【北欧の教育最前線】 ポスト・コロナ期に入ったスウェーデンの学校

 スウェーデン政府はCOVID-19を「もはや社会的脅威ではない」として、4月1日から新型コロナに関する規制を撤廃した。スウェーデンの学校は、世界に先駆けてポスト・コロナ期に入った。最近の学校ではウクライナ情勢の話題で持ちきりで、パンデミックの記憶は薄れつつある。


「ノーガード戦法」と揶揄(やゆ)されたユニークな対応

 スウェーデンの新型コロナ対策はかなり特殊だった。公衆衛生庁は当初、マスクの着用を推奨せず、水際対策にも消極的だった。これまでのパンデミックの経験から、どれだけ対策をしても、いずれウイルスは広まると考え、社会の機能を維持する方が得策と考えた。社会が混乱すると、景気が停滞し、ひいては弱者への負担が増えると懸念された。そのため、重症化リスクの高い人を隔離し、それ以外はなるべく普段通りに生活するように求めた。その楽観的な姿勢に、海外からは「集団免疫戦略」や「ノーガード戦法」と揶揄され、賞賛と非難の双方から激しい議論が向けられた。

おやつの時間も向かい合わせで

 マスクについては、着けるとその効果を過信して接近して会話をすることになるため、かえって感染リスクが高まると考えられた。ソーシャルディスタンスを重視したため、マスクの着用を推奨しない、という方針になった。もとより、品不足の影響でマスクが手に入らないという状況もあった。多くの保護者は、学校内での感染よりも、登下校のバスで感染することを恐れた。そのため、自家用車で送り迎えをしたり、付き添って徒歩で登下校したりしていたという。政府は2メートルの間隔を確保するように求めたが、教室では物理的に不可能で、そのうちほとんど誰も気にしなくなった。

コロナ犬

 プリスクール(幼保一体化された施設)や基礎学校(日本の小中学校に相当)の一斉休校は一度も行われなかった(高校や大学は早い時期からオンライン授業になった)。学級閉鎖や学校閉鎖は現場の判断で行われたが、まったく閉じなかった学校も多かった。これは、子供の教育を受ける権利を保障するという面と、子供を預かることで保護者が仕事に出掛けることができ、社会的機能が維持されるという面、さらには、子供たちを家庭任せにせず、社会で養護する必要があるという考えがあった。

 加えて、政府が私権の制限に抑制的で、法律上の制約から一斉休校に「できなかった」という面もある。学校では、複数の教室に分散して、先生が別の教室から遠隔授業をしたり、自宅からオンライン授業を実施したりすることもあったが、パンデミック前からICTを活用していたので、現場ではそれほど困らなかったという。

 子供たちの学校は開いていたが、保護者の多くは在宅勤務になった。パンデミックの初期には、多くの男性がひげを伸ばした。また、パンやパスタを手作りする人も増えて、スーパーでは小麦粉が一斉に売り切れるという現象も起きた。家にいる時間が長くなったことから、犬を飼う家庭が増えた。エンデミックのいま、職場に出勤しなければいけなくなったため、この「コロナ犬」の預け先が足りずに社会問題化しつつある。スウェーデンでは犬を家に置き去りにすることが法律で禁じられているため、仕事に出るときには「犬の保育園」に預ける必要があるが、飼い犬の急増で待機犬があふれている。犬の世話を理由に在宅勤務を希望する保護者もいる。

ポスト・コロナのスウェーデンの学校
街中ではマスクを着けている人を見つける方が難しい

 先週、ストックホルム郊外の学校を訪問した時には、誰もマスクをせず、コロナ以前と変わらない生活を送っていた。唯一の痕跡はカフェテリアの入り口に消毒液が設置されていたことぐらいだった。

 職員室では、教員たちが「もうコロナのことは覚えてないわ」と言い合う場面も見られた。比較的緩い対応だったとはいえ、スウェーデンの先生たちにとっても、パンデミックが大きな負担だったことは確かだ。しかし、終わってみれば、言うほどのことでもなかったかもしれない、という感じだろうか。

 長くて暗い冬を耐え、ようやく春を迎えた時期とも重なり、学校はさわやかで明るい雰囲気だった。

※コロナ禍の学校の様子は、園山大祐・辻野けんま(編)『コロナ禍に世界の学校はどう向き合ったのか ―子ども・保護者・学校・教育行政に迫る』(東洋館出版社、2022)を参照。

(林寛平=はやし・かんぺい 信州大学大学院教育学研究科准教授。専門は比較教育学、教育行政学)

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