【北欧の教育最前線】 スウェーデンのナショナル・テスト

 日本では全国学力・学習状況調査が4月19日に実施されるが、2024年度からCBT化が提案されている。スウェーデンでは、基礎学校の3、6、9年生(それぞれ、日本の小学3年生、6年生、中学3年生に相当)と高校生が、それぞれの学校で悉皆のナショナル・テストを受けており、現在、デジタル化に向けた試行錯誤が進められている。


多種多様なナショナル・テスト

 スウェーデンのナショナル・テストは、2000年代以降、実施学年や教科が増やされてきた。現在は基礎学校の3、6、9年生と、高校および高校レベルの成人教育において、国語、数学、英語のほか、理科や社会科など、全部で28種類のテストが行われている。

 どの教科のテストも、複数のパートに分かれている。それぞれのパートは問題の特徴が異なっており、テスト実施日も異なる。例えば、基礎学校9年生の数学には、グループ課題のAパート、短答問題のBパート、電卓と定理集プリントの助けを借り解法を明示するCパート、1つのテーマに関する複数の文章題から成るDパートがある。21年秋から22年6月までの今年度でいえば、Aパートは11~12月に各学校で適宜行われるが、B・Cパートは5月11日の午前9時から、Dパートは5月13日の午前9時から全国一斉に行われる。

 もちろん、同日に別科目のテストは実施されない。国語は3月、英語は4月と、時期も異なる。見方を変えれば、学校では年間を通して何らかのナショナル・テストが行われていることになる。

 これらの全て、あるいは一部が、24年春から順次デジタル化される予定である。

世界一のデジタル化国家を目指して

 ナショナル・テストのデジタル化は、17年に国会で可決された。デジタル化の最大の狙いは、自動採点によって評価の公平性を高めることと説明されている。採点については、これまでさまざまな批判や議論があった。

 その他、採点時間の短縮、ペーパーレス化による効率化と環境への配慮、テスト実施機関へのテスト結果報告の自動化、テスト内容領域の拡大、字の拡大表示や読み上げなどの特別な配慮がしやすいといったメリットが挙げられている。

 デジタル化は、テストにとどまらない、大きな国家戦略の一環だ。17年、スウェーデンの産業省は、競争力を高め、完全雇用を実現し、経済的・社会的・環境的に持続可能な発展に寄与することを目指して国家デジタル化戦略を打ち出した。スウェーデンは、電子申請サービスや電子決済サービスをはじめとして、すでに社会のさまざまな場面でデジタル化が進んでいたが、それをさらに進め、イノベーションを促進してデジタル化の可能性を追求しようというのだ。

 戦略には5つの目標があり、その1つがデジタル・コンピテンスである。誰もが自分に必要なデジタル機器とサービスを用い、新しい技術を利用する能力を身に付けることを目指している。人々のデジタル・コンピテンスを高める役割が教育に期待され、学校のデジタル化も積極的に進められた。

 すでに授業中のICT活用や、連絡や記録のデジタル化は広まっていたが、地域や学校によって状況には差があった。近年は、全国的な質の高いデジタル環境の整備や、子どもたちへのデジタル・コンピテンス教育が進められている。ICT機器をさまざまな場面で活用することにとどまらず、インターネット上の情報を批判的に検討することや、プログラミングについて理解することも含まれる。また、教育現場の変化だけでなく、こうした変化に寄与する研究も推進されている。

 ナショナル・テストのデジタル化は、こうしたデジタル化推進の中に位置付けられる。

デジタル化に適した科目、適さない科目

 デジタル化の第一歩として、18年秋以降は、基礎学校9年生以上の国語と英語テストの長文筆記問題への解答が、コンピューター上で行われている。出題は従来通り紙で行われるが、生徒は解答をログインしたサイト上に書き込む。問題用紙の配布など、テスト運営に関わる作業は変わらず、採点に関わるデジタル化のメリットだけを先行して取り入れた形式といえる。手書きの文章を読むよりも採点が楽で、データ管理がしやすい。

ナショナル・テストの数学の問題と回答例

 一方、デジタル化に伴う課題が多いと思われているのは数学である。パソコンの画面では、図形やグラフを書きにくく、計算のためのメモも取りにくい。現在でも数学では、授業や学校で実施されるテストもデジタル化されていない。そのような中でナショナル・テストがデジタル化されると、生徒は数学の能力を発揮できるだろうかという疑義が、生徒や教師から出されている。数学の能力よりも、デジタル対応の能力が、テストの点を左右してしまうかもしれない。

 タブレットとタッチペンでテストを実施すれば問題はないが、全ての学校で全ての生徒にタッチペンを用意するのは困難だ。

 全てのテストをデジタル化するかどうかは、まだ確定していない。18年から、全国100校のパイロット校が、ナショナル・テストのデジタル化を先行実施している。運用上のさまざまな課題を明らかにし、パイロット校での経験をもとに議論が行われているところだ。具体的なデジタル化の全容が見えるのは、もう少し先になる。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)

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