【木村泰子×山田勝治】 教師の最高の幸せ

 全国の学校現場には膨大な業務や画一的な学校文化に疲弊し、限界を感じている教師もいる。そんな中、大阪市立大空小学校初代校長の木村泰子氏と、大阪府立西成高校の山田勝治校長は「教師に限界はない」と言い切る。さらに「自分たちにはできないことがあるという事実を自覚してほしい」「自分だけで何とかしようとせず、もっと周りを頼ってほしい」と、教師にメッセージを送る。対談の最終回では、子どもの幸せを担保するための教師の幸せについて考える。(全3回)

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教師は限界をつくってはいけない

――ここまでのお話を聞いていて、教師にできることには限界があるように感じてしまうのですが、いかがでしょうか。

 木村 限界なんてないと思います。

 山田 そうですよね、私もそう思います。

 木村 自分が全部やらなきゃ駄目だと思うから、限界が生まれるんです。目の前の子どもが困っている状況があるとしたら、たとえ自分一人では無理だとしても、その子を救うこと自体が無理だなんて状況は、決してつくってはいけません。

 今の日本社会は、残念ながら学校だけでは子どもの命を守り切れません。親が子どもを殺してしまう事件だって、全国で起きています。一人の教師や学校だけで守れるなんて思ったら大間違いで、地域の力や関係諸機関の力が必要なのです。

大空小学校の学校運営を踏まえ、地域を巻き込む大切さを説く木村氏

 では、次の日に「おはよう」と子どもたちが元気に登校してくれるためには、どんな手段を見つければいいのでしょうか。もし、家庭で守り切れない子どもの命があるのなら、地域の力で守ることが当たり前な社会に変えていく必要があります。そのために学校ができることは、いっぱいあります。誤解しないでほしいのは、「教師に限界はない」というのは、先生に「背伸びしろ」とか「力をつけろ」とか言っているわけではないということです。ただ、自分たちにはできないことがあるという事実を自覚してほしいだけなのです。

 大空小学校も、自分たちだけで子どもを守り切るのは無理だと気付いたから、地域の力を借りました。教師はいつか学校を去り、地域からも去っていきます。しかし、地域にとって子どもたちは宝であり、土なのです。

自分だけで何とかしようとしなくていい

 山田 先生方には、自分だけで何とかしようとせず、もっと周りを頼ってほしいと思います。

 学校は、学習面だけをサポートする場ではありません。本校では、カウンセラーなど専門職の人たちと積極的に連携しています。学校の中で教師以外の人がさまざまな形で生徒と関わり、話を聞いて関係を結んでいます。教師がその様子を見て、高校生にとって安心や居場所がどれだけ大切なのかを実感することが、第一歩だと考えています。

 小中学生と比べて、高校生への福祉的な支援についてはまだまだ整備が遅れています。小学生が「ご飯を食べていない」と言えば保護してもらえますが、それが高校生だと「自分でバイトしてどうにかできるでしょ」とはねつけられることもあります。そんな厳しい状況に置かれていることも踏まえ、どうサポートできるかを常に考えています。

 だから外部の大人を巻き込んだ「居場所カフェ」や、彼らが卒業して社会に出たときの訓練にもなるアルバイト支援など、地域や社会とつながった支援を続けています。これが正解かどうかは分かりませんが、少なくとも本校の生徒にとっては、少しでもプラスになっているのではないかと思います。

 木村 子どもたちは多様なニーズの中で生きています。学校が画一的な正解を持ってしまったら、子どもたちは社会に出ても通用しません。「学校は先生の言うことを聞けなかったら通えません」という価値観を子どもに押し付けて、自分の言葉で語る子どもを教室から排除する。おかしいですよね。今、この話を聞いてくれている皆さんは、それはおかしいと分かっています。ただ学校という画一的な組織文化の中に入ってしまうと、それが分からなくなってしまうのです。

 大昔の価値観を捨てて、学校の当たり前を変える。先生だけでなく、地域の大人たちとも手を取り合いながら、それに取り組むのです。小学校の段階で学校や地域に子どもが安心できる場所や存在をつくって、中学校、高校につなげていく。それが、小学校の最上位目標だと思います。

不幸せが分かって、幸せが分かる

――子どもの幸せについて考えるとき、同時に教師も幸せであってほしいという思いがあります。教師の幸せについて、どのように考えますか。

 山田 担任をしていた時代を思い出すと恥ずかしいことばかりで、今の私ならあの時の山田君に指導できるのにと思うくらいです。当時の教え子たちに「先生、テレビに出て頑張っていますね」と言われると、すごく恥ずかしくてね。でも、それもまた幸せな気持ちになるんです。こうやって見てくれているんだなと。

「普通」や「幸せ」の定義を問い直してほしいと山田校長は語る

 私たち教師がもう一度考え直さなければいけないのは、「普通」や「幸せ」って一体何なのだろうということです。本校で数年前、教員の一人が生徒に「普通はこうするだろう」と何気なく言ったことに対し、その生徒が「俺は普通じゃないんか!」と激しく反発したことがありました。本当にしんどい環境の中で生きてきた生徒で、その彼がすごい剣幕でその言葉を放ったんです。これは西成高校の教職員にとって、宝物のような教訓です。

 普通や幸せは、一くくりにできません。その普通や幸せについて、クリエーティブに考え続けられることこそが、私たちの仕事上の幸せの一つだと思います。

 人生の幸せは、多種多様です。一方で私が思うに、幸せというものは自由と一緒で、反対概念があってこそ初めて分かるのではないでしょうか。自由も不自由があって初めて、自由だと認識できます。幸せも同じで、不幸せが何なのか分からなければ、知り得ないのです。そうやって、人間は小さな幸せをかみ締められるようになっていくんじゃないでしょうか。

 教師は日常のさまざまな生徒との関わりの中で、小さな幸せをかみ締められると思います。誤解されて、バッシングされることも多い職業です。自己充足感ややりがいを感じられないという方は、日々の子どもたちの関わりの中で、小さな幸せを見つけられるように意識を変えてみてはいかがでしょうか。それにはもちろん、先生自身の変化も必要ですし、子どもたちとの関係性も成熟させていかなければなりません。

「みんなはどんなときが幸せ?」

 木村 山田校長先生のお話を聞いていて、ふと思い出したことがあります。数年前にある小学校に呼ばれて、飛び込みで授業をしたことがあります。私が授業した5年生は学年が崩壊していて、先生方もとても困っていらっしゃいました。5年生の先生も児童も授業を見に来られるのは嫌だけど、私の授業なら受けてみたいと言ってくれたのです。そうして校長先生やいろいろな先生が見学する中、道徳の授業をしました。

 子どもの前に立ってすぐ、私は子どもたちの顔をじっくり見て、「今日の授業に正解はありません」と言いました。すると子どもたちは、「じゃあ自分の思ったことを言っていいの?」「自分の考え言っても、先生に怒られないんだ」などと大はしゃぎでした。その授業で、子どもたちに尋ねたのが「みんなは、どんなときに幸せって思う?」という問いでした。

 みんな次々に、「怒られると思ったら、怒られなかったとき」「欲しいものを買ってもらったとき」「テストでいい点を取ったとき」などと、ニコニコしながら話してくれました。でも、一人だけうつむいて黙っている子がいたのです。その子に「嫌やったら言わなくていいけど、どんなときが幸せ?」と水を向けてみました。すると、ぱっと顔を上げ「つらいことがないとき」と答えました。

 山田校長先生が語ってくださった「自由と不自由」に通じるものがありますよね。その子の言葉を聞いた瞬間、教室はしんと静まり返り、どの子も考え込み始めました。そこで私は「じゃあ、みんなはどんなときにつらいかな?」と問い掛けました。すると、次はその子が自分から立ち上がって、「一人ぼっちのとき」と言いました。「じゃあ、一人ぼっちじゃないときは幸せってこと?」と尋ねると、「うん!」と答えました。

 何のまとめもありません。それだけで授業は終わりました。放課後の研修会の場で「子どもから学べると感じたときが、私たち教師の最高の幸せじゃないでしょうか」と、先生方に語り掛けました。この言葉を最後に皆さんにも届けたいと思います。

(板井海奈)

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【プロフィール】

木村泰子(きむら・やすこ)
大きな反響を呼んだドキュメンタリー映画『みんなの学校』で知られる、大阪市立大空小学校の初代校長。同校では「全ての子どもの学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域の人たちと共に、障害の有無にかかわらず、全ての子どもがいつも一緒に学んでいる。退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために』(ともに小学館)など。

山田勝治(やまだ・かつじ)
大阪府立西成高等学校校長。1957年、大阪市西成区生まれ。1990年から2004年までの15年間、「成人識字」教室の運営に関わる。05年、西成高校に教頭として赴任。09年から13年3月まで同校校長を務めた後、異動。17年、同校校長として再赴任。「基礎教育保障学会」所属。著作に『格差をこえる学校づくり 関西の挑戦 阪大リーブル』(志水宏吉編、大阪大学出版会)内の第2部『「先端でもあり、途上でもある」—高校版「UD化」計画—』、『わたしたち(西成)は二度「消費」された』(ヒューマンライツ2019年9月号)。

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