【探究×デザイン思考】 探究する校舎

 ガラス張りの博物館をイメージした外観に、デジタルとアナログを融合させた“探究する校舎”を備える鳥取県の青翔開智中学校・高等学校。織田澤博樹校長は、どんな未来を見据えて学習環境をデザインしていったのか。インタビューの最終回は、民間企業から教育界に転身した当時、学校現場に感じたことや、地方の学校がこれから担う役割について聞いた。(全3回)

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自分が子どもの頃から学校は何も変わっていなかった

――民間企業でSEやプランナーをされた後、教育界に転身されましたが、もともと教育に興味があったのですか?

 いえ、実はまったくありませんでした。子どもの頃、学校生活は楽しかったのですが、学校の勉強はつまらなかったし、定期テストや受験などに対しても「我慢して知識を得るもの」だと思っていました。だから、それを教える職業にはなりたくないと思っていたほどです。

 私は群馬県で生まれ育ちましたが、その当時は今のようなキャリア教育などもなかったので、世の中にどんな仕事があるのかなんてほとんど知りませんでした。唯一、ファミコンが好きだったので、「こういうゲームやキャラクターをつくるような仕事に就けたら楽しいだろうな」と漠然と考えていました。

 そうして、SEやキャラクタービジネスのプランナーなどの職を経て、教育界のことは何も知らないまま、結婚を機に本校の設立準備室に入りました。それが31歳の時です。自分が学校を卒業してから随分と月日が流れていたので、さぞかし中学校や高校の現場は教育方法も校舎も変わっているのだろうと期待して、いろいろな学校を見に行きました。

「自分が子どもの頃と学校は変わっていないように見えた」と話す織田澤校長

 しかし、現場を見回しても、教科書を見ても、自分が子どもの時とさほど変わっていなかったのです。もちろん、細かいところはいろいろと変わっていたのだと思いますが、外から見る限りは「何も変わっていない」ように見えました。

 ただ、これは逆にチャンスだと思いました。何も変わっていないところで、私たちが「これをやりたい」と新しい学校をつくったら、きっと面白いものができると直感的に思いました。

――そうした思いが校舎の設計にもつながっているのですね。

 さまざまな学校に視察に行きましたが、今でも印象に残っていることがあります。新しい校舎になったという、ある学校へ見学に行ったときに、私が「この校舎の売りはなんですか?」と尋ねたら、「将来、公民館にできることです」との答えが返ってきたのです。いやいや、公民館にトランスフォームできることが学校で一番優先すべきことではないだろうと驚きました。

 本校は新設校だったので、まったく何もない更地に校舎を造るところから始まりました。それであれば、今までにない、これからの未来に必要な校舎を建てるべきだと思い、みんなで話し合いながら「探究する校舎」をつくり上げていったのです。

これからの未来に必要な「探究する校舎」

――「探究する校舎」とは、具体的にはどんな工夫がされているのですか。

 デジタルとアナログを融合させて、探究活動ができるようにしています。14年の開校当時から全館にWi-Fiを完備し、生徒はiPadを1人1台ずつ持ち、日常的に活用しています。そうして、いつでもどこでもインターネットに接続できる環境を整えました。

 また、アナログ面では、多くの学校のような図書室 をつくるのではなく、校舎全体に書棚を配置し、まるで図書館の中に学校があるような環境をつくりました。

 どこにいてもインターネットに接続でき、本にもアクセスできるので、それらの情報を使って探究学習をしていこうというコンセプトです。

――なぜ、学校全体を図書館のようにデザインしたのですか?

まるで図書館の中に学校があるような環境をつくりあげた

 実を言うと、私自身は図書室に行くのが嫌いでしたし、本も大嫌いな子どもでした。同じような子は結構いるはずで、そういう子が毎日、図書室に行ったり、本に触れたりするにはどうすればいいのかを考え、「校舎を全部、図書館にすればいい!」という発想に至ったのです。

 また、本校の図書館司書は各教員の授業づくりにも参加し、授業にどういう情報を提供すべきかを一緒に考えてくれています。開校した当初は紙の本しかありませんでしたが、今は電子書籍や電子百科事典もあります。生徒たちに提供できる情報源がどんどん増えてきているので、司書が入ってアドバイスしてくれているのです。

 各教員の授業スタイルなども理解しながら入ってくれているので、例えば「この間、国語の授業でこんなことをやっていました」というような情報の共有が、司書を経由して行われています。

「学校ってこうなったらいいな」を実現する

――校長として新しい学校をつくり上げていく中で、どんなところに教育の面白さを感じていますか。

 私はプランナーや企画の仕事を長くやった後に教育界に入ったわけですが、授業を企画したり、つくり込んだりしていくのが、こんなにも面白いとは思いませんでした。「この授業と連携して○○をやろう」とか、「この順番で進めていって、ここで講師を呼ぼう」とか、1年間の授業をつくっていくことが面白いんですよね。

 また、学校をつくること自体も面白いと感じています。「学校ってこうなったらいいな」という思いは、誰しもが持っていますよね。それを実現できるという面白さがあります。

――「校長」という立場でなくても、できることはあるのでしょうか。

 もちろんです。例えば、担任を持っていれば、学級が自分でコントロールしやすい範囲だと思うので、まずはそこからやってみればいいと思います。

 「学校ってこうなったらいいな」とみんなが思っているのに、ずっと変わっていないのは、誰かがどこかでストップさせているからです。その邪魔がなければ、学校は一番面白い仕事の領域になるはずだと、私は思っています。

一生に一度は鳥取に貢献してほしい

――新学習指導要領が実施されるなど、学校教育も大きく変わろうとしています。教育の目的について、どう考えますか。

「地域の学校の元気のあるなしが、その地域の存続と大きく関わってくる」と指摘する

 なぜ、私たちが教育を提供しているかというと、それを受け取る人、つまり子どもたちが、その後の人生を楽しく生きていけるようにするためです。子どもたち自身も幸福な人生を歩むために勉強しているのだと思います。

 日本の人口はこれからどんどん減少していきます。特に地方は、自治体ごと消滅するとも言われています。これは、楽しく生きていくことに反しますよね。人口減少の時代にあっても、学校を卒業した子どもたちが楽しく生きていけて、なおかつ地域が存続していくように努めていかなければいけない。それがこれからの学校の役割です。

 今後は、これまで以上に地域の学校の元気のあるなしが、その地域の存続と大きく関わってくるでしょう。地域を守っていくためにも、学校が元気にならなくちゃいけない。そのために何をすべきかを常に考えています。

――それは子どもたちの進路や将来にも関わってくることなのでしょうか。

 私が生徒たちに言っているのは、「みんながどんな道に進もうが、何をしようが構わない。でも、一生に一度は何か鳥取に貢献するようなことをしてほしい」ということです。

 そうすれば、卒業生が50人いたら50回は鳥取のために何かが起こります。それを毎年積み重ねていくことで、この地域が繁栄していくのではないかと思うのです。今はICTも発達しているので、別に鳥取に戻って来なくても、それぞれの場所から貢献する方法もあるはずです。そうしたメッセージは投げ続けています。

 また、今後は地方に限らず、日本中のどの地域も人口が減少し、日本全体で貧しくなっていくことが予想されています。しかし、海外に目を向ければ、人口が増えていくところもあります。だから、子どもたちには日本国内に限らず、自分が楽しく暮らしていける場所を自分で見つけて生きていけるようなすべを身に付けてほしいと願っています。本校から海外の大学への進学者が増えているのも、そういった意味があります。

 厳しい未来は必ずやって来ます。そうした状況を打破するために、私たちが子どもたちにできることは何なのかを真剣に考え、これからも実行していきます。

(松井聡美)

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【プロフィール】

織田澤博樹(おたざわ・ひろき) 学校法人鶏鳴学園 青翔開智中学校・高等学校校長。群馬県沼田市出身。電気通信大学大学院修了。大手電機メーカーのシステムエンジニア、キャラクタービジネス業界を経て、2012年より同校の立ち上げに設立準備室室長として関わる。学校建築、ファニチャー、ICT、図書館などの企画設計を担当する。14年の開校後は、デザイン思考をベースとした独自教科「探究基礎」の設計を行い、副校長を経て20年度より現職。

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