【庄子寛之教諭×渡辺道治教諭】 「個別最適な学び」への取り組み

 教員免許更新制が事実上の廃止となる方向で進んでいることに伴い、これからの「教師の学びの在り方」が注視されている。教師という枠にとどまらず、他方面で活躍する庄子寛之教諭(東京都調布市立多摩川小学校)と渡辺道治教諭(札幌市立屯田西小学校)は、日々どのように学び、実践しているのか。両教諭をゲストに迎えた対談の最終回では、「教師の学びの在り方」と「個別最適な学び」、他の教員との関係づくりなどについて語り合ってもらった。(全3回の3回目)

この特集の一覧

海外から学びを取り入れる

――教員免許更新制が事実上の廃止となる方向で進んでいます。今後、教員研修の在り方などについて議論されていくことになりますが、お二人は日々、どのように学ばれていますか。

 渡辺 庄子先生から「人に会う」というワードが何度も出てきましたが、私も最高の情報は人が持っていると思っています。もちろん、本にも価値があります。しかし、本は出版されるまでに時間がかかるので、その著者が持っている情報が少し遅れて出てくることになります。ですから、一番旬の情報というのは、人が持っているのだと思います。

 ただ、昨今はコロナ禍のため、なかなか自由には会えません。だからこそ、オンラインで勇気ある一歩を踏み出すことが大事だと思います。オンラインも活用してたくさんの人と会うことが、学びにつながるのではないでしょうか。

「教員の学び方は自由であるべき」と庄子教諭

 庄子 オンラインで会うだけでも、かなり分かり合えるという実感があります。実は、渡辺先生と最初に出会ったのは、1年半ほど前の速読のオンラインスクールでした。「本を速く読みたい」と思ってつながった人が、たまたま教員だったのです。このように、自分が学びたいと思うことを学び、自分と同じ興味を持っている人と話すことで、何かが生まれることは多いと思います。教員の学び方は自由であるべきです。

 もう一つ、海外から学ぶことも大事にしています。その際はもちろん、オンラインを活用しています。私はラクロスの日本代表監督として、海外を飛び回ることが多かったのですが、そうした日々の中で、日本は一歩も二歩も遅れていると感じる出来事がいくつもありました。

 教育に関しても、そうでなくても、米国から始まっていることが多いので、良いか悪いかは置いておいて、まず米国から情報を得るようにしています。米国の学校に勤務している後輩がいるので、定期的にオンラインでつないでいろいろな話を聞き、それを周りにもシェアしています。海外の情報がこれだけ取りやすい時代になったのだからこそ、自らどんどん取り入れていく必要があると思っています。

子どもたちに「生きる力」は付いているか

――参加者から「個別最適な学び」について質問が来ています。渡辺教諭は学習する順番、学習する方法、学習する場所、学習する時間配分を子どもたちが選択して取り組む「ノマドスタディ」に取り組まれていますが、具体的にはどのように実践されているのでしょうか。

 渡辺 最初はしっかりと教えます。今年は2年生を担任しているので、例えば、丸の書き方から教えます。全部教えて、できるようになってから離す。その繰り返しです。

 例えば、毎日続けている「視写」を例にとると、丁寧にできるようになるまですごく時間がかかります。でも、子どもたちは日に日に成長していきます。これがすてきなんですよね。視写では10点満点中8点以上を合格ラインとしています。私はチェッカー役として小数点で刻みながら評定していくのですが、ちょっとずつ上がっていって10点台になったら「もう先生の指導なんか必要ない。あとは自分の理想を目指していくんだよ」と伝えます。ここまで来たら、あとは自走モードになります。こうしたことを全教科でやっています。

 教えてから自走モードに到達するまでの期間は、子どもによって違います。半年たってもまだ助けが必要な子もいますが、それが当たり前ですし、もうすでに多くの子が自走モードになっているので、私は助けが必要な子を集中的にサポートできます。次第に、私の手が必要だった子たちも自分で歩けるようになるのですが、その時の感動はすごいものがあります。クラスのみんなで喜び合うわけです。

――庄子教諭は「個別最適な学び」について、どうお考えですか。

 庄子 学校閉鎖中のオンライン授業は、まさに「個別最適な学び」をしていました。私は常々、「問い」が大事だと思っています。ですから、こちらが問いだけを投げておいて、あとは子どもたちが自分で調べて、自分で学習する時間をできる限り長く取るようにしています。

 今は1人1台端末も配備され、なんでも学べる時代になりました。ですから、教師が教えないと自分で勉強できないということはないと思っています。

 学校では時間割が決まっていて、机と椅子が用意されています。つまり、学校に行くだけで「勉強をしなければいけない環境」が整っているわけです。それなのに、教師が長々とつまらない話をするから、子どもたちの学習意欲がなくなっていったり、教師の言ったことしかやっちゃいけないから、待っている時間が長くなったりしているわけです。

 だから私の場合は問いだけ投げて、「あとはもう自由にやってごらん」と言って、最後の10分ぐらいで「こんなことやって素晴らしいね」「先生の予想を超えてきたね」などと子どもたちを認めて、子どもたちから学んでいます。教科書通りの狙いにはたどり着いていないかもしれませんが、子どもたちに「生きる力」は確実に付いていると思います。

 制限をなくすと、子どもたちは本当に楽しそうに取り組むし、私が思っていた以上のレベルに達してくれるので、心置きなく子どもたちを褒めることができます。プラスのサイクルが回っているなと感じるんですよね。だから、私はできる限り黒板の前には立たず、教室をうろうろする時間を長く取るようにしています。

 渡辺 庄子先生の考え方、本当にすてきだと思います。私の場合は最初に教えるのですが、教えなくてもいいと思っているんです。それでもなぜ教えるかというと、何においても「極め方」が分かっていくと、あとは自分で進んでいけると思っているからです。剣道や柔道など、「道」がつくものと同じ考え方です。

 視写も最近はみんな、ため息が出るくらいきれいな字を書くんです。でも、子どもたちはそれでもなおいっそう、良い字を書こうとしています。ここまで来ると、もはや「字を書く」技能というより、「生き方」とか「極め方」という領域にまで達しているように感じます。庄子先生もおっしゃっていたように、学校に来てそういうサイクルが回っていくようになったら、理想的だと思っています。

学年間の先生の得意を生かす「サテライト学習」

――参加者の方から「学年間の先生方との関係づくりはどうしていますか? また、どのように学年間で教材などを共有していますか?」という質問が来ています。

「サテライト学習」の概要(渡辺教諭提供)

 渡辺 学年間では、得意な方に得意なことをやっていただくようにしています。例えば、先日も「サテライト学習」に取り組みました。これは私が名付けた実践で、学年の全児童を1人1台端末でつないで、一人の先生が全体に向けて授業をするというものです。他のクラスの先生は、各教室にサポートで入ってもらいます。

 この「サテライト学習」を最初に提案したときに、授業者として手を挙げてくれたのが、学年主任の大ベテランの先生でした。その先生は図工が得意なので、絵画指導をこの仕組みでやってもらいました。すると、サテライト学習が終了した時、フロア中に万雷の拍手が鳴り響いたんです。2年生の各クラスで、素晴らしい作品が次々と生まれました。

 自分の得意なことや強みでチームに貢献する。これが一番の幸福感を生みます。ですから、「サテライト学習」以外でも、学年間や職員間で「これはこの人だね」というのがあったら、その先生に積極的に教えてもらうようにしています。

 庄子 うちの学年の先生はお互いに仲が良いので、普段からお互いのクラスに入って、授業を見合ったりしています。また、学年共有のグーグル・クラスルームに教材や板書の記録などを上げて共有しています。

 ここで一番大事なのは、自分がしてあげることよりも、してもらったときにどれだけ感謝を伝えられるかだと思っています。

 渡辺 今、庄子先生から「してもらう」というワードが出ましたが、本当にこれが重要です。

 教員は「してあげる」ことを生業にしています。ですから、「してもらう」のは苦手という人が多いんです。私も以前は「教員は全部できなきゃ駄目。完璧じゃないと駄目」だと思っていました。でも、それは不可能ですし、みんな凹凸があって当たり前です。凸が強みだとすれば、凹は欠点や弱みでマイナスイメージに捉えられがちですが、私は「人の力を引き出す余白」だと思っています。

 私は絵が苦手なのですが、そう伝えたら得意な人が助けてくれます。つまり、「これが苦手」だとか「助けてほしい」とあけすけに言える、「してもらう能力」が重要なのです。

 「あの学年団はよくまとまっているな」というところには、必ずその中に「してもらう能力」の高い人がいるはずです。私は必ず、その人にも感謝します。教員はもっと「してもらう能力」を発動すればいいんじゃないかと思いますよ。

「してもらう能力」を発動する

――最後に、明日からのヒントになるような、お二人が大事にされていることについて教えてください。

 庄子 大切にしていることはいっぱいありますが、何よりも「今」を大切にしていますね。先生の中には「65歳まで教員をやるのかな」とか「年金はどうなるのかな」などと、未来を恐れながら働いている人もいると思います。でも、「今」を切り取って見てみると、結構やれることは多いし、楽しいこともたくさんあると思うのです。

 渡辺先生と同じく、私も朝、多摩川沿いを散歩して瞑想してから学校に行くのですが、とにかく朝日がとてもきれいなんです。見上げる空も本当にきれいです。私たちはとても豊かな世界に住んでいるのに、「あれもない」「これもない」と不満を口にする。でも、「今」を切り取ってみると、いろいろなものに囲まれていることに気付き、幸せを感じると思うのです。だから、私は今あるものに目を向けたいですね。

 私はいつも手帳にやりたいことなどを書いていますが、ちょっとでもできたこと、ちょっとでも変えられたことがあれば、自分に〇を付けてあげます。当然、×のところもあるのですが、×は付けないで、とにかく小さなことに〇を付けています。そうして、自分を肯定することで、周りに感謝を伝えられるサイクルが回っていくようにしています。

「誰かにお願いすることは、その人の力を引き出すこと」と渡辺教諭

 渡辺 「してもらう能力」の天才は、赤ちゃんだと思うんです。赤ちゃんはお父さんやお母さんをはじめ、周りの人の力を引き出しまくっていますよね。しかも、周りを笑顔にしています。

 人はいつしか大人になると「してもらう」ことが誰かの負担になるんじゃないか、迷惑になるんじゃないかと思ってしまいます。でも、「してもらう」ことは、実はとてもすてきなことなのです。困っていることは助けてもらうように切り替えてみると、周りの人がすごく幸せになります。

 若手の先生はどんどん周りの先生に助けてもらったらいいと思います。「教えてもらいたいんですけど……」と切り出せば、大抵の先生は喜びます。また、ベテランの先生こそ「してもらう能力」を発動してほしいとも思います。「力を貸してもらえないかな」と尊敬している先輩から言われたら、飛び上がるほどうれしいですよ。

 こうしたことは、精神的な働き方改革だと思うのです。誰かにお願いするのは悪いことではなく、その人の力を引き出すことなのです。教室でも同じですよね。先生が全部やるのではなく、「誰かこれをやってくれないかな」と言ってみる。ぜひ、明日から「してもらう能力」を発動させてみてください。

(松井聡美)

この特集の一覧

【プロフィール】

庄子寛之(しょうじ・ひろゆき) 
東京都調布市立多摩川小学校指導教諭。専門は道徳だが、ラクロス日本代表監督や教科書編集委員、教師のバトンプロジェクト、金融教育、がん教育など、さまざまなことに取り組んでいる。道徳や働き方改革、児童生徒理解などについて全国各地で講演している。現在は島が教育の未来と考えた「島の教育サミット」を主宰。『学級担任のための残業ゼロの仕事のルール』(明治図書)など著書多数。

渡辺道治(わたなべ・みちはる)  
2006年、北海道教育大学卒業。同年より奈良県天理小学校にて勤務。16年、グローバル教育コンクール特別賞受賞。17年より札幌市立屯田西小学校にて勤務。教員の仕事の傍ら、年20回ほどの講演活動、福祉施設や医療施設での演奏活動、書籍・雑誌・新聞などの執筆活動を展開する。ユネスコやJICAによるアジアを中心とした国際交流事業や、初等教育算数能力向上プロジェクト(PAAME)においてアフリカの教育支援にも携わるなど、内外において精力的に活動中。著書に『学習指導の「足並みバイアス」を乗り越える』(学事出版)、『心を育てる語り』(東洋館出版)、『BBQ型学級経営』(東洋館出版)など。

あなたへのお薦め

 
特集