【海外の教育ニュースを読む】 台湾の「108カリキュラム」

 急激に変化する社会情勢に対応して教育プログラムをどう改革するかは、各国共通の課題になっている。台湾でも新たな教育改革の試みが行われている。その現状を『Taiwan Times』は数回にわたる連載記事で紹介した(「Education Reform in Taiwan-From Inside」2021年4月30日)。

 台湾では2014年、12年間の初等中等教育の一貫性と統合性を図るために、日本の文科省に当たる教育部がガイダンスを定めた。さらに15年に、行政手続きの変更とカリキュラム指針の見直しを求める「Anti-Black-Box Curriculum Movement」が起こった。これはカリキュラムの内容を“ブラック・ボックス”のような曖昧な状況から、より公開性、透明性のある内容へ変更を求める運動である。

 こうした流れを受け、教育部は19年に『12年間の基礎教育のカリキュラム指針』を打ち出した。この指針は『108カリキュラム』と呼ばれている。新しいカリキュラムの基本は、教育部の定める義務的な課題に対するクラスの割り当て時間を減らし、学校が独自に開発した必修コースに対する割り当て時間を増やすことであった。

 さらに『108カリキュラム』では、「literacy-based education」が重視されている。同紙は、「literacy(リテラシー)」とは「将来、問題に直面したとき、自分の人生を調整し、対応できるようにするために必要な『知識』と『能力』『態度』を意味する」と説明している。さらに同紙は「最近の研究では、国の競争力にとって最も重要な必要条件はcivil literacyであることを示している」と指摘し、『108カリキュラム』に対して前向きな評価を与えている。

 『Taiwan Times』の記事は、『108カリキュラム』の内容を詳細に紹介している。その内容は、日本の初等中等教育のカリキュラムを検討する際にも役立つと思われる。同記事は「カリキュラムの基本的な発想は、生徒が主体的に学習に取り組み(initiative)、積極的に議論を行い(interaction)、共通する価値(common good)を追求するというものである。さらに3つの段階、すなわち自発性(spontaneity)、社会的な対話(communication and interaction)、社会参加(social participation)で、生涯学習者になれるようにすることである」と説明している。

 さらに『108カリキュラム』は4つの目的を持つように設計されている。すなわち▽生徒の潜在能力を発揮できるように啓発すること▽人生に関する知識や情報を教え、発展させること▽生徒のキャリア開発を促進すること▽生徒の社会的責任を教育すること――である。さらに同カリキュラムは“総合教育”を重視し、学習分野を「言語能力」「数学」「社会科学」「自然科学」「芸術」「総合活動」「技術」「健康教育」の8分野に分割している。

 『108カリキュラム』の大きな特徴の一つは、学校独自に開発した必修授業の設定である。各学校は、異なった教育段階と異なった教育課題の間のギャップを埋めるために、独自の授業を開発することが求められている。学校は生徒に対して学校独自の授業の狙いなどを明確に説明し、その上で異なった授業の内容を統合する授業やプロジェクトベースの授業、実際的な実験を独自に行うことが推奨されている。

 自然科学と社会科学の教科に関しては「探究と実施」を重視。教育部のカリキュラム指針には特定の学習内容は定められておらず、各学校が独自の教授法を採用することができる規定になっている。クラス縦断的な授業が想定されており、生徒は課題に関する観察や質問に対応し、問題解決のための実際的な作業を行うことが求められている。

 同紙の記事の筆者は「高校2年生では、歴史や地理のクラスでは教科書はなかった。その代わり、課題に関する探究を行い、さらに研究を進めるための課題を見つけなければならなかった。グループでの議論はビデオで録画され、独自の調査をし、短い論文を提出しなければならなかった」と、自らの経験を書いている。

 また各学校は、独自に選択授業を実施できる。生徒は自分の興味やキャリア・プランに合わせて授業を選択する。どのような選択授業を行うかは、教師や学校のビジョン、資金などの状況によって異なる。

 また、「代替学習期間(alternative learning period)」が想定されているという特徴もある。この期間に、生徒は自己学習をすることができる。授業だけでなく、「体育訓練」や「自己啓発教育」「補習事業」「学校独自の活動」に当てられる。また「自己学習(self-directed learning)」も推奨されており、こうしたクラスは成績評価の対象から外されていて、生徒に自由な時間を与え、自分のしたいことを自分で決めさせ、自分の興味を調べたり、発展させたりすることが目的となっている。

 また大学受験に関しても、極めて弾力的な方法が導入されているが、これも『108カリキュラム』に対応した内容となっている。

 『108カリキュラム』の内容は、極めてリベラルな教育思想をベースに導入されている。

(中岡望=なかおか・のぞむ ジャーナリスト)

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