最大の問題は給与 日本よりはるかに深刻な米国の教員不足

 公立学校の教員不足は先進国共通の問題になっている。本連載でもすでに英国やオーストラリアの教員不足について指摘した。日本も例外ではない。だが米国は日本よりはるかに深刻な事態に陥っている。

 米シンクタンク「Economic Policy Institute」は今年2月3日、「Raising pay in public K-12 schools is critical to solving staffing shortages(公立学校の給料引き上げが学校のスタッフ不足の解決にとって極めて重要)」と題する報告を発表した。同報告は、教員不足は短期的な現象ではなく、2008年のリーマンショック後の不況から始まって現在も続いていており、コロナ禍によってさらに深刻な状況になっていると指摘している。

 米国は日本と違い財政が悪化すると、地方自治体はまず教員の削減を始める傾向がある。コロナ禍の影響を最も強く受けたのはレジャー産業であるが、次に雇用者が大幅に減少したのは地方自治体の雇用だ。地方自治体の職員の中で特に雇用減少が際立っていたのは、公立の小学校と中学校の教員である。新型コロナの感染拡大が始まった20年2月から21年12月の間に、教員数は37万6300人減少している(4.7%減)。州によって減少率は異なるが、アラスカ州では17.5%、バーモント州では11.6%、ニューメキシコ州では10.7%減っている。日本では信じられない数字だ。

 同報告は、本来ならコロナ禍で学校における生徒の安全確保やカウンセリング、補習などで教員の増強が必要な時期に大幅な減少が起こっており、教育現場の実態は数字以上に深刻だと説明している。

 すでに記したように米国の教員不足はリーマンショック後から始まっている。19年10月から21年10月の間に公立小学校と中学校の雇用者数は4.7%減少しているが、教員は6.8%の減少となる。補助教員の数は2.6%減っている。米国の学校はスクールバスが一般的に利用されているが、バスの運転手は14.7%も減っている。スクールバスが利用できないと、通学できない生徒が多数出てくる。

 また同報告は、公立学校5校のうち1校はすでにコロナ禍の前から、欠員を補充するのが難しい状況に陥っていたと指摘している。11年から12年には67.2%の学校が教員の欠員が出ていると答えていたが、15年から16年にはその比率は78.8%にまで増えている。この間、欠員補充が「極めて難しい」と答えた学校の割合は、19.7%から36.2%へと倍増している。

 欠員補充が難しくなっている理由は、教員志望者の減少である。08~09年と15~16年を比べると、教員資格を持った人の数は15.4%減っている。教員養成プログラムに参加した人の数も37.8%減少。養成プログラムを修了した数は27.4%減少している。教員の“需要”は生徒数の増加や教育内容の高度化で増えているにもかかわらず、“供給”は減少し続けているのである。

 教員志望者の減少に加え、教員の転職率の上昇も、教員不足をより深刻なものにしている。同報告は「教員の転職率の上昇は、生徒の学習成果に大きな影響を与えている。特に貧困地域にある学校では、その影響は深刻である」と指摘している。さらに深刻な事態は、「離職を考えている教員の数が増加している」ことである。

 なぜ教員不足が起こっているのか。同報告は3つの要因を指摘している。①職場環境の悪化②教員に対する専門的な支援制度の不足③低賃金――だ。

 米国の教育環境は日本と比べ物にならないほど厳しい。学校内の暴力事件の多発などに加え、学校が政治的な対立の場となっているからだ。現在、米国の公立学校で最大の問題は、奴隷制度をどう教えるかである。「Critical Race Theory」という考え方があり、奴隷制度問題を積極的にカリキュラムに組み込むべきだと主張するリベラル派と、それを否定する保守派の対立が学校に持ち込まれて、教員は対応に苦慮している。人種問題は教育現場をより厳しいものにしている。

 また、低賃金は教員離れの最大の問題である。同報告は「教員の所得と、同程度の教育を受けた同世代の人の所得の格差が長期にわたって拡大している」ことが、教員不足の背景にあると指摘している。公立学校の教員の平均給与は1996年から2018年の間、ほとんど上昇していない。他方、同程度の大学教育を受け、他の分野で働いている人の平均賃金は22%増加している。同報告は「80年代以降、教員の賃金格差は一貫して拡大している」と指摘している。教員と他の職業の賃金格差は1996年が6.1%であったが、2019年には19.2%にまで拡大している。

 こうした低賃金に対応するために、「セカンド・ジョブ」を持ったり、「アルバイト(moonlighting)」をしたりする教員の数が増えている。15~16年の調査では、教員の59%が何らかの所得を得る仕事に就いたことがあると答えている。11~12年では、その比率は55.6%で、増加傾向が見られる。

 各国に共通しているのは、厳しい労働環境と低賃金だ。その結果、教員の離職率が上昇し、教師を目指す学生が減少している。同報告は「解決策は地方自治体の歳入を増やすこと」と指摘している。詰まるところ、予算の問題に帰結してしまう。教員不足を解消する道は極めて遠い。

(中岡望=なかおか・のぞむ ジャーナリスト)

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