【探究×デザイン思考】 自己肯定感を高める個人探究

 鳥取県の青翔開智中学校・高等学校では、独自の教科「探究基礎」を通じて中学1年から段階的に探究を学び、高校2年では丸1年かけて個人探究に取り組む。近年では生徒の半分以上、多い年には8割近くが探究学習の成果を生かして大学に進学をするなど、探究学習が生徒のキャリアデザインにも大きく関わっている。織田澤博樹校長に個人探究のテーマをどのように設定し、進路へとつなげていくのかを聞いた。(全3回の2回目)

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丸1年かけて行う「個人探究」

――高校2年生は丸1年かけて個人探究に取り組むそうですね。テーマはどのように決めているのでしょうか。

 「好きなこと」「価値観」「得意なこと」「社会から求められていること」の4つの円を用いて(図参照)、テーマを考えていきます。基本的には、この4つの円が重なるところが個人探究のテーマであり、進むべき進路があると考えています。

 まず、生徒たちは4つそれぞれについて、思い付くことを箇条書きで書き出していきます。そして、その4つの円が重なるテーマは何かを考えます。その後、教員と徹底的にディスカッションをし、最終的なテーマを決めていくのです。ここにしっかりと時間が取れるよう、管理職がカリキュラムデザインすることが大切だと思っています。

 自分の「好きなこと」や「価値観」などの内面を表現することは、いわゆる「アート思考」です。一方で、「社会から求められていること」を自分の「得意なこと」で解決していくというのは、どちらかというと「デザイン思考」です。本校では、この2つの思考が交差するところを個人探究のテーマにしています。

――非常にバランスが取れたテーマ設定ですね。

 1年かけて研究していくので、自分とそのテーマが結び付いていないと飽きてしまうし、つまらないですよね。社会に出てからは別としても、学校にいるうちは自分の好きなことをやった方がいいと思っています。

 自分が「これをやりたい」と思うことを1年間研究してみて、「やっぱり面白い!」と思ったら、それが研究できる大学に進めばいい。やってみて「あれ?違うな」と思えば、進路の方向性を変えればいいのです。

 そもそも大学は研究をするところです。高校の勉強の延長ではありません。研究するところなのに、研究したことのない人が行くのはおかしいと思いませんか。こうした経験は、高校生のうちにやっておくべきです。多くの高校生がそれをしないまま大学に進んでしまっていることが、今の教育の大きな問題だと捉えています。

――探究学習ではテーマ設定が鍵だと言われますが、悩む学校や教員も多いと聞きます。

 探究学習のテーマをどこに置くかは、学校の判断です。各学校がどういう方向性を求めるのか、これからの未来社会に向けてやるべきことは何なのかを考えながら、テーマを決めていけばいいと思います。

 例えば、社会から求められることだけを徹底的にやる学校があってもいい。逆に、「自分が好きなこと」ばかりやる学校があっても面白いですよね。

 本校も、今の探究学習のスタイルができるまで、5~6年かかりました。ですから、2022年度から高校の新学習指導要領がスタートするからといって、すぐに完成されたものを始める必要はありません。ゆっくりと時間をかけて、学校ごとの探究学習をつくっていけばいいと思います。

生徒の半数以上が総合型選抜・学校推薦型選抜で大学に進学

――個人探究は、どのように進めていくのですか。

 各教員が2~3人の生徒のメンター役として伴走します。生徒の個人探究のテーマと教員の得意分野などを考えながら、メンターになる教員を決めます。もちろん、私がメンターになることもあります。

 以前、お菓子が大好きだけれど、アレルギーがあるために食べられないものが多いという生徒のメンターになったことがあります。その生徒は、スマホのカメラをかざすと、商品棚にあるお菓子の情報を全て読み取って、アレルギー成分があるものをチェックしてくれるアプリを開発しようと、個人探究に取り組んでいました。彼はその後、大学で食品を企画する学部に入って学んでいます。

 高校2年生は最終的に、研究内容を1万字の修了論文にまとめ、2月にはポスター発表を行います。そして高校3年生では、その修了論文を基に追加実験や調査、加筆・修正を行いながら、進路を考えていきます。メンター役を務めた教員が、そのまま進路指導も担当することが多いですね。

――個人探究がどのくらい進学に結び付いているのでしょうか。

 近年は生徒の半数以上、多い年には8割近くが、探究学習の成果を生かして、志望する大学に総合型選抜・学校推薦型選抜で合格しています。教員も個人探究で1年間、じっくりと生徒と向き合って見ているので、「この生徒はこの大学がいいんじゃないか」ということがよく分かります。

 また、総合型選抜の対策についても、個人探究を1年間やってきているので、他校の生徒とは自信の持ち方が違うと感じます。

 私がよく生徒たちに伝えているのは、「日本には高校が約5000校あって、生徒会長は5000人いる。でも、君たちの研究は、君たちしかやっていないから、日本で一つしかない」ということです。大学側から見ても、どちらの希少性が高いかは一目瞭然だと思います。

 「自分しかやっていない」ということが、生徒の自己肯定感を高めてくれます。学力やスポーツは、どうしても人と比べがちですが、探究は自分しかやっていないからオンリーワンかつナンバーワンなのです。

全員校長、全員生徒会長

――組織運営の方針として「全員校長、全員生徒会長」を掲げられています。非常にユニークな方針ですね。

 仕事をするとき、自分の判断で決定して進めることが、一つの大きな喜びになると思っています。もちろん、上司などから言われた仕事をやることも大事ですが、多くの人は自分で考えて、自分なりのやり方でやることに、一番喜びを感じると思うのです。

 それを実現するために、校長である私が現場の教員や生徒に決定権を譲渡していこうと考えました。教員が一生懸命考えて、「これでいこう!」と思うのであれば、その方が楽しく仕事ができますからね。実際に、組織全体としてもパフォーマンスが上がっています。

 生徒も、もともとはなかった球技大会を生徒発案で実施するなど、次々と企画を立てては職員会議に持ち込んできます。

――職員会議に生徒が入るんですね。

 はい。予算や場所の問題などもあるので一発では通らないことが多いのですが、生徒たちは持ち帰って指摘された課題を解決してきます。そして、再び職員会議に提出して…という流れですね。

 私は金銭面や安全面のところだけチェックして、あとはどんどん自分たちでいいと思うことをやってもらっています。多分、私が邪魔をすればするほど、面白くない普通の学校になってしまうと思うんです。だから、教員や生徒一人一人の個性と能力を尊重したいと考えています。

(松井聡美)

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【プロフィール】

織田澤博樹(おたざわ・ひろき) 学校法人鶏鳴学園 青翔開智中学校・高等学校校長。群馬県沼田市出身。電気通信大学大学院修了。大手電機メーカーのシステムエンジニア、キャラクタービジネス業界を経て、2012年より同校の立ち上げに設立準備室室長として関わる。学校建築、ファニチャー、ICT、図書館などの企画設計を担当する。14年の開校後は、デザイン思考をベースとした独自教科「探究基礎」の設計を行い、副校長を経て20年度より現職。

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