【学びのアイデアマン】 特別支援学校と小中高をつなげる

 特別支援学校・東京都立青峰学園で、中学部・高等部の生徒と日々向き合っている菱真衣教諭。ICTを駆使した授業を得意とする一方で、肢体不自由教育部門の教務部副主任として授業カリキュラムの見直しを進めるなど、学校の核となる役割も担っている。教員5年目とまださほどキャリアも長くない菱教諭が、どう日々の業務と向き合い、生徒や同僚、保護者からの信頼を得てきたのか。「背伸びせずに、今の自分ができる活躍をしていきたい」と語る菱教諭。インタビューの最終回では、次世代の学校教育を担うミドルリーダーの在り方などについて聞いた。(全3回)

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お互いの専門性を生かしたい

――以前、「小中高と特別支援学校をつなげたい」と話しておられるのを聞いて、とてもすてきだと思いました。

 小中高の先生と仲良くさせていただくようになって、特別支援学校はもっと外部から取り入れなければいけないことがあると感じるようになりました。例えば、教科の専門性などをもっと追求していかなければなりません。

特別支援学校と小中高、それぞれの専門性を生かし合いたいと話す菱教諭

 その半面、小中高の先生たちにも、特別支援の視点を持っていただきたいと感じることがあります。以前、初任者対象の研修に登壇する機会をいただき、特別支援教育についてお話しさせていただきました。学習障害があり、字を書くことに困難さのある生徒に対するアプローチとして、ICTを活用して学習保障をしたケースについてお話ししました。その後、受講者同士のディスカッションの時間を設けたのですが、参加者の一部から「やっぱり努力させて字を書けるようになることが大切」といった意見が出るなど、特別支援教育の在り方や合理的配慮への認識など、まだまだ理解が進んでいないように感じました。

 ただ、この状況をネガティブに捉えているわけではありません。特別支援学校と小中高の専門性を生かし合うことで、とても良い教育の形になる可能性を感じたのです。

――お互いの専門性を生かすためには、どんなことが必要でしょうか。

 小中高には、特別支援学校でどんなことをしているのかイメージを持てない先生も多いかと思います。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いたら、ぜひ特別支援学校に足を運んでいただきたいです。オンラインで交流するのもいいですね。

 当然、私たちも小中高の現場について学ぶ必要があります。私が今一番課題に感じているのは、教科指導です。特別支援学校には専門性の高い教員がいる一方で、なかなか高校に準じた内容で教科の授業をする機会がなく、「この授業、何年ぶりにするだろう」といった教員がいるのも事実です。そのため、大学を志望する生徒がいた場合に、対応しきれない側面もあります。例えば、大学入学共通テストの必須科目を履修しきれていなかったり、そもそも理系と文系に分かれていなかったりします。卒業後に大学進学をする生徒はまだまだ少ないので、同じような悩みを抱えている特別支援学校は全国にたくさんあると思います。

 私は現在、本校の肢体不自由教育部門の教育課程を担当しています。他校の高校の先生に助言やアドバイスをもらいながら、大学進学などの多様な進路に対応できるようカリキュラム開発を行っています。

背伸びせず、今だからできる活躍を

――青峰学園には、大学進学を希望する生徒がどの程度入学してくるのでしょうか。

 当校では肢体不自由教育部門、高等学校に準ずる教育課程の生徒は大学進学に向けて学習することができます。どのような生徒が入学を希望するかは、変動が大きいのでなんとも言えませんが、毎年入学してくる可能性があります。いつ入学してきてもいいように準備を進めています。

 特別支援学校は、就職を目指す生徒、文系・理系を踏まえて幅広く学習したい生徒、大学進学を目指す生徒などニーズが多様です。全員に適応できる教育課程を作らなければいけません。本校は単位制なので、科目の選択に自由度を持たせたり、学校設定科目を置いたりするなどして、そのニーズに応えられるカリキュラムを整えました。

――ICTだけではなく、学校運営にまで携わられているのですね。

 幅広い業務をやらせていただいています。

 ICTのことばかり注力していると、好きなことだけをやっているイメージが少なからず付いてしまうように思います。確かにICTには興味がありますし大好きですが、ICTに関係なさそうな仕事こそ一生懸命やろうという意識で日々取り組んでいます。そうやってどんな仕事にも真摯(しんし)に向き合うようにしていると、自分が何かチャレンジするときに、周りの先生がいっそう応援してくれるように思います。

――若手の教員からは、経験値の違いなどからベテランの教員と比べて、「思うように活躍できない」といった声を聞くことがあります。同世代としてアドバイスはありますか。

若手教員に向けて、「今の自分だからこそできる活躍を」とメッセージを送る

 進路指導や生徒指導はどちらかというと経験がものを言う分野ですが、ICTに関しては若手の先生でも活躍できます。若手だからこそ活躍できる、今の自分だからこそ活躍できるものを見いだせるといいですよね。

 また、進路指導や生徒指導などの分野でも、若手だからこそできるアプローチはあるように思います。

 例えば、私は初任時代に大学進学を希望する生徒を担任していました。当時は1年前まで大学に通っていた、一番の若手です。でも校内で一番、受験経験が新しかったので、科目選択について生徒にアドバイスができたり、進路指導の先生からの求めに応じて最新情報を提供したりと、若手だからこそできる役割を果たせたと思っています。

 また、保護者対応もそうでした。若手のうちは、保護者と同じ目線に立ってコミュニケーションを取るのは難しいものがあります。そのため、保護者から生徒について相談を受けたときは、「私が高校生のときはうっとうしいと感じていましたが、大人になった今では感謝しているんですよ」などと、生徒の目線に立ったメッセージを送るようにしていました。

 そうやって背伸びするのではなく、今の自分だからこそできることを取り入れて、私自身は働きやすくなったように思います。

生徒の「学びたい」をダイレクトに感じた

――教師を志した理由は何だったのでしょうか。

 高校1年生の頃に数学を担当していただいた、沢畑雅彦先生(現・茨城県立大洗高校)がきっかけです。

 当時の私は授業中に、何度も質問するような生徒でした。疑問があるたびに「はい!」と手を挙げて質問するので、今思い返せば授業を止めてしまうことも多々ありました。でも、その先生は嫌な顔をすることもなく、一つ一つの質問に丁寧に答えてくれていました。さらに「皆も分からないかもしれないから」と言って、全体に向けて説明してくださっていたのです。

 そんな姿を見て、どんな生徒も見捨てずに最後まで向き合ってくれる教師になりたいという思いを抱くようになりました。

――いつから特別支援教育に興味を持ったのでしょう。

「どんな生徒も見捨てずに最後まで向き合える教師になりたい」と話す

 もともと「どんな生徒も見捨てずに最後まで向き合える教師」という理想像はありましたが、大きかったのは大学時代の介護等体験で特別支援学校に行ったときの経験です。一人一人の生徒と丁寧に向き合っている先生を見て、「これかも!」とピンときました。生徒からも「学びたい」という意欲がダイレクトに感じられて、それに応える先生方の姿がとても印象に残っています。

 ただ当時は、専門的な知識を持ち合わせておらず、自信も持てきれずにいました。だから介護等体験をさせていただいた特別支援学校に問い合わせて、大学3~4年生の時にボランティアをさせていただきました。

一人の人間として生徒と向き合う

――その中で確固たる思いに変わってきたのですね。

 肢体不自由特別支援学校は学校の中に教員だけでなく、理学療法士や作業療法士、看護師、ボランティアなどもいます。さまざまな人が関わりながら教育をつくっているところに魅力を感じました。

――生徒とうまくコミュニケーションを取れなかったり、生徒が精神的に不安定になったりして、苦しくなることはありませんでしたか。

 確かにそういう面はあるかもしれませんが、私は真剣に向き合えば分かり合えると信じています。生徒と向き合うときに、年齢や障害の有無にとらわれず、一人の人間として尊重するように心掛けています。例えば、指導する場面があったとしても、「こうするべき」と相手をコントロールしようとするのではなく、「あなたにこういう態度を取られて、私は嫌だったよ」というように、自分の気持ち伝えるようにしています。

 もちろん、障害があることを考慮しなければいけない場面はありますが、人として向かい合うときには関係ないように思います。そうやって日々関わっていく中で、言葉では表せないのですが、「今、心が通じ合った」と感じる瞬間があります。

 あとは、保護者の方から「うちの子、こんなことができるようになったんですね。最近変わりました」などと言ってもらえることが、モチベーションになっています。生徒たちの成長はなかなか見えにくい部分があるのですが、毎日少しずつできるようになっていることに気付いて、一緒に喜べる存在がいることは何よりうれしいですし、力になります。

(板井海奈)

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【プロフィール】

菱真衣(ひし・まい) 茨城県日立市出身。茨城県立日立第一高等学校卒。津田塾大学学芸学部数学科卒。教員5年目。2019年度に独立行政法人教職員支援機構で行われる学校教育の情報化指導者養成研修を経て、現在は学校や地域の情報化推進を担っている。校務の情報化や授業におけるICT活用の推進について、自らの力量を高めるとともに指導助言を行い、ICT夢コンテスト2021文部科学大臣賞、21年度東京都教育委員会職員表彰立志賞を受賞した。

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