【エジプト編】 始まった日本の「トッカツ」

「トッカツってなんだ?」

 どのくらいの方が、このことを知っているだろうか。日本の教育システムが、遠い中東の国で取り入れられていることを。私がエジプトに渡って1年がたったころ、小学1年生の時間割に、その言葉が表れた。「トッカツ」。そう、日本の「特別活動」がエジプトで始まったのだった。

 それから、エジプトの先生たちの話題は、このことに集中した。「トッカツってなんだ? 教えてくれ」とたくさん質問された。私が日本から来た教員であること、および「トッカツ」が日本の教育に基づいたシステムであったので、聞いたのだろう。私は自分の語学力も相まって、シンプルにこう伝えていた。「考えることだよ」と。

「考える」ことがトッカツの中心

 私にはそれより以前、いくつかのエジプトでの授業を見て思ったことがあった。とある先生のアラビア語の授業。先生はホワイトボードいっぱいにアラビア語を書き、それを子どもたちに「書きなさい」と指示した。ひたすらそれを写すことに時間をかけていたのである。そういえば、別の学校で見た高学年の社会の授業でも同様の光景があり、真面目に取り組む子どもたちの様子が印象的だった。

 また、低学年の授業を見た時には、先生の話すアラビア語をひたすら繰り返す子どもたちの姿があった。何回も何回も、大きな声で繰り返し発音をする。多くの子は、先生に気に入られよう、褒められようと、一生懸命に声を出す。けなげに頑張る子どもたちは、とても活動的に見えた。

トッカツの授業の様子

 しかし、それらの授業は、活発な学びを感じたと同様に、子どもたち自身が「考える」場面が少ないのではないかということを感じた。そして聞き取りや見学などにより、エジプトでは上記のようなスタイルの授業が一般的であり、そのような学びの仕方が当たり前になっていたことが分かった。

 そうした現状があったからこそ、私はシンプルに「考える」ということがトッカツの中心であることを説明し、「子どもたち自身が考えて、話し合って、自分たちで決めて、そしてそれをちゃんと実行することだよ」ということを授業実践という形で伝えていった。

子どもたちの輝き

 ある学級指導の授業の実践を紹介しよう。その日のテーマは、「お手伝い」。「つかむ」の段階では、子どもたちが、家でどんなお手伝いをしているか、自分の役割を発表し合った。「探る」の段階で、家でお手伝いをするのはなぜか、どんな気持ちがするかという、お手伝いの良さについて話し合い、「見つける」では、学校でできるお手伝いについて意見を出し合った。

積極的な子どもたち

 ここまでは、日本の授業でもありそうな流れとなった。しかし、その後の子どもたちの輝きが特にすごかった。「決める」の段階で、誰がクラスのお手伝いをすることにするかと尋ねた瞬間、80人クラス全員の手が一斉に挙がったのだった。「アナ!」「アナ!」「アナ!」(わたしという意味)。

 私も、一緒に取り組んでいた担任の先生も、共にこれには驚いた。子どもたちは、「自分たちでもっと頑張りたい」という意欲であふれていた。子どもたちの喜ぶ姿、考え奮闘する姿を見ることができ、「トッカツ」がこの国で成功する可能性を見いだすことができた。

日本の学校を参考に作られたEJS

 エジプトの教育カリキュラムに「トッカツ」が導入されたと同時に、エジプトと日本の教育協力の1つで、新たなことが始まった。EJS(エジプト日本学校)である。これは、「日本式の教育をする学校」ということで、その年、エジプト中に35校が開校された。

 この学校は、日本の学校を参考に作られたもので、これまでエジプトの学校にはなかった1人1つの机、ロッカー、職員室などの設備に加え、日直制度、掃除の時間、特別活動の時間など、日本の学校システムがふんだんに盛り込まれた学校であった。

 そして、その始まりとともに私の活動は、これまで住んでいる地域の学校に通うだけであったのが、時に長距離バスで、時に飛行機で、エジプト中のEJSに出掛けるようになったのだ。そこでも、主に伝えていたことは1つ「考えることだよ」である。目指す子どもたちの「考える姿」を見せるために、エジプト各地で、キャラバンと題した公開授業に着手し始めたのだった。

(加藤奏太=かとう・そうた 元JICA協力隊員。現在は、愛知県にある学校法人江西国際学園で日本人教師として勤務)

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