【小泉志信教諭×櫃割仁平さん】 教職の魅力を守る

 文科省の実態調査でも明らかになったように、教育現場は人手不足で頭を抱えている。教員志望者をいかに増やし、若手が長く教員を続けられるようにするにはどうすればよいのか。自身も教員2年目である「まなびぱれっと」代表理事の小泉志信・東京都東久留米市立南町小学校教諭と、学生団体「Teacher Aide」共同代表で京都大学大学院教育学研究科の大学院生、櫃割仁平さんによる対談の2回目では、教職の魅力づくりについて聞いた。(全3回)

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初任校の職場環境は「ガチャ」?
教員の病気休職者および1カ月以上の病気休暇取得者の年代別状況

――昨年末に公表された「公立学校教職員の人事行政状況調査」では、精神疾患による休職や1カ月以上の休暇を取る教員が20代では増加が続いているという結果が明らかになりました。若手教師が感じているしんどさの原因は、どこにあるのでしょうか。

 櫃割 このことには僕自身も問題意識を持っています。若い世代の教師が精神的に追い詰められてしまう状況を少しでも改善して、精神疾患で休職したり、辞めてしまったりする人を減らしたい。

 この問題はすごく複雑で、いろんな原因が考えられますが、先ほど志信くんも言っていたように(「上」を参照)、一つには「何が分からないか分からない」状態、先行きの見通せない状況があると思います。

 学校の先生が1日をどうやって過ごしているのか、何となくイメージできていても、実際に学校に入ってみると何が起きているのかさっぱり分からないというようなことがあります。よく初任の先生からは、「4月の職員会議で先生たちが何を話しているか分からない」という話を聞きます。そして、よく分からないままどんどん先に進んでいく。そんな学校の環境に、初任の先生のしんどさはあるのではないでしょうか。

 それから、個人的にはあまり使いたくない言葉ですが、「親ガチャ」と同じように、着任した先の学校の先生方が、すごく優しくて面倒見がいいか、それとも自分のやり方を押し付けてきてやりたいことをやらせてくれないタイプかというのは大きいでしょうね。初任の先生でも「こんなことをしたい」との思いは誰もが持っているんです。それなのに、「今まではこうやっていたから、あなたも合わせてね」と頭ごなしに言われれば、やっぱりモチベーションは下がるし、「自分は何で先生になったんだろう」と、自分の決断を疑い始めてしまいます。だから、どんな先生と一緒に働くかはすごく大事なポイントです。

与えられる研修ばかりではパンクする

 小泉 確かに、公立学校の場合は、初任の先生がどんな職場環境の学校に配属されるか分からないですしね。実際に教師として働いている立場から言うと、例えば学級開きの係決めのやり方などは、自分自身も子どもの頃に体験しているんです。それなのに、いざやる側になると分からない。経験して分かっているようなことでも、立場が変わると分からないなんてことが多々あるんです。

 それと、研修制度の問題も大きいと思います。教員1年目は制度として初任者研修がしっかり位置付けられていて、僕自身もいろいろな先生に授業を見てもらったり、逆に授業を見させてもらったりして、勉強する時間がそれなりに確保されていました。ところが、2年目になると一気に少なくなって、年に数回くらいしかなくなります。

 初任研の良いところは、同じ年度にその地域で先生になった人たちと横のつながりができることです。悩んでいたり、うれしいことがあったりすると、同期と一緒に分かち合うことができます。でも、コロナ禍で初任研がオンラインになったり、対面でできたとしても終了後の食事会ができなかったりすると、やはり関係性を築きにくくなるなと感じます。

 研修内容のミスマッチもあるかもしれません。どんなに良い内容の研修であっても、目の前の子どもへの対応に必死で気持ちに余裕がなければ、主体的に学ぼうという気持ちにはなれません。教員免許更新制の見直しで、教員研修の在り方が議論されていますが、個人的には研修をもっと個に合わせたものにし、学校外での研修にも参加しやすいよう、柔軟なものにしてもいいように思います。いろいろな研修が上から与えられ続けるばかりだと、若手教員はそれだけで「いっぱいいっぱい」になってしまって、自分が抱えている課題の解決策を探す時間も奪われ、パンクしてしまいます。そういうしわ寄せが来てしまっているのも、若手の休職や離職が増えている原因の一つではないかと僕は捉えています。

教職のやりがいを守るためのこれからの10年

――参加者から質問が来ています。「残業代」がきちんと出る企業に就職するか、給特法で教職調整額を超える「残業代」が出ない公立学校の教員を選ぶか、ワークライフバランスへの不安で正直悩んでいるとのことです。

 小泉 学校の労働環境がゆがんでいることは、ここ数年で多くの人が知るようになりました。そんな中で働き方改革の流れは確かにあって、少しずつではありますが、状況は変わってきています。これからの10年で、より劇的な変化にしていかなければいけないし、そうなるはずだと期待しています。でも、そうした過程の中でネガティブな情報が飛び交ってしまうと、せっかく職場環境が改善されているのに、教員になりたくないという人が増えてしまいます。もちろん、問題のある現状が明らかになったからこそ変えようという流れになったわけですが、これから先は現場がどんな情報を発信していくかが問われるのではないかと思います。

教職のポジティブな発信がこれから重要になると語る小泉教諭

 確かに「残業」に見合った給料が支払われるようになれば喜ばしいですが、そもそも僕たち教師の仕事は学校という場があって、そこに通ってくる子どもたちがいて、何かを提供できるということが本当の価値だと思います。そういうポジティブな教師の魅力をしっかり伝えていかなければ、10年後に教師が魅力的な職業として語られることはないでしょう。間違ってはいけないのは、変えるべきところは変える一方で、譲れないところは譲らない。つまり、子どもたちに届けるべき価値を提供できる教師としてのやりがいは、これからも守らなければいけないし、伝えていかなければいけないということです。

 だから、この質問への回答は「僕たちがこれから10年かけて、あなたが働きたいと思える場所にしていきます」ということですね。

――まさにそれこそが「#教師のバトン」の狙いだったはずですね。「Teacher Aide」でも、この問題に取り組んでいますね。

 櫃割 志信くんが言った通りで、事実として大変な労働環境があって、それが世間に知られるようになったことは大きいと思います。今の、いわゆるZ世代と呼ばれる学生の中には「教職はコスパが悪い」と言う人も実際にいます。そうした合理的な判断をする人が多くなると、なかなか教師という仕事は選ばれにくくなってしまうかもしれません。

教職に対する学生の意識について説明する櫃割さん

 一方で、僕の友人がある教育大学で学生にアンケートをして、教職を選ばない理由を調べたことがあります。その結果を見ると、意外にも教師の働き方を理由にしたものは半数以下でした。中には、一度企業で働いてから教職を選びたいというポジティブなものもあって、教職がブラックであることが知れ渡ったから教員採用試験の倍率が下がったという見方は少し安直な気もしています。

 「Teacher Aide」に参加した学生の中にも、「『#教師のバトン』を見て不安になったけれど、実際の学校現場がどうなっているのかを知りたい」と言う人や、「まだ1年生だが、ここなら教師の話をたくさん聞けるから、4年間で見極めたい」と言う人がいます。学生は結構冷静に今の状況を見ていて、僕たちもまた、学校現場を変えていく上で追い風になるような関わり方ができたらと思っています。

やりたいことを過度に止めなければ、学校は働きやすい職場

――こんな質問も来ています。民間企業で働きながら教職を志望している方です。「企業なら誰でも仕事ができるようにマニュアル化されていて、効率化が徹底している。その単調な仕事内容に魅力が感じられず、教職を志望している。社会人経験者が教育現場に入るとき、どんな役割や視点を期待しますか」とのことです。

 小泉 当たり前が違うということ。そこに一番期待しています。これは若手教員にも言えることですが、学校の当たり前に対して、ちゃんと違和感を抱けるということです。外から入って来た人がそういう視点を提供してくれれば、学校自身が考え直すきっかけをもらえます。

 学校だって変わりたくないわけじゃないんです。ただ、長いこと同じ組織文化で過ごしていると、いつしかそれが当たり前になってしまって、違和感に気付けなくなってしまう。本当に子どものためになっているのか、なぜそれをするのか、だんだんとそういう疑問を抱きにくくなるんです。

 もちろん、今までの経験を生かして、子どもたちや私たちにギブできるものがあれば、どんどん提供してほしい。公立学校の教員の働き方は少し不思議なところがあって、1時間単位で年次有給休暇が取れるところは、民間ではあまりないのではないでしょうか。条件さえクリアすれば、僕みたいに起業することだってできるし、これからは「複業」教師として、教師と他の仕事を両立するような人も増えてくると思います。

 櫃割 僕は、ご質問にあったマニュアルについてちょっと話したいと思います。学校現場にはマニュアルと呼べるものがあまりなくて、この点についてツイッターを通じて意見を聞いてみたこともあるんです。個人的には、校務分掌などの業務については、ある程度見通しを持てるようにするためにも、マニュアルはあった方がいいと思っています。

 一方で、教師の仕事の核となる授業については、自分の個性を生かしてやりたいことをやれるようにするのがいいのではないかと思うんです。やりたいことを止めることを過度にしなければ、学校はすごく働きやすい職場になるんじゃないかなと思いました。

 質問者の方には、ぜひ先生になっていただきたいですね。学校は今、この人のような先生を必要としています。

(藤井孝良)

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【プロフィール】

小泉志信(こいずみ・しのぶ) 東京都東久留米市立南町小学校教諭/まなびぱれっと代表理事。東京学芸大学教職大学院卒。現在は教員1年目に起業した、一般社団法人まなびぱれっとを運営しながら若手教員として現場で奮闘している。教員1年目に寄り添う「はじめてのせんせい」プロジェクトやイベントなどを通して、教員と教員以外の人が交ざり合う未来の実現に向けまい進している。

櫃割仁平(ひつわり・じんぺい) 京都教育大学を卒業後、京都大学大学院教育学研究科に進学し、心理学を研究する。京都教育大学在学中の2018年に学生団体「Teacher Aide」を立ち上げ、全国35支部約300人のメンバーと共に、共同代表として各地の教員志望の学生と連携してイベントを開催するなどの活動を精力的にこなす。

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