【小泉志信教諭×櫃割仁平さん】 アクションの種

 養成から採用、研修に至るまで、若手教員を巡る課題は山積している。右も左も分からない1年目の教師を学校としてどう支えていくべきなのか。「まなびぱれっと」代表理事の小泉志信・東京都東久留米市立南町小学校教諭と、学生団体「Teacher Aide」共同代表で京都大学大学院教育学研究科の大学院生、櫃割仁平さんの対談の最終回では、若手教員が生き生きと働ける職場環境の条件について語り合った。(全3回)

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アドバイスを求めたら教えてほしい。ただの報告は受け止めてほしい

――今やどの学校にも1年目の先生が1人や2人いるのが当たり前になっていますが、若手教員が安心して働ける学校とは、どんな職場なのでしょうか。

 小泉 ちょうど今、「まなびぱれっと」がクラウドファンディングで、1年目の教員が最初の半年間を安心して乗り切れるような伴走型のプロジェクトをシステム化しようとしています。これまでの話の中でも何度か出ているように、やっぱり初任者にとって良い職場に恵まれるかどうかが、きれいごと抜きに重要で、学校の事情などで1年目の教員が振り回されるような状況があるのなら、学校の外から支える仕組みも考えないといけないと思ったのです。

 もちろん、学校の中で良い同僚の先生に恵まれた中で教師生活をスタートできればいいのですが、中にはそうした同僚がいなかったり、同僚の先生には相談できない悩みがあったりすることもあるんじゃないかと思うんです。だからこそ、学校の外に伴走する人をつくって、初任者も伴走者もお互いに高め合うコミュニティーを作りたいんです。

 特に今はコロナ禍で、ちょっと居酒屋で愚痴をこぼすなんてことも難しくなりました。だからこそ、本音を語り合える場所、困ったときに「助けて」と言える関係性を意図的につくっていく必要があると思います。その上で、ただ良い先輩がいるということだけではなくて、双方にとって刺激になる存在になることも大事です。

 櫃割 同僚の先生の存在が大きいというのは、その通りだと感じます。「Teacher Aide」でも、初任の先生がZoomで集まることがよくありますが、その会話を聞いていて痛感したのは、職場の外の人に話をするのと、中の人に分かってもらうのとでは、楽になる度合いが全然違うということです。もちろん、志信くんが挑戦しているクラウドファンディングのように、外とのつながりをつくることはすごく大切だし、僕自身も最初に支援をさせてもらいました。でも、やっぱり学校の中で「助けて」と言えることが、その人が抱えている問題を最終的に解決するためには必要なのではないかと思います。

 今日は絶対にこれだけは伝えなければという初任の先生の言葉があります。先輩の先生や管理職の方に対してです。「アドバイスを求めたら具体的に教えてほしい。ただの報告はただただ受け止めてほしい」。これが全てなのかなと。アドバイスを求めているわけではないのに過度に自分の中に入ってきたり、いろいろと押し付けられたりするのは誰だって嫌です。逆に、分からないことがあって教えてほしいときに、ふわっとした答えしか返ってこないと、それはそれで困る。面倒くさいかもしれませんが、今の若者はそういう難しい生き物だと思って接してもらえたらうれしいですね。

若手教員だからこそ、変えられることがある

――逆に、若い人材が毎年入ってくるというのは、少し前の学校ではあまりなかったことでもあります。若手だからこそできることも、あるのではないでしょうか。

 櫃割 今日の対談に向けて、ここ1週間くらいで10人近くの初任者の先生に話を聞きました。中には「昨日は本当につらくて学校に行けなかった。途中で電車を降りてしまった」という先生もいました。でも、これには僕も驚いたのですが、「若い先生だからこそ、変えられることがあると思いますか」と投げ掛けると、全員が「それは絶対にあります」と答えたんです。若手教員は大変な思いをしているけれど、絶対に自分たちにはやるべきことがあると思っている。これは、いろいろな人に知ってほしいことです。

 若いからこそ余白があるし、何にも染まっていないから、いろいろなことにチャレンジができる。新しい情報を仕入れていたり、ICTのスキルが高かったりする。柔軟にやれる強みもあると思います。若手教員は、今までの学校にはなかったスキルをインストールしていく存在なんです。

「若い先生や若い先生の成長を見守る先生たちの背中を押せる存在になりたい」と語る櫃割さん

 でも、若手がそういうことを実際にするのは、口で言うほど簡単ではありません。志信くんはまさにそのプロだと思うのですが、理解者の先生を見つけて、そこからちょっとずつ始めていくしかないと思います。僕の感覚では、どんな学校にも新しいことが好きな先生や、若手の挑戦を応援してくれる先生が必ず一人はいます。僕自身も、そんな先生たちの背中を押せる存在になりたいですね。

 小泉 若手は変えられることしかないと思いますね。物事に対して違和感を抱けることが、最大の強みです。それを周りが「世間知らずだ」とか言って出る杭を打ったり、相手にしなかったりすることの方が問題なんです。これまでのキャリアに関係なく、一人の人間としてお互いを尊重しながら話せる職場環境をつくる。そのことを周りに意識させてくれる存在が、若手教員だと思うんです。

 同時に、歩み寄ることも必要です。先輩は若手の違和感をくみ取って、見直すべきところは見直す。一方で若手も、自分の好き勝手にやっていたって、目指す理想には届きません。周囲の理解も得ながら、一歩一歩踏み出していく。そして、先輩から吸収できるところはどんどん吸収する。そうやってお互いに学び合っていければ、学校全体がアップデートされるのではないかと思います。

 もう一つ、若手教員の強みは何かと言えば、大学で最新のことを学んでいるということです。僕自身も今の職場で、最近読んだ本を共有したり、校内研究の講師を紹介したり、ICTの活用を広めたりしています。そうすると、少しずついろいろな先生が興味を持ち始めて、変わっていくんですよね。変化を受け入れることが、組織文化として根付いてきたなと実感しています。

一緒に「アクションの種」を育てよう

――若手教員が生き生きと働いている学校は、全体的に見ても良い学校だと思うんです。そういう学校を増やすために、これからどんなアクションが必要でしょうか。

 櫃割 一番取り組みやすいことで言えば、「つながる」ことだと思います。若くてフットワークが軽いうちに、教育関係者に限らずいろいろな人とつながっておく。そうすると、おのずと自分のやりたいことや、やらなければいけない課題が明確になってきます。

 特に今は、これからの学校や教育について、いろいろな「アクションの種」が芽を出そうとしている時期です。こうした動きに自ら参加してみたり、応援してみたりすると、ゆくゆくはそれが自分自身や職場に還元されるかもしれません。そうやって少しずつ、学校や社会が良い方向に進んでいくのかなと、僕はわりと楽観的に捉えています。

若手もベテランもお互いに高め合える関係性をつくることの大切さを強調する小泉教諭

 小泉 若手もベテランも関係なく、今の学校現場は過渡期にあります。GIGAスクール構想でタブレット端末が一気に入ったり、コロナ禍でこれまでの学校の当たり前が当たり前でなくなったりしています。裏を返せば、チャレンジしやすい環境に僕らは身を置いているんですよね。

 僕は、子どもという存在が目の前にいて、そこに価値を届けるのが教員の存在意義だと思っています。だからこそ、子どもたちに失敗しているところを見られても構わないから、失敗を恐れずいろいろなことに挑戦する姿を示していきたいんです。

 クラウドファンディングもその一つでした。正直なところ、教員研修を変えたくても、教育委員会を動かすのは大変です。だからこそ、教員をやりながら、ある意味では民間に近い立場で、外からアプローチしていくことにチャレンジしました。仁平くんが言っていたように、今こそ「アクションの種」に飛び込んでいくべきときなんです。

 僕は社会を良くしていきたいと本気で思っています。若手教員でもできるんだというメッセージをしっかりと発信していくこと、実際に組織や世の中を変えていく若い人を増やしていくこと。そういうことを形にしていけたらと思っています。

 だから皆さんも、この「アクションの種」を僕らと一緒に育ててみませんか。

(藤井孝良)

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【プロフィール】

小泉志信(こいずみ・しのぶ) 東京都東久留米市立南町小学校教諭/まなびぱれっと代表理事。東京学芸大学教職大学院卒。現在は教員1年目に起業した、一般社団法人まなびぱれっとを運営しながら若手教員として現場で奮闘している。教員1年目に寄り添う「はじめてのせんせい」プロジェクトやイベントなどを通して、教員と教員以外の人が交ざり合う未来の実現に向けまい進している。

櫃割仁平(ひつわり・じんぺい) 京都教育大学を卒業後、京都大学大学院教育学研究科に進学し、心理学を研究する。京都教育大学在学中の2018年に学生団体「Teacher Aide」を立ち上げ、全国35支部約300人のメンバーと共に、共同代表として各地の教員志望の学生と連携してイベントを開催するなどの活動を精力的にこなす。

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