【未来の授業を創る】 ロボットのいる教室で

 自らの授業力を鍛えたいと、20代半ばにして三重大学教育学部附属小学校の門をたたいた前田昌志教諭。5年目を迎えた2021年度には、培った授業力と最新のテクノロジーで、一歩先を行く授業実践を次々と生み出した。インタビューの最終回では、ロボットが日常的に教室にいる未来を子どもたちに見せる実践などを通じて、教師の役割や面白さなどについて聞いた。(全3回)

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教師はロボットで代替できるのか

――教室の中にロボットがいると聞きました。

 大阪大学大学院基礎工学研究科と国立精神・神経医療研究センターの実証実験で、21年度から社会的対話ロボット「CommU(コミュー)」が教室にいて、一緒に授業に参加しています。コミューはいろいろな動作をしたり、話し掛けると反応したりできるロボットで、大阪大学大学院基礎工学研究科の吉川雄一郎准教授が開発しました。

 コミューはもともと、特別支援教育の分野で、対人関係が苦手な子どものコミュニケーションを促すためにも使われていたロボットです。これを本校でも活用できないかと松浦直己校長から提案があり、挑戦することにしました。

――コミューが教室にやってきたとき、子どもたちはどんな反応だったのでしょうか。

大阪大学大学院基礎工学研究科との実証研究で教室にやってきたコミュー(前田教諭提供)

 いろいろな反応がありましたね。ワクワクを隠せない子もいれば、何だか怖いと感じている子もいました。中には、大阪大学大学院基礎工学研究科のロボット研究者である石黒浩教授の本を読んだことがある子もいました。

 少しずつ、コミューとコミュニケーションを取ったり、実際に自分で操作してみたりして、子どもたちはだんだんコミューのことを理解し、今の世の中でなぜこのようなロボットが必要とされているのかを認識していきました。そんな未来的な経験ができる機会をつくれて、本当に良かったと思いました。

――学校現場でもロボットの導入事例が少しずつ増えていますが、最初から活用のイメージなどはあったのでしょうか。

 実は全くありませんでした。ただ漠然と、将来はAIやロボットが当たり前の社会になるのだろうとは考えていました。それならば、ロボットなんて触ったことがないけど、やってみようじゃないかと思ったのです。

 コロナ禍で人々の生活が大きく変化して、リアルでなくても会えるようになった中で、「学校がある意味って何だろう」「人と人がリアルで関わる意味って何だろう」という問いが、私たちに突き付けられています。もしかしたら、ロボットが教師になってもいいし、コミュニケーションはロボットに任せればいいかもしれない。

 でも、実際にロボットを使っていくと、そうではないということに子どもたちも私も気が付きます。そこが面白くて、子どもたちはロボットを使って何かができるようになったというよりも、人間ができること、自分たちが学校に通っていることの意味を発見して、言葉にしていきます。ロボットを教室に入れる効果として、そこが大きいと感じました。

 もう一つ、コミュニケーションが苦手な子どもや不登校の子どもにとって、バーチャルな空間はとてもプラスに働くと思います。ただ、そればかりというわけにもいかない場面が必ず出てきます。今後は、リアルとバーチャルのバランスをどうするのかということを、ロボットを通じて子どもたちと考えていけたらいいなと思っています。

 実際に、コミューが教師役となって授業をやってみたことがあるんです。結果はというと、1時間くらいであれば何とか授業は成立しますが、これが毎日続けられるかといえば無理ですね。教師は、子どもたちの表情や動作、感情など非常に複雑な情報を把握しながら授業を進めていて、不確定要素の部分があまりにも大きいのです。ましてや、授業や子どもたち以外にも、学校行事や保護者・地域との関わりもあります。だから、教師はロボットに代替されないというのが今のところの結論です。

学習効果は教師が生み出すもの

――GIGAスクール構想の先に、どんな授業の姿を描いていますか。

VRを活用して学びを深める児童(前田教諭提供)

 少し前までは、「タブレット端末を使ったところで学習効果はない」といった話を耳にすることもありました。でもそれは、結局教師が効果的に使えていないだけだと思うんです。つまり、タブレット端末に問題があるのではなく、それを使った効果的な学習ができない教師の側に問題があるのではないでしょうか。

 GIGAスクールによる1人1台を前提に、VRやAI、ロボットの活用が始まっていますが、未来は間違いなくそういう社会になっていくのだから、学習効果の有無を議論している場合ではなくて、それら最新のテクノロジーを私たちが使いこなして学習効果を出していかなければいけないのだと思います。それを見つけるのが教師としてとても楽しいし、何より、5年後、10年後の未来に直結している活動は、子どもたちも喜びます。

 テクノロジーを効果的に使うことは絶対にできるはずだし、それが未来の社会の姿であり、子どもたちの将来の姿なのだから、私たち教師が常にアンテナを高くして、新しいものをどんどん取り入れながら学んでいくしかないんです。その過程できっと、これまでのアナログな学習の大切さを実感できることだってあると思います。

 それは、附属校であろうと公立校であろうと変わりません。だから、いずれ公立に戻っても私の実践の基本は変わらないと思います。実は今、コミューは1年生の教室に出張中です。同僚の先生の間で、コミューを使ってみたいという輪が広がっています。そういう「面白い」を共有してくれる同僚がいる職場環境にいられて、とても恵まれているなと思います。それはきっと、公立校だって共有できるはずなんですよね。

――これから挑戦したいことは何でしょうか。

未来を想定して教師は最新のテクノロジーをどんどん活用すべきだと語る前田教諭(本人提供)

 附属小にいる間に、コミューの実証実験を発展させて、「アバター共生社会」を学校現場にもたらしてみたいという気持ちがあります。石黒教授が作った人間そっくりのアンドロイドを教室に入れたらどうなるかなと、今からワクワクしているんです。子どもとアンドロイドがどういう会話をするのだろうかとか、それによって道徳や倫理について考えてみても面白いだろうなとか…。結局、自分自身が楽しんでいるんでしょうね。

(藤井孝良)

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【プロフィール】

前田昌志(まえだ・まさし) 1992年、三重県生まれ。三重大学教育学部を卒業し、2014年度より小学校教諭。17年度より三重大学教育学部附属小学校教諭。日本天文教育普及研究会理事、日本理科教育学会評議員を務める。21年度は三重県教育委員会「小学校理科スキルアップ研修」の講師、三重県内の自治体の小学校におけるGIGAスクール研修の講師も務める。

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