【学校改革】 非認知能力を育む授業改革

 子どもたちのウェルビーイングには、テストでは測れない非認知能力が必要だ━━。3月まで大阪府の泉佐野市立新池中学校で学校改革リーダーとして取り組んでいた徳留宏紀氏は、非認知能力の重要性についてそう指摘する。インタビューの2回目では、徳留氏が実践した非認知能力を向上させる授業改革の具体的な内容と、授業動画を活用した自律的で協働的な新しい学びの在り方について聞いた。(全3回)

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授業の中で育む非認知能力

━━学校改革が始まって3年目の2020年度からは、再び授業を受け持つことになったそうですね。ご自身の授業にはどんな変化がありましたか。

 3年目は改革リーダーを務めつつ、2年生と3年生の理科の授業も持つことになりました。両立は大変でしたが、やはり授業ができることはうれしかったですね。

 私は、子どもたちが将来幸せに生きていく上で、教科学習を通じた学力だけでなく、テストなどの数値では測れない「非認知能力」を向上させていく必要があると思っています。

 そのため、学習するときの行動指標として「授業の中で育んでいきたい非認知能力と行動レベル」というものを作って、生徒たちと共有したんです。

━━なんだか難しそうですが、具体的にはどういうことなのですか。

 難しくはないですよ。まず、授業で付けてほしい非認知能力を自分と向き合う力として「自制心」「忍耐力」「俯瞰力」、自分を高める力として「向上心」「自尊心」「楽観性」、他者とつながる力として「敬意・尊重」「受容・共感」「相互理解」の9つに分類し、行動指標として5段階のレベルを設定しました(図参照)。

授業で活用した非認知能力の行動指標

 例えば、「向上心」だったら、レベル1が「失敗を恐れずに挑戦することができる」で、レベル5が「自分が嫌いなことや苦手なことであっても、失敗を恐れずに自分の成長のために繰り返し挑戦することができる」です。

 生徒たちは授業の前に「今日は向上心を意識して学んでいこう」とか、「今日は忍耐力を意識して取り組んでみよう」とかいった形で、どんな非認知能力を付けたいのかを自分で設定した上で学習に取り組みます。

━━意識させてから授業するようにしたのですね。

 今、私が非認知能力について学ばせていただいている岡山大学の中山芳一准教授は、著書の中で「非認知能力は付けさせるものではなく、自分で伸ばしていくもの」「自分が伸ばしたい、自分にとって必要だ、という自分自身の意識によって、自らの感情や行動を変えていくことができる」とおっしゃっています。

 こうして授業に取り組んだことで、生徒からは「自分がなりたい姿勢を想像することで、何を目標に頑張ったらいいのかが分かりやすくなったし、やるべき課題も自分の中で順序立てて取り組めた」とか、「自分はあまり勉強が得意じゃないけれど、行動目標を決めることで『今日はこれに意識を向けよう』と集中でき、授業があっという間だった。自主的に勉強することも増えた」といった声が上がっていました。

 9つの非認知能力について、その年の4月と7月に生徒にアンケートを取ったところ、4月時点よりも7月時点の方が「できている」と肯定的な意見が増加したという結果も出ています。

 また、授業の終わりには、毎回振り返りシートを書くようにしました。それによって自分の学びをメタ認知する力も高まったと思っています。

授業動画を活用した個別最適な学び

━━授業動画を制作されていたそうですが、どういう目的があったのですか。

自律的で協働的な学びを実現するために、授業動画を活用した

 子どもたちの学びを自律的にしたかったからです。通常、授業というのは一回きりで、理解できていない子がいても先に進んでいってしまうようなこともありました。そこで、あらかじめ授業動画を作り、それを生徒たちが自宅で見てきてもいいし、授業中に見てもいいことにしたんです。そうすることで、子どもたちは理解できるまで、何回でも授業を見ることができます。

 別に授業動画を作りたかったわけではなく、どうすれば子どもたちが自分のペースで、自分のレベルに合った学びを、他者と一緒にやっていけるのかを考えた上で、授業動画が必要だったのです。

━━全授業の動画を作ったのですか?

 そうです。コロナ禍による一斉休校中の時間を活用して、集中的に作りました。私の身ぶり手ぶりが伝わるようにしたり、スライドがきれいに見えるように工夫したり、結構凝りました。周りからは大変なんじゃないかと言われましたが、慣れたらそんなこともありませんでした。私は授業もやるし、改革リーダーもやる立場だったので、その両立を図る上でも授業動画が有効だったんです。

 それに、コロナ禍の休校中はオンライン対応が求められるようになったことで、教員も子どもも「学校に行く意味って何なんだろう?」と考えましたよね。

 私は生徒たちが学校に来る意味は、仲間と一緒に学べたり、分からないときに質問できたり、分からないと思っている子を助けたりできることだと思いました。

 これまでのような教え込むスタイルでは、そういう学びは実現できません。でも、授業動画を作ったことで私は授業中フリーになれたので、生徒同士のコミュニケーションが生まれるような学び方を提示したり、個人で集中できるような課題を用意したりしていました。より困り感のある生徒たちをサポートすることもできました。

 また、演習プリントも3つのレベルを用意して、子どもたちが自ら選択できるようにしました。そして単元の終わりに生徒たちは理解度を測るために学習内容を振り返り、理解が足りないところはもう一度、授業動画を見るなどしていました。

━━子どもたちの学びはどう変わっていったのですか。

生徒と共に「新しい授業の形」をつくっていった

 年度の後半は、良い意味で私が必要ない状態になっていました。質問もほとんどされないんですよ。なぜなら、生徒同士で学び合っているからです。困ったら、まず友達に聞こうという感じになっていましたね。「学びは自分のためにする」ということを、子どもたちも十分に理解していました。

 もちろん、こういう取り組みは初めてだったので、生徒には「先生はこういう授業を今、ベストの方法だと思ってやっているけれど、『もっとこうした方がいい』ということがあったら言ってほしい」と呼び掛けていました。授業に関するアンケートも小まめに取って、意見を書いている子がいたらすぐに聞くなどしながら、生徒と一緒に新しい授業の形をつくっていきました。

(松井聡美)

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【プロフィール】

徳留宏紀(とくどめ・ひろき) 1990年、大阪市生まれ。大阪府立天王寺高校、首都大学東京(現:東京都立大学)卒。(一社)ALL HEROs常任理事。今年3月まで大阪府泉佐野市立新池中学校教諭。校内では学力向上コーディネーターとして、教科学習を通じて非認知能力&認知能力の向上を実現。推進リーダーとして取り組んだ学校改革では「教員の心理的安全性を高める組織マネジメント」で19年度日本教育公務員弘済会大阪支部最優秀賞受賞。今年4月より岡山大学大学院で非認知能力や教育心理について学んでいる。教員時代のフィンランド教育視察が自身の教育観や授業観の転換に大きく影響しており、23年1月からは現地の学校で勤務する予定。中・高・大学にてキャリア教育、教職員・保護者向けの非認知能力に関わる講演活動も行っている。Edcamp NANIWAの実行委員長も務める。

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