笑顔の写真が飾ってありました。それはもう、本当に幸せそうな笑顔でした。

「子どもの命以上に学校が守るべきものはない」と強調する木村氏

 仏壇に手を合わせた後、「お母さん、彼は今頃、『なんで自分死んだんかな』って、死んだこと後悔してるやろうな」とつぶやいてしまいました。その瞬間にお母さんがうわーと泣き崩れて、「私はこれから生きていくことができます」とおっしゃいました。自分の子どもがいつも通り学校に行って、何があったのかも分からないまま死んでしまったのです。そのお母さんの言葉が忘れられません。

 彼は中学2年生でした。クラスの3人の子に、「お前死ね! 死んでくれ」と毎日言われていたのです。実は彼が標的になる前、その3人が中心になって担任に反発し、学級崩壊が起きていました。学級がそんな状態になると、いろいろな教員や保護者が監視に入るようになり、教師に対する反抗ができなくなります。そうして3人は、優しそうな子を標的にしたのです。毎日「死ねよ」と言われても、彼はニコニコして言い返しもしなかったそうです。

 でも、その日は違いました。「俺に死んでほしいんか? 死んだらいいんか?」と返したそうです。「そうや、頼むわ!」「分かった」と、子ども同士の会話はそこで終わりました。その後、帰りのホームルームの時間に、3人の生徒が担任に「先生、今日〇〇が死にます」と公言しました。すると、担任は3人に言葉を掛けるのではなく、いじめられている彼に「死ぬなんて軽々しく言わないで。死ぬって言った以上、本当に死ななければならない」と言いました。信じられません。そして彼は学校を出て、以前住んでいたマンションの屋上から飛び降り、一人で死んでしまいました。

 こういうことが、現実に起きています。教師は「指導がうまくいかなかった」だけで、何の罪にも問われません。もちろん、先生個人を責めているわけではありません。その先生も生徒から反発されて、ものすごく苦しい思いをしてきたでしょう。また、いじめた3人の生徒に責任を押し付けるのも違います。彼らだって学校に居場所がなく、困っていた子なのです。こうした負の連鎖をどこで、どう断ち切ればよいのでしょうか。

 担任の先生以外にも、いじめていた3人や死んでしまった彼が安心する関わりができた大人が、周りにはいっぱいいたはずです。担任だからといって、その先生だけが矢面に立ち続けなくてもよかったのです。先生たちはいずれ転勤して、また何事もないように生活が始まるのかもしれません。でも一人の中学生の、尊い命が失われました。それは取り返しのつかないことです。

子どもが意見を言う環境がない学校

――山田校長はいかがでしょうか。

 山田 教師は一体、子どもの何を見ているのだろうかってことですよね。いろいろなことを見ているようで、実は何も見ることができていないのではないかと思います。

 学校の中に、いかに子ども自身が言いたいことを言える環境をつくるかが、とても大切なように思います。子どもの権利条約の「自分に関係のあることについて自由に自分の意見を表す権利」を担保することは、ハイティーンになればなるほど大切になっていくし、幼い頃からそれができるような環境づくりが必要なのではないでしょうか。

 しかし、多くの学校ではそうした環境が整っておらず、「子どもを見ること」ができていません。「できる」「できない」という表面的な部分で評価したり、あるいは「言うことを聞く」「聞かない」で評価したり…。それ以外での学校の評価軸、「子どもを見る目」を考えたとき、あまりないことに気付くでしょう。だからこそ、本当の意味での「子どもを見る目」というのを、私たち教師は持たなければなりません。

 神奈川県立田奈高校などで「居場所カフェ」を運営されている、NPO法人パノラマの石井正宏代表の言葉に、とても感銘を受けました。スクールカウンセラーに相談できる子どもは、何が困っているかを言語化できて、相談する相手が誰かを分かっていて、自分でその予約を取れて、予約日に学校にちゃんと居られる子どもだというのです。まさにその通りで、そんな子どもはもしかすると、自力で課題を解決できてしまうかもしれません。

 それより大切なのは、何に困っているのか言葉にできない子どもたちのつぶやきを、いかに拾っていくかです。子どもは「ああ、言えた」と思えるだけで、ずいぶん肩の荷が降ります。子どもたちが何気なく愚痴を言えて、ほっとできる環境が学校にあることが大事だと、先生が心から思えるようにすることが重要だと思います。

その「指導」の目的は何か?

――学校を安心できる場にすることが大切ですよね。

 木村 子どもの自殺は、2020年度に過去最多となりました。学校という居場所がありながら、この3年間で1064人もの児童生徒が自ら命を絶ってしまっています。もし、家庭や地域に居場所がなくても、学校に駆け込んで「助けて」と言えていれば、誰かが「ここに私がおるやん」と言葉を掛けられていたら、彼らは違う選択をしていたかもしれません。それこそが、子どもにとっての安心なのです。

 学校、先生、指導って何が目的なのでしょうか。教師という仕事をしている以上、「良い先生になろう」「良い評価をもらおう」なんて考えてはいけません。目の前に困っている子どもがいたら「自分に何ができるか、自分では無理だったら、どんな力を活用すればよいか」、教師という仕事はこれだけを考えていればできるのです。子どもの命以上に学校が守るべきものはないんですから。

 児童生徒の自殺が過去最多なのにもかかわらず、いまだに学校現場は教師の指導力を強めよう、暴れる子どもを教室から排除しようとしています。それこそが安心・安全な学校だと信じているのです。果たして、そうでしょうか。このままでは学校が、先生の言うことを「はい」と聞く子どもだけが通える場所になってしまうのではないかと案じています。

教師個人ではなく、チーム学校で対応

 山田 自殺の話は、本当につらいですね。関連して本校で多いのが虐待です。幼い頃から虐待を受けてきた子どもが、17~18歳くらいで精神疾患を発病するケースが少なくありません。多い症状の一つが「かい離状態」で、何かのきっかけで別人格が出て来るのです。そうやって違う人格に自分を委ねて暴力的な言動を繰り返し、やり場のない気持ちを解消しています。ときには、衝動的に命を絶つケースもあります。

「本当の意味で『子どもを見る目』を持たなければならない」と山田校長は語る

 本校ではこういった生徒に対し、医師と連携を取りながら、医療につなげる働き掛けを徹底しています。その過程では、個人情報の保護や保護者の了承など、さまざまな壁があります。だから個別の判断や対応を教師個人に任せるのではなく、週に1回、校長室で会議を開き、学校としての方向性を決めながら進めています。

 私は自分の母校が嫌いで、「こんな学校は嫌だ。変えたい」という思いから教師になりました。一方で多くの先生が、幼少時代に学校が好きだったり、学校で良い思いをしていたりと、学校で何らかの成功体験をしているように思います。高校中退や不登校を経験したことのある教師も、あまり見かけません。だから癒しや安心よりも、努力や我慢を児童生徒に求めてしまう人が多いのではないでしょうか。

 それよりも、子どもの弱さを認めたり、できないことを見つめたり、あるいは学校に行きたくない思いを理解しようと努めたりすることの方が、本当は大事なんじゃないかと思います。

(板井海奈)

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【プロフィール】

木村泰子(きむら・やすこ)
大きな反響を呼んだドキュメンタリー映画『みんなの学校』で知られる、大阪市立大空小学校の初代校長。同校では「全ての子どもの学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域の人たちと共に、障害の有無にかかわらず、全ての子どもがいつも一緒に学んでいる。退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために』(ともに小学館)など。

山田勝治(やまだ・かつじ)
大阪府立西成高等学校校長。1957年、大阪市西成区生まれ。1990年から2004年までの15年間、「成人識字」教室の運営に関わる。05年、西成高校に教頭として赴任。09年から13年3月まで同校校長を務めた後、異動。17年、同校校長として再赴任。「基礎教育保障学会」所属。著作に『格差をこえる学校づくり 関西の挑戦 阪大リーブル』(志水宏吉編、大阪大学出版会)内の第2部『「先端でもあり、途上でもある」—高校版「UD化」計画—』、『わたしたち(西成)は二度「消費」された』(ヒューマンライツ2019年9月号)。

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