【学校改革】 生徒が中心となって創造する学校へ

 学校改革を持続可能なものにするために、もっと子どもたちを前に出したい――。大阪府の泉佐野市立新池中学校で、この3月まで4年にわたり学校改革のリーダーを務めた徳留宏紀氏は、そうした思いを持って生徒会活動の改革にも乗り出した。「これからの学校をつくっていくのは自分たちだ」と生徒たちが動き出すための仕掛けとは、どのようなものなのか。インタビューの最終回は生徒会改革の話のほかに、教員生活をいったん離れて4月から新たに取り組んでいることについても聞いた。(全3回)

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学校まるごとオンラインミーティング

――これまで職員室や授業の改革について伺ってきましたが、新池中学校では生徒会活動も大きく変わったそうですね。

 改革を進めていく中で、職員室の心理的安全性が高まり、授業も変わっていきました。そろそろ自分も異動があるかもしれないし、他の先生たちも順々に入れ替わっていってしまいます。そのため、改革を通して得た文化を一過性のものではなく、持続可能なものにするためには、どうしたらいいかと考えていました。

生徒が前に出る学校へと変えていった

 そのためには「もっと子どもたちを前に出したい」と考えるようになっていきました。子どもたちが「いつかあんな先輩になりたい」と思えるような文化をつくれば、引き継がれていくのではないかと思ったんです。そうして生徒会を中心に据えた改革をスタートさせました。

 実はそれ以前の新池中の生徒会は、あるにはあるけれど、「実際、何をやっているの?」という状態でした。そこで「前例にとらわれない、生徒が創造する日本一の取り組み」を目指して、活発化させていくことにしました。

 改革は2020年度の後期から始まったのですが、まず取り組んだのがリクルートとのプロジェクトです。当時、コロナ禍で異学年交流ができない状況が続いていましたが、放課後学習塾として3年生が1年生に教える「新池塾」をつくる方向で動いていました。その取り組みをより良くしていくために、リクルートにも協力してもらい、生徒会の生徒たちに企画書の書き方やプレゼンの方法などを教えてもらうようなプロジェクトを立ち上げたのです。

 時を同じくして、20年11月には他校に先行して1人1台端末が導入されました。そこで、1人1台端末を生徒会活動で先行して活用し、その試行錯誤を学校全体のICTのルールづくりに生かしていきました。

 何より大きかったのが、生徒主体で新池中をつくっていくために、昨年3月に開催した「第1回学校まるごとオンラインミーティング」です。グーグル・ミートで全クラスをつないだ上で、各クラスでは学級委員が中心となって、ジャムボードなどを使って意見を出し合いました。そうして各クラスで出た意見を、再びグーグル・ミートで全校生徒に共有していきました。

 オンラインミーティングの司会進行は、生徒会の生徒たちが務めました。私たち教員は完全に黒子に徹して、ミーティングは生徒主導でやり遂げました。

普通の公立中でも変われる

――今年3月の「第4回学校まるごとオンラインミーティング」を拝見しました。新池中の良さについて、多くの生徒たちが「先生と生徒の距離が近い」「先生が生徒を褒めてくれる」「Chromebookを使って最先端のことをやっている」と言っていたのが印象的でした。

 「先生と生徒の距離が近い」なんて、私が着任した頃にはまったく考えられないことでした。学校も荒れていましたし、生徒指導も教師が生徒を抑えつけるような指導が中心でしたからね。この言葉を聞いて、「あぁ、新池中は変わったなぁ」と教員みんなでうれしくなりましたね。

普通の公立学校でも変われることを示したかった

 新池中は大阪のなんてことない普通の公立中です。でも、そういう普通の公立学校でも変われるのだと信じたかったし、みんなが本気でやれば変われることを示したいと思っていました。

 そして、生徒会改革を通して「子どもたちが前に出る学校」になれば、もっと明るい未来が待っているということも証明したかったんです。いろいろな子が輝くチャンスが増えれば増えるほど、教員側は生徒を褒めたり、認めたり、励ましたりできます。そんな積み重ねで学校は変わっていくんじゃないでしょうか。

 こうやってみんなと見たかった景色を見ることができて、4年間、改革を推進してきて本当によかったと思いました。

どんな学校をつくりたいのか、みんなで共有する

――改革リーダーとして4年間、意識していたことはどんなことですか。

 まず先生も生徒もリスペクトすることです。何か新しいことをするとなると、今までやってきたことが否定されるように思う人もいますが、決してそうではありません。

 例えば、1人1台端末の活用にあたっては、「端末が導入されたことで、今までの教育実践が否定されるわけではない」ということを先生方にも伝えました。ベストミックスしていくことを大事にしていましたし、先生方が今までやってきた授業を無理に変えないということも意識していました。

 管理職がずっと後方支援してくれていたことも大きかったですね。生徒指導寄りだった学校を授業中心にするんだと腹をくくって、最初にそのことを全教職員に打ち出してくれました。そのおかげで私はどんどん外に出て、外で学んできたことを学校の中に取り入れることができました。

 また、どんな学校をつくりたいのか、みんなで共有することも意識していました。教員とは校内研修でそういう思いを共有していましたし、子どもには「学校まるごとオンラインミーティング」を通じて「どんな学校にしていきたいのか」を本気で問うていました。

 改革リーダーをやらせてもらったおかげで、自分自身も大きく変わったと思います。いろいろな学びを得て、別の人間になったと思えるぐらいです。もし、改革リーダーをやっていなければ、学校に文句ばかり言い続けていたかもしれません。

 特に教員1、2年目はいろいろな意味で未熟で、今思えばもうちょっとうまくやれたんじゃないかと思うことがあります。ただ、私より後輩の先生方に多いのですが、なんでもそこそこうまいことやれてしまう人って、学びが少ないと思うのです。私はたくさん失敗もして、うまいことやれなかったけれども、その分、伸びしろがあったのかもしれないなと感じています。

フィンランドの学校現場で修業

――3月末で教職からいったん離れられました。今、取り組んでいることを教えてください。

 この4月から岡山大学大学院で、教育心理学の統計を専門としている先生に師事して学んでいます。また、同学の中山芳一准教授とも非認知能力についての研究を進めています。

 私自身は、データより肌感覚を大事にしているタイプです。だからこそ、統計やデータの扱い方を学んだ上で、数値では図れない非認知能力について語れるようになりたいと思っています。

 また、中山准教授、漫画・テレビドラマ『ドラゴン桜2』の監修も務めた現役東大生の西岡壱誠さん、キャリア教育コーディネーターの三ケ田浩二さんとともに、(一社)ALL HEROsを立ち上げ、日本の教育の未来を明るくしていくための活動を始めています。

来年はフィンランドの学校現場で修行予定

 来年の1月からはフィンランドに行く予定です。教員時代は日本各地の気になる自治体を視察で訪れ、次は海外の教育を知りたいと思って6年目の時にはフィンランドでの教育ツアーにも参加しました。現地では、ヘルシンキ大学の附属小中学校など、いろいろな教育機関を見て回りました。

 中でも印象に残っているのは移民サポートです。日本にはないものを知れたことで、新たな価値観が芽生えました。やっぱり現地に行ってこそ学べることがたくさんあると思ったので、来年1年間はフィンランドの学校現場に入って修行してこようと思っています。現地ではホームステイになるので、それも楽しみです。

 今のところ、帰国してからどうするかは決めていません。研究の道に進むのか、教職に戻るのか、もっと広い視点から教育に携わっていくのか……。フィンランドの良さも、フィンランドから見た日本の良さも、その両方を体感して、これから先の日本の教育に貢献していきたいと考えています。

――今の子どもたちに、どんなことを伝えたいですか。

 思っているだけじゃ変わりません。だから、まず行動してほしいと思います。でも、「こうなってほしい」と思っていることを、子どもだけに求めるのはフェアじゃないですよね。だから、私は自分自身が行動することで「こうなってほしい」姿を示していきます。

(松井聡美)

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【プロフィール】

徳留宏紀(とくどめ・ひろき) 1990年、大阪市生まれ。大阪府立天王寺高校、首都大学東京(現:東京都立大学)卒。(一社)ALL HEROs常任理事。今年3月まで大阪府泉佐野市立新池中学校教諭。校内では学力向上コーディネーターとして、教科学習を通じて非認知能力&認知能力の向上を実現。推進リーダーとして取り組んだ学校改革では「教員の心理的安全性を高める組織マネジメント」で19年度日本教育公務員弘済会大阪支部最優秀賞受賞。今年4月より岡山大学大学院で非認知能力や教育心理について学んでいる。教員時代のフィンランド教育視察が自身の教育観や授業観の転換に大きく影響しており、23年1月からは現地の学校で勤務する予定。中・高・大学にてキャリア教育、教職員・保護者向けの非認知能力に関わる講演活動も行っている。Edcamp NANIWAの実行委員長も務める。

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