
デザイン思考を取り入れた探究学習が、全国の教育関係者から注目されている鳥取県の青翔開智中学校・高等学校。その探究学習を中心になって作り上げてきたのが、民間企業でプランナーなどを務めた後、教育界に入った織田澤博樹校長だ。インタビューの第1回は、2014年の開校当初はうまくいかなかったという探究学習をどのように設計していったのかと、その先にある地域創生への思いについて聞いた。(全3回)
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開校当初はうまくいかなかった探究学習
――建学の精神が「探究・共成・飛躍」とのことですが、14年の開校からこれまで、どのように探究学習に取り組まれてきたのでしょうか。
学校開設の構想が持ち上がった時、創設者である理事長が、授業を前倒しで進めて進学を目指すタイプの私立中高一貫校でいいのだろうかと考えたそうです。そんな折、「探究」で有名な京都市立堀川高校のことを知り、何度も視察を重ね、「このような学校を鳥取にもつくりたい」ということでスタートしました。
本校は中学1年から高校3年まで、週に2~3時間を「探究基礎」という教科に充てています。しかし、開校1年目は学校側の準備不足もあり、うまくいかなくて悩みました。
――どんなところが、うまくいかなかったのですか?

堀川高校が取り組んでいた「研究して論文を書く」というような取り組みを、中学1年生からやってみました。もちろん、生徒たちは一生懸命取り組んでくれましたが、「面白い」と思って取り組んでいるようには見えませんでした。
中学1年生の段階で「研究して論文を書く」という活動が、小学校でやっていた自由研究の延長のようになってしまっていたのです。そこで、2年目からは「デザイン思考」を取り入れた探究学習へと転換を図りました。
中学2年が取り組む課題解決型職場体験
――企業などでも導入が進んでいる「デザイン思考」ですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか。
分かりやすく言うと、課題を見つけて、その課題の創造的な解決を実践していく思考法のことです。スタンフォード大学のd.schoolが提唱したことで広まりました。「共感」「問題提起」「創造」「プロトタイプ」「テスト」という5段階の思考プロセスに沿って課題解決をしていきます。
私は前職でプランナーとして、さまざまなコンテンツを企画する仕事をしていました。おもちゃの企画をしていた時も、イベントの企画をしていた時もありますが、そうした「何かを企画してお客さまに提案する」という営みが、「デザイン思考」のフレームワークに似ているように感じたのです。
――実際に「デザイン思考」を取り入れてみて、生徒の反応は変わったのでしょうか。

デザイン思考では、創造性を発揮するフェーズがあるので、生徒もやっていて楽しそうです。調べて事実をまとめるだけで終える探究では、自分の創造性を発揮するところがありません。人によっては面白さがあるかもしれませんが、「自分で面白いことを考えた」という楽しさはないと思うのです。
今、デザイン思考を使った本校の「探究基礎」で一番注目されているのは、中学2年生の課題解決型職場体験です。生徒たちは4人グループで地元の企業を訪問し、職場体験を通して企業が抱える課題や問題点を見つけてきます。
社長や社員の方にインタビューしたり、お客さんがどういう目的でそこに来ているかなどのデータを取ってきたりします。職場体験自体は2日間ですが、その後に持ち帰った情報やデータを「探究基礎」の授業で分析しながら、その企業の課題を考えていくのです。
地元に爪痕を残す経験を
――学校に帰って来てからが本番なのですね。
こうした活動から、実際に商品化されたものもあります。例えば、鳥取の名産品であるらっきょうの工場に職場体験に行った生徒たちが売り場を見せてもらったところ、高齢者は商品を手に取って見ているけれども、若者は売り場を素通りしていることに気付きました。そこから「若者に買ってもらえるようならっきょうを作らないといけない」と提案したのです。
当時、「インスタ映え」という言葉がはやり始めていたので、生徒たちは「インスタ映えするらっきょうを作れば、ひとまず手に取ってもらえるのではないか」と考えました。そして、理科室で「カラフルらっきょう」のプロトタイプを作って取締役にプレゼンしました。その後、その会社の社長がそれを工場に持ち帰って従業員に見せたところ、「それ、作りたい!」となったそうです。
一般的な職場体験のみでは、生徒たちが問題点や課題を見つけ、アイデアを提案するところまではいきません。「カラフルらっきょう」のように商品化ができれば、中学生が自分たちの力で社会を変え、地元に爪痕を残すことができます。探究学習は、そうした実感を得られる取り組みにしなければいけないと思っています。
中学生の段階でそうした経験をしていれば、「中学生の時にできたんだから、大人になったらもっとできる」と思って働くことができます。もし、地元に戻って来て仕事がなくても、こうした経験があれば自分で仕事を起こすこともできるでしょう。これがアントレプレナーシップを育むということなのです。
――そこまで考えた上での探究学習なのですね。
そうです。地方の学校にとって、こうした取り組みは地域創生につながる話なのです。

本校の職場体験は、鳥取青年会議所にお願いして、毎年10社ぐらい選んでいただいています。なぜ青年会議所にお願いするかというと、青年会議所には40歳までの人しか加入していないので、30代の社長や幹部など、若くして企業を動かしている人たちと共に課題解決に挑めるからです。そういう人たちの姿を、子どもたちに見せなくてはいけないと思っています。
以前、ある企業の社長は「生徒たちに言われる前に、うすうす自分もそれは課題だと感じていた。中学2年生に言われたんだから、変えなくちゃいけないな!」とおっしゃっていました。私が言うのはおこがましいですが、大人側が成長するためのきっかけを子どもたちが与えられたらいいなとも思っています。お互いWin-Winの関係を築きながら、地域を元気にしていきたいですね。
(松井聡美)
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【プロフィール】
織田澤博樹(おたざわ・ひろき) 学校法人鶏鳴学園 青翔開智中学校・高等学校校長。群馬県沼田市出身。電気通信大学大学院修了。大手電機メーカーのシステムエンジニア、キャラクタービジネス業界を経て、2012年より同校の立ち上げに設立準備室室長として関わる。学校建築、ファニチャー、ICT、図書館などの企画設計を担当する。14年の開校後は、デザイン思考をベースとした独自教科「探究基礎」の設計を行い、副校長を経て20年度より現職。