【海外の教育ニュースを読む】英でも教師不足 初任給アップを計画

 日本に限らず、英国や米国などの先進国では教師不足が共通の問題となっている。特に英国では、教師の高い離職率と新規採用の難しさが教師不足の最大の要因だ。

 英国教育省が2021年6月17日に『School Workforce in England』と題する報告書を発表した。それによると、就職後わずか1年で新人教師の6人に1人が学校を辞めている事実が明らかになった。これは過去最高の水準である。1年後も教師を続けている比率は84.5%で、これも過去最低の水準だった。11年の比率は約90%で、10年間に5ポイント以上も低下している。

 就職3年後には4分の1、6年後には3分の1の教師が離職している。こうした離職率の高さから、補充のために多くの新卒の教師を採用しなければならない状況が生まれている。その結果、全教師の約10%を新卒が占め、教育の質を確保するのが難しい状況も起こっている。経験のない若い教師が増えることで、多くの学校で学級運営が十分に機能しない事態に陥っている。

 景気が悪い時には教師の応募が増加し、景気が良い時には減少するというのが、英国での一般的な傾向だ。そうした過去の例からすれば、現在、新型コロナウイルス感染の拡大で景気が悪化しており、教師採用は容易であると予想される。だが予想に反して、応募者の増加は見られなかった。ただ離職率の低下が見られた。

 19年には10人に1人の教師が離職していたが、21年は12人に1人へと低下している。その理由は、職場環境や待遇が良くなったからではなく、転職市場の状況が厳しかったことに加え、教師の年金受給開始年が引き上げられたため、高齢の教師の多くが職に留まったからだ。ちなみに離職した教師の87%は他の産業に転職している。

 教育省の調査で特徴的なのは、インド人などマイノリティーの教師の比率が大きく上昇していることだ。10年の比率は11%であったが、20年には15%へと増加している。白人学生は教師以外の仕事を選んでいるのである。

 『Times Educational Supplement』の調査は「90%の教師は仕事の負担が大き過ぎるので離職を考えている」と教師の置かれた厳しい状況を明らかにし、「今後10年以上、教師不足が続くだろう」と予測している。『Survey Nuts』も「教職は最もストレスの大きい仕事の上位3つの内の一つである」と、職務の厳しさが教師不足の要因であると、同様の分析をしている。『Education Business』誌(27号)も、多くの教師は「過重労働」と「責任の重さ」に見合う金銭的報酬の少なさを訴えていると指摘している。

 教育政策に関する英シンクタンク「The Education Policy Institute」が20年3月に発表した「Teacher Shortage in England: Analysis and Pay Option」は、教師不足の要因を詳細に分析している。最初の要因は、生徒の増加に教師の増加が追い付いていないことだと指摘している。小学校では07年から19年に生徒数が19%増加したのに対して、教師の増加は13%に留まっている。中学校では19年の生徒数は07年とほぼ同数であるのに対して、教師の数は7%減っている。生徒数は19年から23年の間に10%増加すると予想されており、教員不足は深刻さを増すと分析している。

 特に教師不足が顕著なのは、数学や物理学などの自然科学の分野だ。そうした分野の教師は就職後5年以内に50%が転職している。その結果、自然科学分野を教える教師のうち54%しか、大学で十分な学位を持っていない状況になっている。さらに専門職としては給与が低く、それが離職率の高さの原因でもある。

 英国では13年から「給与の自由化」が導入されており、教える教科によって給与が異なる。自然科学系の教師の給与は英語などを教える教師よりも約1000ポンド高いが、それだけでは優秀な自然科学系の教師を引き留めるには不十分なようだ。

 さらに教師の給与は他の専門職と比べても低い。専門職の20代男性の平均年収は3万2000ポンド(約500万円)だが、同じ世代の教師の年収は3000ポンド少ない。

 ちなみに英国教育省の調査では、教師の平均年収は3万8400ポンド(約590万円)、学校長は7万3500ポンド(約1140万円)である。

 新規採用を促進するために英国政府は22年までに、教師の初任給の年収を3万ポンド(約468万円)にまで引き上げることを計画している。これはロンドン市内の学校教師の年収の、17%の引き上げに相当する。専門職の初任給としては最高の水準だ。ただ、初任給を引き上げるだけでは優秀な教師を引き付けるには十分でない。すでに指摘したように、仕事量をどう減らすかが大きな課題として残っている。

 そうした事態に対応するために、英国政府は20年に「Early Career Framework改革」を打ち出した。これによって、若手教師に訓練と能力開発プログラムを提供することで負担軽減を図り、採用を促進することを狙っている。ただ教育関係者は「そうした政策は好ましい一歩であるが、教師不足を解消するには小規模であり、あまりにも遅い対応だ」と批判的である。教師不足を解消する道は、極めて厳しいようだ。

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