【海外の教育ニュースを読む】難民の子も教師も受け入れ ポーランド

 ウクライナからの難民の数は推定で400万人に達する。最大の受け入れ国は隣国ポーランドである。ポーランドに入国した難民の数はすでに200万人に達していると推定される。ピーク時の3月7日の1日の流入数は約14万人であった。3月29日時点では、その数は2万2000人に減ったが、依然として難民の流入は続いている。難民の半数は18歳未満の子供と見られており、難民受け入れ国では、子供たちに対する教育が深刻な問題になっている。

 日本政府も積極的にウクライナ難民を受け入れる方針を明らかにしている。だが、最終的に何人の難民を受け入れるか、その中に何人の子供たちが含まれるか予測はできない。ただ、受け入れ数は限られたものになると思われる。しかし、実際に難民の子供たちが入国してきた時、どのような教育体制で受け入れるかが問題になるだろう。どのようにポーランドが子供たちを受け入れる教育体制を取っているのかを知ることは、日本にとっても有益なことである。

 ポーランドは最も寛容なウクライナ難民受け入れ政策を実施している。3月7日にポーランド政府はウクライナ難民に対して18カ月の滞在許可を与え、同時に国民番号を付与して、ポーランド人と同様の社会福祉給付や健康保険、教育を受ける権利を認める法案を提出した。ポーランド議会は3月10日に同法を承認するなど、迅速な対応を取った。同法案の中にはウクライナの難民の子供の教育に関する項目も含まれている。ポーランド政府は、3月11日段階で難民の中に約50万人を越える子供が含まれており、その数は増加すると予想している。

 ツアルネク教育科学相は「難民の子供たちをポーランドの学校に受け入れ、適切な教育を行う」と約束する一方で、「ポーランドの子供たちの教育水準を維持する」と、政府の基本方針を説明している。さらに同相は「ポーランドの学校は数十万人の子供たちを新入生として受け入れる準備ができている」と語っている。さらにツイッターで「7万5000人の子供たちがすでにポーランドの学校に通っている。そのうちの10%は(ポーランド語が話せないため)準備クラスに通い、90%が通常のクラスに通っている。ポーランドの学校に出願できる子供の数は70万人と推定している」と伝えている。

 ではポーランド政府は具体的にどのような対策を講じているのであろうか。3月11日段階で、2万4000人の子供たちが学校に通うための登録を行っている。地元のメディアNFPは「その数は毎日、増加している」と報じている。最近では、国民教育省は「13万人のウクライナの難民の子供たちが、すでにポーランドの教育システムに組み込まれている」と発表している。

 生徒数の急増に対応するため、ポーランド政府は特別行政命令を出して、小学1年生から3年生のクラスの定員を25人から29人に増員し、幼稚園の定員も25人から28人に増員することを指示している。

 さらに同法には、学校長に「パラレル制度(別建てのクラス制度)」を弾力的に導入する権限を与えるなど、受け入れによるポーランドの教育制度や子供たちへの影響を最小限にする方針が含まれている。ツアルネク教育科学相はその狙いを、「政府の最優先事項はポーランドの教育が阻害されないようにすることだ」と説明している。さらに同相は「ウクライナ難民の子供たちの面倒を見るのは一時的であり、子供たちは将来ウクライナに戻るものだと確信している」と語る一方、「ポーランドにとどまることを決断した子供たちは、ポーランドの学校で歓迎されるだろう」と柔軟な対応を取ることも強調している。

 また同法には、ポーランドの学校でウクライナ人教師の採用を積極的に行う方針も織り込まれている。すでにロシア語やウクライナ語を話す教師の1万1000人が登録を済ませ、採用を待っている。こうした教師は、ポーランド語が話せない子供たちの指導に当たることになっている。

 また難民を受け入れた学校を支援するために、「統合教育プラットフォーム」を通して1万1000を超える教材をオンラインで自由に活用できる体制も整えた。同時に政府は学校に対して、さまざまな資金的支援も打ち出している。例えば小学校に対しては、教科書、教材、演習教材などを購入するために必要な資金を学校に対して提供することになっている。中学校でも1万5000を超える電子教材に自由にアクセスすることができる体制が整っている。こうしたプラットフォームには、外国語としてのポーランド語を学ぶ教材に無料でリンクする仕組みも含まれている。

 難民の大学生に対しても、ポーランドの大学で学習と研究を継続できる措置が講じられている。またウクライナの大学の教師や研究者は、ポーランドの大学や研究所で採用される道も開かれている。ポーランドの大学は、そうした目的のためにすでにさまざまなプログラムを提供している。教育者でなくても、ポーランド語が堪能なウクライナの難民は、ポーランド語が話せない子供たちの教育ために教師のアシスタントとして働くことができる。

 ポーランドがウクライナ難民受け入れで迅速な対応ができた理由について、地元のメディア「Wyborcza」は「ポーランドの地方自治体は海外からの移民教育を組織化する豊富な経験を持っている。この数年、ポーランドの学校では外国人子弟が急増しており、その大半はウクライナ人である」と説明している。

 例えば78カ国、約5000人の外国人生徒を受け入れてきたクラクフ市は「全ての子供が、出身国およびポーランド語の知識にかかわらず、教育への自由なアクセスを、ポーランド共和国憲法および子どもの権利条約によって保護されている。従って、戦争の初日からクラクフ市の教育機関の全ての従業員、特に学校長と教育職員は、ウクライナから逃げてきた学生・生徒を支援し、クラクフ市の学校で勉強できるようにするために最大限関与してきた」と市の基本的な姿勢を説明している。

 だが、ポーランド国内には寛容な難民政策に対して批判も存在している。まず、生徒の急増に伴う教師不足が深刻な事態になっていることがある。「Wyborcza」紙は「幼稚園教諭、英語と数学の教師など、都市部での教師不足は1万3000人に達している」と説明している。教師の給料は最低賃金の水準で、離職者が急増している。教師不足から、すでに二部制で授業を行っている学校も出てきている。

 『ワシントン・ポスト』は「ポーランドの教育制度は、今回の危機が始まる前から、極めて厳しい状況に置かれていた」という教育関係者のコメントを紹介している(3月20日、「Polish schools expect as many Ukrainian refugees as there are students in Los Angeles」)。ポーランドが受け入れる生徒の数はロサンゼルス市の生徒の総数に匹敵し、すでにそうなっている教師と教室の不足がさらに悪化すると予想されている。

(中岡望=なかおか・のぞむ ジャーナリスト)

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