【ペップティーチャー】 4月に使えるペップトーク

 米国のスポーツ界で試合前に選手を励ます言葉掛けとして始まった「ペップトーク」。教師の在り方が問われる中、教育界でもその活用が広がってきている。そのペップティーチャーのトップランナーとして活躍するのが、大阪府高槻市立北日吉台小学校の乾倫子指導教諭だ。インタビューの第1回は、自ら開発した「ペップ授業」について、教育におけるペップトークのポイントについて語ってもらった。(全3回)

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受容→承認→行動→激励

――教育界でも注目されている「ペップトーク」ですが、米国のスポーツ界で始まったものだそうですね。

 ペップとは、「元気、気力、励まし、活気」という意味で、もともとはスポーツの試合前に監督やコーチが選手を励ましたり、やる気にさせたりする言葉掛けのことです。それが今、教育や子育て、ビジネスなどの場面でも使われるようになってきています。

――スポーツだと、例えば「お前たちならやれる!」というような声掛けがイメージできますが、学校ではどんなシーンでペップトークが活用できるのでしょうか。

 ペップトークには、事実の受け入れ(受容)、捉え方変換(承認)、してほしい変換(行動)、背中のひと押し(激励)という4つのステップがあります。

 例えば、4月は新しいクラスに慣れず、落ち着かない子も多いですよね。そういうときに、担任は「こんなにうるさいんだったら、○年生に戻ってもらおうかな」などといった声掛けをしがちです。

 それがペップトークでは、「みんな元気いっぱいやね。このパワーを新△年生として発揮するにはどうしたらいいか考えよう!」に変わります。

教育のペップトークでは、待つことや寄り添うことも大切という乾指導教諭

 また、特に4月は緊張のせいでこちらが何を聞いても答えられない子がいます。そういう子に対して担任は「言わなきゃ分からないよ」などと言いがちですが、私の場合は「今は心の中でいろいろ考えているのが分かるから、それが出せそうなときでいいよ」と声を掛けるようにしています。

 もちろん、「言わなきゃ分からないよ」と押してみて言える子もいるので、そこはその子を見た上で判断するようにしていますが、発言できない子には「待つ」ことも大事にしています。

私が教育でやりたかったこと

――ペップトークに出会ったきっかけを教えてください。

 今から約4年前に、高槻市で行われた生徒指導に関する研修会でペップトークに出合いました。私は生徒指導を担当していた関係で、たまたまその研修に行ったのですが、感動して泣いてしまったんです。研修で泣くなんて、初めてでした。

 それ以前も「あの子に私の言葉を伝えるにはどうしたらいいんだろう」などと悩み、いろいろなことを勉強してきました。そうして学んできたさまざまな理論や実践の中で、私が「いいな」と思っていた要素が、ペップトークには全て入っていたのです。そのことに感動して、「私が教育でやりたかったことはこれや!」と思いました。

――そこからどのようにペップトークを実践していったのですか。

 私は基本的に、何を学んでいても、何を見ていても、「これをどうやったら授業にできる?」と考えています。自分が学んだことを子どもたちに伝えたいと思っているからです。

 ペップトークに出合った時は前任校で6年生の担任をしていたので、まず6年生にペップトークの授業をやってみました。すると、中学生に向けた不安な気持ちが前向きな気持ちに変わるなど、とても手応えを感じました。

自ら開発した「ペップ授業」のワークシート

 そこから、各学年向けのワークシートを作るなどして、自ら開発した「ペップ授業」を日本ペップトーク普及協会にプレゼンしました。現在は、講座や出張授業などを通して、「ペップ授業」をいろいろな学校や先生に広める活動もしています。

 私は「在り方」だけでなく、「スキル」も身に付ける必要があると思っています。例えば、優しい心を持っている子がいたとしても、それをどう伝えればよいかが分からないケースもあります。その「どう伝えるか」のスキルの部分を「ペップ授業」で身に付けるイメージです。

 そして、普段の授業や学校生活の中でもペップトークを取り入れて、先生が子どもたちに前向きな言葉を掛けたり、捉え方を変換して伝えたりということを継続していくことで、在り方が身に付いていきます。

子どもたちとどう信頼関係を築くか

――ペップトークを実践していく上で、大事なことは何ですか。

 いくつかありますが、ここでは3つ紹介します。

 まず一つ目として、絶対に必要なのは信頼関係です。信頼していない人からペップトークをされても、何も響きません。ですから、ペップトークではまず「受容」、そのままの姿を受け入れることを大事にしています。

 例えば、問題行動を起こす子をいきなり行動レベルで叱ってしまうことがあると思います。そうではなくて、まずその子が「そんな気持ちになっている」という事実を受け入れることが大切です。

 4月は忘れ物をする子も多いですよね。それに対して先生がどう対応をするかを子どもたちはよく見ています。だから私は、春はより丁寧に対応するようにしています。

 「先生、忘れました」と子どもが言ってきたら、「まず『忘れました』と言いに来られたんがうれしいわ」と伝えます。そして「忘れたというのは分かったよ。その忘れ物はどういう忘れ? うっかり忘れたの? やったのに忘れたの?」と、「忘れた」事情を聞きます。その上で、どんな方法だったらその子が持って来られるのかを一緒に考えていきます。

――ものすごく子どもが安心しそうな声掛けですね。

4月は特に子どもたちへの対応を丁寧にする

 一つ一つ丁寧に細かいところまで、子どもの不安を取り除いていくイメージです。こういうやりとりを、4月はあえてみんなの前でやります。春は子どもたちが強い不安を持っていて、「この先生はどんな先生で、どんな感じで怒るのかな?」ということを見ているからです。こうした対応を見せながら、信頼関係を築いていきます。

 二つ目は、子どもに対する捉え方を変換することです。例えば、教室で「ちょっとうるさい子」も、捉え方を変えたら「パワーがあって元気な子」ということになります。そこで、「そのパワーいいよね。何かに使えるときが来るんが楽しみやな」などと声を掛けます。

 あるいは「発表できない子」も、捉え方を変えたら「よく聞いている子」で、ノートもきれいに書いています。そこで、「こっちに力を注いでいるんやね」と声掛けをします。

 要は、その子の今あるものに目を向けるということです。そうやって子どもたちを見て、言葉を掛けていけば、子どもたちに「ここに居ていいんだな」という安心感が生まれます。

 ペップトークでは、いわゆる「欠点」のことを「改善点」と捉えます。改めたら良くなる点は誰にでもある。でも、欠点はないという考え方です。できないことや苦手なことはみんなで助け合ったらいいし、自分が好きで得意なことで貢献していけばいい。これをベースにしています。

選択肢を増やしてあげるのは大人の役目

――最後の一つは何でしょうか。

 質問の仕方です。常に、未来にどうしたいのかを聞く、「未来質問」をします。例えば、忘れ物をしたときに「なんで忘れたの?」と聞かれても、子どもからは「ごめんなさい」しか出てきません。そうではなく、「どこまでできているのかな? これからどうしようか?」などと聞くようにしています。

 例えば、クラスでけんかが勃発したとき、先生はつい「なんでけんかしたん?」と過去について質問しがちですが、こういうときにこそ未来質問が有効です。

 まず、けんかするほど嫌な気持ちになったことをお互いから聞くだけ聞いたら、この先の未来、2人の関係をどうしたいのかを聞きます。子どもが「解決して仲良くしたい」と言ったら、「そのためにできることは何?」と促せば、自分たちで謝り始めます。

 もちろん、子どもからすぐに答えが出て来ない場合は待ちます。「考えられるようになったら話そうね」などと言って、相手の子にもそれを説明します。

――子ども自身がどうしたいのかを決定する、ということも大事ですね。

 私は常々、子どもが自己決定する場面を増やしたいと思っています。それが自律につながるからです。

 ただ、子どもは小さければ小さいほど、自己決定するための選択肢をいくつも持っていません。例えば、子どもから3つの方法が出てきた場合、私たち大人があと2つの方法を知っていたならば、それは教えます。そうしないと、子どもたちに選択肢が増えていかないからです。そうして選択肢を増やしたり、背中を押したりしてあげる。それが、先生の役目です。

(松井聡美)

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【プロフィール】

乾倫子(いぬい・みちこ) 1981年、京都府京都市生まれ。大阪府高槻市立北日吉台小学校指導教諭。道徳(心の教育)と国語(言葉の教育)の研究を深め、大阪府道徳研究大会、大阪府国語研究大会で授業者として提案授業などを行う。一般財団法人日本ペップトーク普及協会教育普及部副部長。前任校は日本初の「ペップトーク実践モデル小学校」となり、全学年に自らが開発した児童生徒向け「ペップ授業」を行う。現任校では1年生から3年生までが「ペップ授業」に取り組んでいる。各地の講演会などで学校教育へのペップトーク普及に取り組む。口癖は「ありがとう」「大好き」。趣味は人と対話しながらお酒を飲むこと。好きなお酒はシャンパン。二児の母。

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