【小泉志信教諭×櫃割仁平さん】 若手教師の困り感

 学校現場に20代の若手教師が増える中、彼らをどう育てていくか、さまざまな不安をどう軽減するかが課題になっている。そんな中、教師3年目ながら「まなびぱれっと」の代表理事として若手教師の成長を支援する小泉志信・東京都東久留米市立南町小学校教諭と、教員志望の学生らで構成される団体「Teacher Aide」の発起人である京都大学大学院教育学研究科の櫃割仁平さんが「新米教師だからこそ、教職の未来を語ろう」というテーマで対談を行った。コロナ禍や教員不足にあえぐ学校現場で、今、若手教師はどんな状況に置かれているのか。両氏の対談から、若手教師が抱く困り感を浮き彫りにする(全3回の1回目)。

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「志信くん」と「仁平くん」の共鳴

――今回は「新米教師だからこそ、教職の未来を語ろう」というテーマで、お話をお聞きします。たまたま2人とも同学年で面識もあるとのことですが、お互いのことをどう思っているのでしょうか。

 櫃割 僕自身は今、京都大学の博士課程の大学院生として、心理学の研究をしています。3年ほど前に「Teacher Aide」を立ち上げたのは、僕の友人で大学卒業後に教師になった人がたまたまたくさんいて、みんな大変そうにしている姿を見て、教師が幸せになるために何か自分にもできることがないかと思ったからです。

 「まなびぱれっと」が目指そうとしている先は、「Teacher Aide」と似ているなと思いました。例えば、学校の先生が安心して、もっと良い教育を現場でできるようにするためにはどうすればよいかを考えたり、子どものことを大事にしたりするところですね。

 僕は小泉先生のことを「志信くん」と下の名前で呼んでいます。志信くんはちょっと正直者というか、素直でストレートなところがあって、だからこそ人の心に刺さる部分もあるのですが、危うさもある。でも、そんな彼を「まなびぱれっと」のメンバーが慕いながらしっかり支えている様子が感じられて、すごくいいチームだなって思っています。

小学校教員と一般社団法人代表という二足の草鞋(わらじ)を履く小泉教諭

 小泉 僕は今、公立小学校教員として2年目を終えるところです(編集部注 この対談は2月に行われました)。教員をやりながら、昨年3月に「まなびぱれっと」という一般社団法人を設立しました。教師と、教師ではない人が安心して交じり合う未来をつくっていくことをミッションに掲げながら、教員と代表理事という2つの肩書で活動しています。

 僕も櫃割さんのことは「仁平くん」と呼んでいます。「Teacher Aide」の活動は彼と出会う前から知っていて、すごくシンパシーを感じていました。僕は正直者ということでしたが、仁平くんはどちらかというと、まるでクッションのように柔らかいイメージです。でも、それでいて見えない芯のようなものがしっかりあって、きっと大きな器で受け止めているんだろうなって思います。すごく大きなところを見据えて動いている人です。

何が分からないのかが分からない1年目

――教師になってまだ2年目とのことですが、これまでの教師生活を振り返ってどんなことを感じていますか。

 小泉 起業をしているから、きっと外からは輝かしいルーキーのように見えるかもしれませんが、決してそんなことはありません。1年目はものすごく大変でした。学校に来て3カ月後にはZoomで集会をやったり、1年目の最初には青空の下で入学式をやったり、なんだかんだで1年生の担任を1年間やりきったわけですが、正直、学校に行くのがきつかった時期もありました。

 何がきつかったかと言えば、分からないことが分からないんです。周りの先生に頼りたくても頼れなかったのが1年目で、そこが苦しかった。担任の仕事や授業など、自分らしいやり方を模索しなければいけないわけですが、「教科書通りにやればいいよ」と言われても、その「教科書通り」が分からないんですよ。学校に着任してすぐに校務分掌が割り当てられるんですが、マニュアルがあるわけでもないし、全然知らない言葉ばかりだし、そんな状況で質問したくてもできず、後手に回っていました。

 幸いなことに、僕の場合は学年主任の先生が気に掛けてくれていたので、授業のことは何とかその先生に教わりながらやっていくことができました。今思えば、もっといろいろなことを自分から聞きに行けばよかったのですが、そのときはきっと、そんな余裕もなかったんだと思います。

 2年目になると、新たに初任の先生が入ってきました。境遇はよく分かるので、僕なりにできる限りのことを伝えてフォローしています。僕自身も、1年やってみてやっと学校の全貌がつかめてきて、早めに対策を打てるようになりました。

 例えば、1年目にZoomを使って外部の人を授業のゲストに呼びたいと思ったことがありました。そのときに、学年の先生や管理職の先生としっかり情報共有をしておく必要があったのですが、そのやり方が分からなかったんです。「こういうことをやりたい」という気持ちはあるけれど、誰にどんな手順を踏んで伝えれば実現するのかが分からなかったので、うまくいきませんでした。2年目はその辺が分かっていたので、学校のカリキュラムに沿った形で学年の先生方に提案することができ、SDGsと未来のまちづくりと車を掛け合わせたPBL型の授業を実践できました。

 ただやりたいことをやればいいのではなくて、1年間の計画が練られた学校という組織の中で、どうすれば自分の力を発揮できるか、どうすれば子どもたちと教員がスムーズに動きながらより良いものを届けられるかを考えました。それが1年目と2年目の大きな違いですね。

オミクロン株のしわ寄せが若手教師に来る

――「Teacher Aide」のメンバーの中にも、教壇に立っている人は多いと思いますが、どんな声を聞きますか。

 櫃割 「Teacher Aide」には、全国各地からいろいろな若手教師の声が集まってきます。やっぱり、マクロな視点で見るとどこも大変のような気がします。

教師になった友人の大変さを目にして、「Teacher Aide」を立ち上げた櫃割さん

 特に最近は、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が学校で広がっていますよね。子どもたちだけでなく先生にも感染が広がってしまって、休まざるを得なくなった先生の代わりに管理職の方が急きょ、担任をしているという話を耳にします。

 管理職の存在は、特に1年目や若手の先生にとってすごく大事です。経験の浅い若手をサポートしてくれる存在である管理職までもが担任を受け持つようになると、学校というシステムは回っていきません。少し前に文科省が教員不足の実態調査を公表しましたが、ぎりぎりの人数で回して管理職が前線に出なければいけなくなると、そのしわ寄せが若手教師に来てしまうのではないでしょうか。

 小泉 管理職の方は若手教師にとって、単に指導してくれるだけではなく、学校としての指針をメッセージとして発信してくれる存在でもあります。だからこそ、コロナ禍で管理職が担任をせざるを得なくなると、最後のとりでがなくなってしまい、若手教師は自身で判断しなければいけない場面が増えます。分からなくて判断を仰ごうにも、管理職の先生にも余裕がないという状況が、生まれてしまっているんじゃないでしょうか。

 そう考えても、本来マネジメントの役割を担っている人がマネジメントに専念できるようにすることは本当に大事で、プレーヤーの人数が足りない今の状況は、本当に深刻です。

子どもを個人として認める

――今日の対談を聞いている参加者の中には、教員1年目の方や教員志望の学生の方も多くいます。1年目を乗り越えるためのアドバイスなどがあれば、教えてください。

 小泉 教師になって痛感したのは、学校の中でどんな人間関係を築くかが大事だということです。同時に、学校の外でも校種や地域を超えた教員同士のつながりを持ったり、教員以外の異業種の人と関係をつくったりすることも大事です。

 例えば、誰もが未体験のコロナ禍では、他の先生がどんな実践をしているのかを聞いて、自分にできることをやってみることができますし、自分からは見えない問題を外部の人がずばりと指摘してくれることもあります。自分が今抱えている問題を、いろいろな人といろいろな視点で一緒に考えることができれば、子どもたちにも還元されると思うんです。そういう、立場の違う人たちと相談できる関係を、学生時代や若いうちにさまざまなコミュニティーに飛び込んでつくっていければいいなと思います。

――今、教員採用試験を受ける予定という参加者から「子どもと関わるときに最も大切にしなければいけないことは何ですか」という質問が来ています。

 小泉 それは、子どもを人として扱うことです。これ以上のことはないと思います。子どもは未熟な部分も確かにありますが、決して人として欠けた存在ではありません。気持ちや思考は大人と違わない。だからこそ、一人の人間として対等に関わっていくことが、教師として大事です。それがなければ子どもとの信頼関係も生まれません。

 櫃割 僕は教壇に日々立っているわけではないですが、子ども食堂で働いていたことがあって、そのときに志信くんと同じことを意識していました。つまり、子どもを子ども扱いしないということです。それから、子ども食堂でずっとやり続けて、これからも徹底していこうと思っていることがあります。それは、子どもを名前で呼ぶということです。名前でも苗字でもいいのですが、その子の名前をちゃんと認識して、話し掛けるときは名前を呼んでから話を始めるように意識していました。それこそが、僕は個人を認めることだと信じています。

(藤井孝良)

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【プロフィール】

小泉志信(こいずみ・しのぶ) 東京都東久留米市立南町小学校教諭/まなびぱれっと代表理事。東京学芸大学教職大学院卒。現在は教員1年目に起業した、一般社団法人まなびぱれっとを運営しながら若手教員として現場で奮闘している。教員1年目に寄り添う「はじめてのせんせい」プロジェクトやイベントなどを通して、教員と教員以外の人が交ざり合う未来の実現に向けまい進している。

櫃割仁平(ひつわり・じんぺい) 京都教育大学を卒業後、京都大学大学院教育学研究科に進学し、心理学を研究する。京都教育大学在学中の2018年に学生団体「Teacher Aide」を立ち上げ、全国35支部約300人のメンバーと共に、共同代表として各地の教員志望の学生と連携してイベントを開催するなどの活動を精力的にこなす。

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